「岩稜に登ろうぜっ!」
登山の醍醐味と言えば足元がスパッと切れ落ちた高度感と大展望を楽しめる岩稜だ!と豪語する山好きの皆様、こにゃにゃちわ。
脱初心者を目標に今年は岩稜にチャレンジしようと思ってドキドキしてる人、鎖場と聞いただけで鼻息が荒くなってしまう変態まで、みんなが愛してやまない岩稜の名峰達。
今回は関東近郊の岩場/鎖場の入門編から上級編までの定番の山をピックアップしてみました。
すべて無雪期における自分の尺度で勝手につけたグレーディングなので異論あってもご容赦下さい。
ちょっとずつ鎖場に慣れてきたら、次の夏はアルプスの3大キレットやジャンダルムにチャレンジしてみては如何でしょうか?
ただここで紹介する上級編の山々はジャンダルムや大キレットより難易度は高いしスリル満点だけどね!
では行ってみましょう。
初級編
本格的な岩稜ではないけど、鎖場に慣れるにはもってこい!
まずは準備体操がてら軽く鎖場を体験できる山を3座ピックアップしました。
①【奥武蔵】伊豆ヶ岳(いずがたけ)
まず最初にご紹介するのは奥武蔵を代表する「伊豆ヶ岳(いずがたけ)」。こちらがその名物「男坂」です。
傾斜は緩く、鎖も設置されてるので見た目よりも簡単に登れます。まず最初に岩場にチャレンジするなら私はここをお薦めします。
奥武蔵は東京からのアクセスが良く、景色も良い。点在する寺社の狛犬には狼が祀られてて、奥武蔵特有の狼信仰は見どころの1つ。
下山後は定番のさわらびの湯で汗を流して飯能駅に帰る、ヤマノススメ巡礼の旅。
http://hibihansei.jp/izugadake-2015-11-29/
②【秩父】四阿屋山(あずまやさん)
コース:つつじ新道
四阿屋山(あずまやさん)は2月〜3月の蝋梅(ロウバイ)や福寿草で有名な山です。
春の息吹を感じながら、急峻な岩登りを楽しむのも乙です。
難易度低めな岩場が連続して出てきますが、その中でもこの上の写真の1箇所だけが垂直な壁で大変でした。
鎖場は腕力ではなく足で登る!と分かっていても、ここは腕力だけで通過したのを覚えてます(笑)
先程の岩壁を過ぎてからも山頂まで岩場が続くのがこのコースの特徴です。
岩稜特集のためここでは初級者コースとして紹介してますが、通常の一般ルートの中では文句なしの上級者コースです。くれぐれも最後まで油断はしないで下さい。
この写真の注意書きの通り、鎖場では順番を守ることがとても重要です(石を落とさないことも大事)。
1本の鎖に何人もぶら下がったら大事故に繋がりかねないので、必ず前の人が通過したのを確認してから鎖を持つ様にしましょう。
通過したら次の人に向かって「OKです!」と声かけしてあげたら良いですね。
春山登山の楽しみの一つ、ロウバイの花。
四阿屋山に来たならロウバイ越しに見える武甲山を眺め、それまでのスリリングな時間を思い返しながらからのんびりお団子でも食べて下さい。
http://hibihansei.jp/azumaya-2019-2-16/
③【御坂】十二ヶ岳(じゅうにがたけ)
コース:毛無山~十二ヶ岳~鬼ヶ岳
富士周辺の御坂山地の十二ヶ岳(じゅうにがたけ)をご紹介します。
その名の通り、十二ある岩稜の小ピークを次々と越えていく楽しいルートです。
毛無山からスタートして一ヶ岳、ニヶ岳と進み段々とレベルも上がってくるのがこのコースの面白いところで、最後の十一ヶ岳、十二ヶ岳になるとなかなかスリリングです。
御坂山地なだけに富士山は目の前で眺望は文句なし。
ただ、十二ヶ岳だけではちょっともったいないので、より眺望の良い鬼ヶ岳まで足を伸ばしてみる事をお薦めします。
鬼ヶ岳と節刀ヶ岳からの眺めはその山旅を素晴らしいものにしてくれる筈です。
アクセス良し、景色良し、登りがごたえ良しの三拍子揃った岩稜の名山です。
自分は秋に登りましたが、下山中に西日に照らされた紅葉が感動的な美しさで全然足が前に進まず、帰りのバス停に着く頃には真っ暗になってしまいました。
晩秋の河口湖周辺は夜になるととても冷えるので防寒もきちんと準備しておいて下さい。
http://hibihansei.jp/onigatake-2019-11-6/
中級編
さて、ここからが中級です。初級と中級の違いは鎖場の長さはもちろん、標高差や全体の行程の長さも考慮しました。
危険度も増しますが、岩稜の醍醐味を味わえる素晴らしいルートをピックアップしたので、少し岩に慣れてきたら是非チャレンジして下さい。
①【奥秩父】乾徳山(けんとくさん)
岩場に少し慣れてきたら奥秩父の乾徳山(けんとくさん)にステップアップ。
山頂に近づくにつれ鎖場が連続して出てきます。
そしてこの写真の鎖場が乾徳山名物の20mの鎖場。なかなかスリルあります。
巻き道もありますが、この鎖場を楽しみに来たのだから果敢にチャレンジしてみましょう。
奥秩父の山らしく大きな富士山の眺めが素晴らしいです。
山頂に近づくにつれ、20mの鎖場以外にも鎖場が連続してでてきます。
電車とバスだけで気軽にアクセスできる名山です。
http://hibihansei.jp/kentoku-2017-11-19/
②【茨城】奥久慈男体山
コース:健脚コース
茨城県は登山では馴染みの薄いエリアですがこんな面白い山があります!
