情けは人の為ならずじゃ!!
正しい意味を言える人、手ぇ上げてー。
たぶん知ってる人は50%ぐらい?だと思うけど、人に情けをかけるのは巡り巡って自分に返ってくるよ、という意味。
情けをかけるとその人のためにならないよ、は誤った解釈。
5月下旬に針ノ木岳(はりのきだけ)に登ってきたよ。
ここは日本三大雪渓の針ノ木大雪渓が有名だけど、自分の場合は雪渓歩きにはそれほど魅力がある訳ではなく、山頂から見渡す立山と黒部ダムが超絶絶景すぎて、初めて見た時の感動が忘れられず再訪してきた。
その時の景色を期待して、完璧な晴れ予報の日を選んで企画したよ。
完璧に舞台は整った。
待ってろよ、立山!
至る所でニリンソウがもっさもっさ咲いてた。
今回のルートは、針ノ木大雪渓→マヤクボ沢でスバリ岳と針ノ木岳の間の稜線に登って針ノ木岳に登頂。下山は針ノ木小屋を経由して針ノ木大雪渓で下りてくるという予定だったのだが。。
スピンしてタイヤバリアを破壊、コース上にオイルをぶち撒けるが如く単独クラッシュをぶちかまし、マヤクボ沢のピストンで下山することになったんだけど、今回はそんな顛末のお話。
というか反省文。
針ノ木岳は標高2,821m、日本二百名山、花の百名山。
さあ、4年ぶりの針ノ木岳だ。
ルートとコースタイム
■2021年5月30日 ※カッコ内は標準コースタイム
扇沢駐車場⇒(80分)⇒大沢小屋⇒(235分)⇒針ノ木岳山頂⇒(160分)⇒大沢小屋⇒(60分)⇒扇沢駐車場
コースタイム:6時間55分(休憩含まず)
総距離 12.2キロ
累積標高差 1,580m
針ノ木岳登山 本編
扇沢から登山開始
次の山は針ノ木岳にしよっかなーどうしよっかなー(鼻ほじほじ)
そんな迷ってる時に録画した「水曜どうでしょう」を再生してると、信濃大町に行くことが決まった時のこの大泉洋の顔を見よ。
彼らは仕事で富山から室堂~立山を経由して扇沢へ向かえると言うのに、乗り換え回数の多さに「おおーい!シンジラレナーイ!」とうんざりしちゃってるのだ。
ちっくしょー!羨ましい!
これで腹が決まった。まさに導かれた感じだ。
「俺も行くぜ!!信濃大町!!」
扇沢の登山者無料駐車場に着いた。
着いたタイミングでは空きは5台ぐらいだったかな。準備してるとあっという間に満車になった。相変わらず人気のエリアだけど、ちゃんと停められたんだから、とりあえず計画通り。
完璧だ!
装備も完璧にしたから当然荷物は重くなるけど、備えあれば憂いなし。何も怖いものなんてないのだ。
水を1リットルしか持って来てないから、最後に扇沢駅でコーラを500ml購入すれば、
完璧だ!
トロバス記念館。帰りにここに寄ることになるなんて、この時は思いもしなかった。ふっ。
家を出る時も指さし確認で忘れ物も無し。安心だ。安心以上のド安心だ。
食料は予備の予備まで用意してある。おかげで日帰りか?と目がくらむほど重い。食いしん坊なのだから仕方がない。
仕方ない!
てんくらA予報。
今日は良い日になる。朝もやから光芒が差すのを見て晴れることを確信する。
果たして4年前に訪れた針ノ木岳を超える景色が見られるか?
「続編は1作目を超えられない」と大豆田とわ子と三人の元夫(松たか子主演のドラマ。知らない人はアマゾンプライムで見るべし)で言ってたけどね。
登山口からニリンソウとサンカヨウが満開
コーラも購入した。
憂いなし!!
我、登山口に立つ。
ちなみに朝ごはんは甘辛から揚げ丼をガッツリ食べた。登山の朝は無理してでもたくさん食べると決めている。食べれなかった日はあっという間にバテてしまい、これまで何度も後悔を重ねてきたのだ。
失敗から多くを学んできた。
何度も言う、今日は完璧だ!