奥久慈男体山(おくくじなんたいさん)は低い山ですが遠目にもゴツゴツしたザ・岩稜。実際に歩いてみれば岩場の連続、鎖場の波状攻撃で満足させてくれること間違いありません。
そして人気の山でもあるため上の写真の通り、渋滞になり易いのも特徴です。
鎖場の傾斜は緩く、足場の確保も容易なので難易度は低めです。入門編の山に入れるか悩みましたが、これが山頂までずーっと続きそれなりに体力が必要なので、中級編に入れてます。
この山は俄然秋を薦めます。特に月居山(つきおれやま)の山頂はご覧の通り赤、黄色、緑に色づいた紅葉のグラデーションが楽しめます。
奥久慈男体山を登り、月居山を縦走し、袋田の滝に下山するルートがお薦めです。袋田の滝は観光地だけあって下山後にお土産屋さんを物色したり、なかなか楽しめます。
http://hibihansei.jp/okukujinantai-2018-11-18/
③【群馬】谷川岳
コース:西黒尾根ルート
言わずとしれた谷川岳。関東の山の中では1番好き!と言う方も多いのではないでしょうか。
ロープウェイで天神尾根を無雪期に歩くならごく一般的な登山コースですが、この山の良さを味わいたいなら西黒尾根です。
森林限界に出ると山頂付近まで岩場が連続する西黒尾根は日本三大急登に選ばれているだけあってダイナミックな景色が楽しめます。
ちなみに三大急登とは言いますが、標高差は大したことないしひたすら急勾配という訳でもないので安心してください。
初めてこのルートを歩いた時は岩場の先に見える谷川岳に興奮しっぱなしでした。振り返れば谷川馬蹄形の山々が連なり、とにかく眺望が素晴らしいルートです。
鎖場はいくつかでてきますが、どれも傾斜は緩く登りやすいです。
ツルツルの蛇紋岩も見逃せないポイント。
樹林に邪魔されない素晴らしい眺望は岩稜ならではの楽しみです。
http://hibihansei.jp/tanigawa-2020-6/
上級編
上級編と中級の境をどう考えるか悩みましたが、登山客のヘルメット装着率が高い山を上級編にしました。
いろいろご意見はあると思いますが、私観なのでご容赦下さい!
①【秩父】両神山
コース:八丁峠ルート
いくつかルートがある両神山(りょうがみさん)の中でも定番なのが八丁峠ルートです。
急峻な鎖場が連続する難コースですが、東京に近い秩父の山でしかも日本百名山!なので土日は多くの登山客で賑わってます。
これぐらいの難易度からヘルメットをかぶる登山客が増えてくるのも特徴。
ゴジラの背みたいな凸凹した稜線をアップダウンを繰り返しながら山頂を目指していきます。
鎖場を越えるたびに秩父の山々の景色が広がり気分は爽快!
冬季は駐車場への林道が通行止めになります。また、そうでなくても落石で通行止めになってたりするので、交通事情は予め確認してから行きましょう。
http://hibihansei.jp/ryokami-2015-10-25/
②【新潟】八海山
八海山(はっかいさん)は新潟の名峰です。ロープウェイを利用して登ることができるし、山容良し、眺め良し、秋なら紅葉良しの鎖場天国です。
有名なのはこの稜線上の岩場のアップダウン。
自分はロープウェイは使わずに屏風道で朝早く薄暗い内から登り、ロープウェイ始発前の誰もいない時間帯に鎖場を満喫しました。
鎖場は下りる時、最初に体を外に投げ出す瞬間が今でも怖くて仕方ありません。一向に慣れる気配なしです。
そんな恐怖を感じたのは八海山が初めてだったかもしれません。
しかしこの経験をした後、妙義山に登るのですが、八海山が可愛く思える山でした。。
http://hibihansei.jp/hakkai-2016-10-22/
③【新潟】荒沢岳
荒沢岳(あらさわだけ)。なんとも荒々しい名前の山でごわす。
このお山、長く登山をしている人なら知っている、そうでない人にはそれなりに知られている、そんな微妙な認知度の日本二百名山。
そんな荒沢岳の特長は、前衛として荒々しくそびえる前嵓(まえぐら)は、鎖場が連続する難所として知られるダッフンダコース!!
しかも、鎖すら設置されてない岩場だって連続して出てくるし、ビビリな自分の雄叫びが山中に響き渡った。。
豪雪地帯にあるため、雪害から守る事を目的に10月下旬に恒例の「鎖はずし」が行われるから、登れる期間は限られる。登る前にきちんと確認しとこう。
だいたい鎖はずしなんていうイベントがあるぐらいなんだからこの山の難易度がうかがい知れる。
しかも、
この日は岩場の他に、もっと危険な奴が現れたのよ。
木の根っこから威嚇音を出しながら襲ってきた。
ひ、ひーーー!!!
日本における野生生物による死亡事故。何が一番多いか知ってる?もしかしたら世界でも一番かも。
最も多いのはヘビでもクマでもサメでもなく、スズメバチ。
秋になるとスズメバチは凶暴化するから気をつけてね。
自分は刺されなかったけど、他のパーティで頭を刺されたという方がいて、ほんと気の毒だったよ。
そんな自分を癒やしてくれたのは、核心部の前嵓を過ぎてからのこの尾根歩き。
ここがリアルガチ絶景で、下から吹き上げる風と越後駒ヶ岳のグレートビューが最高に気持ちが良かった。
絶景だけど、痩せ尾根だからフラフラ歩くとだいぶ危ない。
岩場あり、稜線歩きあり、大展望ありのお薦めの山なんだけど、鮮明に覚えているのは山頂で食べたセブンの秋限定シュークリーム「さつまいもこ」の美味さ。
山の楽しみっていろいろさ。
http://hibihansei.jp/arasawa-2020-8/
④【群馬】妙義山(白雲山エリア)
妙義山(みょうぎさん)は大きく白雲山(はくうんさん)、金洞山(こんどうさん)、裏妙義のエリアに分かれてます。ここでまずご紹介するのは白雲山エリアです。
妙義山は事故が多いので心してかかってください。
自分は馬の背みたいに細くなってるところが苦手でこういう所ではなかなか前に進めません。
ひー。
この細い鎖がもしブチンと切れたらと想像しただけでパニックになりそうです。
体を投げ出す瞬間は臨死したも同然の恐怖。
しかし生きるか死ぬかの博打にならない様に足場をしっかり確保して鎖と岩をしっかりつかんで一歩目を踏み出しましょう。こんな難所を何度も何度も越えていくシビれまくりなコースです。
http://hibihansei.jp/myogi-2016-12-4/
熟達者編
ホールドが乏しかったり鎖場がオーバーハングしてたり。技術と腕力が必要な難所が連続する最上級に難度が高い山々です。
事故も多く、ワンミスが命取り。そんな所です。
山の常識を知っておかないと周りの登山客にも危険をさらしてしまう事になるので、山慣れした登山者、もしくは熟達者と同行する人だけが立ち入りを許されるルートだと肝に銘じておきましょう。
「自己責任だから」と身勝手な自己責任論になってないか、もう一度身の丈を考えてからトライして下さい(自分で言ってて耳が痛い)。
①【群馬】妙義山(金洞山エリア)
再び妙義山ですが、白雲山よりワンランク難易度が上がるのが金洞山(こんどうさん)エリア。ここには妙義名物「鷹戻し」という岩稜好きが嬉ションしてしまうポイントがあります。
鷹戻しも恐ろしいのに25mのチムニーもあったりとダッフンダなルートです。説明がもはや意味不明ですが。。
鎖場は2段3段と続き、その先がどうなってるか見えない。死角が多いため上から誰か下りてきたらどうしようという恐怖にかられます。
岩稜を登りきればご覧の通り、日本三大奇勝の妙義山ならではの挑戦的で刺激的な絶景を目にすることができます。
しかもこんな山きっと登山客少ないだろうと思うとそうではないのが驚き。
高いところが苦手な自分には考えられない変態ばかりの世界です。
ここが鷹戻し。
鎖場、梯子が連続する50m以上の岩壁。ここで落ちたら死にます、間違いなく。
初めて見た時は「これが鷹戻しか・・」と言葉を失いました。
そしてそこを買い物帰りのお母さんみたいな出で立ちで軽々と登ってくるおばちゃんがいて絶句。ザックからネギ出てるし!というのは冗談ですが、良く見るとその人、前にも妙義で会ったことがある人でした!
「また会いましたね!」と声をかけると「私、鎖好きなので。鎖好きなので。」と恥ずかしそうにそそくさといなくなってしまわれた。
買い物帰り風は爪を隠すためだったのか。
鷹戻しなだけに。
http://hibihansei.jp/myogi-2017-4-30/
②【群馬】裏妙義(丁須の頭)
こちらも妙義山。
今度は裏妙義エリアです。
裏妙義の最高峰は谷急山(やきゅうやま)ですが、それより有名なのがコイツ!「丁須の頭(ちょうずのかしら)」と呼ばれる奇岩怪石。
登る前までは「余裕でしょ」と高を括ってたけど、目の前にしたら腰が引けて怖くて鎖から手が離せなかった!
ヘタレな自分にはとてもじゃないけど登れなかった山です。
ちなみに今でも無理して登らなくて良かったと思ってます。
そんな私のヘタレっぷりはぜひ過去の記事からご覧ください。。
そんな私が言うのもなんですが、トライする際はセルフビレイする事を薦めます。
裏妙義は丁須の頭以外にもこんな鎖場が連続します。
よくこんな所にルートを見出したなと感心するわ。
ホールドできる岩が多いのは有り難いけど、それにしたって高度感あり過ぎ。脱糞ポイントが次々と襲ってきます。
そしてチムニー。
この狭いU字溝の中に体が入らなくて苦労しました。でも器用な人なら体が大きくてもササッと下りちゃうんだろうな。。
最後は妙義山ばかりの紹介になってしまいましたが、でもさすが、妙義は伊達じゃない!ということが分かっていただけましたでしょうか?
悪いことは言わないので、無理はやめておきましょう。
http://hibihansei.jp/uramyogi-2019-3-2/
③【栃木】足尾のジャンダルム(中倉山)
最後は極め付け。
孤高のブナで有名な中倉山ですが、一般ルートではなく足尾のジャンダルム経由で登るルートです。
上の写真の赤いルートを登っていきます。
何にしてもこのルートは鎖の設置は無いし、岩場はモロいし、何よりここのルートの情報があまりに乏しくて下調べがあまりできなかったため、いつまでこの岩場の恐怖が続くのか登ってて不安で不安で仕方なかったのがとても印象に残ってます。
難易度は間違いなく今回紹介した中でトップ。
本家本元のジャンダルムなんか足尾のジャンダルムに比べたら大したことありません。
私は二度と登りません(笑)
http://hibihansei.jp/nakakurayama-2018-5-13/
最後に
如何でしたでしょうか?
鎖場と梯子が連続する難所を越えればそこは360度の大パノラマ。秋なら岩稜と紅葉の息を呑む絶景を目の当たりにすることもできます。
かく言う自分はどちらかと言えば岩稜は得意ではないですし、くどい様ですが高いところが苦手です。それなのに登ってしまうのは難しい山を攻略したという特別感と、独特の緊張感の果てに山頂に着いた時の達成感が悪魔的だからです。
今回は関東近郊の山で、一般ルートを中心に、ほんの少しバリエーションルートも交えて紹介しましたが、まだまだ奥秩父の鶏冠山や新潟の荒沢岳など、岩稜の名山が残ってるので、アタックしたら今後追記していきたいと思ってます。
関東近郊の岩稜はアルプスに比べれば登山客が少なく整備も心もとない、ルートが不明瞭といった難しさがあります。事故も多いのでくれぐれも無理だと思ったら引き返し、下山では上りの倍以上に注意して安全に楽しんでほしいです。
以上、裏妙義をリタイアした男より。
ではでは