いきなりニリンソウの大群落。
ふむふむ、やはりアルプスは格が違う。
針ノ木大雪渓までバリルートではなく今日は大沢小屋経由の一般ルートで向かう。
意外と長いんだよね、これが。
朝もやが晴れれば完璧な晴天になるよ、そんな希望を感じさせるアルプスの朝におっさんの胸も高鳴る。
荷物が重くて心臓がバクバク言ってるだけかもしれない。
扇沢から出発すると何度か林道を挟むけど、既に圧倒的な大自然は始まっている。圧倒的に幸せだぜ。
サンカヨウ
濡れると花びらが透き通る不思議な花。
開花すると1週間で散ってしまう世にも珍しい花で自分も初めて見たよ。
カメノキ。
ミツバツツジ。
登ったり下ったり。
それでも全体的にはなだらかなに登ってるから重い荷物がボディブローどころか顔面強打で効いてくる。
ここら辺から甘辛からあげ丼でガッツリ食べてきたのに、食料の予備の予備まて用意した日帰り登山ってなに?と自問自答が始まる。
ザックは重たいし、食べた分だけ軽くなるけどその分体が重くなって総重量は変わらない。
おかげで今日も丼ペースだ。
おっふ~。
マシマシで天気は良くなる。
霜降り肉みたいな良い肉を美味しく食べることができた時期なんてこれまであっただろうか。
昔から一級品と言われる高級食材は体が受け付けないボンビー体質な自分は、霜降り肉が焼かれる姿を見ただけで胃がもたれ、ラードの如く脂汗が流れるという体。
霜降り肉を食べれば辛い思いしかしない。
鶏肉に霜降りがなくてほんと良かったよ。
大沢小屋に着いた。
今年の雪の重みで屋根が曲がっちゃったらしいね。
いよいよ針ノ木大雪渓
やっと針ノ木大雪渓への第1歩。
あれ、山頂ガスってないか?
雪渓の下は雪解け水が猛烈な勢いで流れてる。
もし雪渓を踏み抜いてあれに流されたら命は無い。マジで恐怖だ。
針ノ木大雪渓は雪が少ないから5月〜6月に歩きたい。リスクを考えるならば7月以降は絶対に避けるべきと自分は思う。
やっぱ山頂ガスってね?と疑いながら、たまーに晴れ間が差す大雪渓を登っていく。
猛烈な風が吹き抜けるけど、稜線は大丈夫だろうか。
天ノ川みたい。
晴れ間あんだけかよっ!(泣)
アイゼンを装着し、足まで重くしてゼーゼー登っている自分の横を外国人の子供がスマホゲームに夢中になりながら簡単に抜いていく。
一体どんな心肺してんだか。
ボケーと歩いてたらクラックに落ちるよ!
ゼーゼーが止まらなくて注意力散漫になってきた。
備えも大事だけど、軽量化を図った方がはるかに安全だと今更後悔。
くそっ。完璧ではなかった!
ああ、でもやっぱり晴れるのね、よかったよかった。
あとは風が弱まりさえすれば、、完璧だ!!
登山客も多い。さすがにみんな見るからに経験豊富なオーラ出てるけど、ゲームをやりながらずんずん進む男の子が1番余裕な感じ。
その体力を霜降りジジイにも分けておくれー!
それにしてもこんな雪質になってもスキーヤーってまだいるんだな。
爺ヶ岳へと続く稜線を何度も振り返る、素晴らしい眺めだ。
雪渓歩きが辛いから立ち止まる回数が異常に増えた。
マヤクボ沢から爆風の稜線へ
そして一気に暗くなった…。
ここを右前方のマヤクボ沢へ。積雪期限定ルートだ。人も多いからルートを間違えることは無いだろうけど、地図は自分の目でしっかり確認するというのがポリシー。当たり前のことを偉そうに言ってるだけなんだけど、これが意外と面倒なんだよね。
スマホでYAMAPを確認。
よし、合ってる合ってる。
完璧だ!!
左前方は針ノ木峠へと向かう雪渓。そっちが本ルートだから登山客の8割は針ノ木大雪渓へと進路を取る。
しかし本ルートとは言え、針ノ木小屋からのルートは雪の付き方次第で危険を伴う。自分も以前滑落したし。この時も雪が嫌な付き方をしてて、途中で撤退する人がいるのをYAMAPやヤマレコで確認してたから、マヤクボ沢から登る計画を立てたのさ。
という訳でマヤクボ沢へ突入。
さすがに急登だけど稜線まではストックとアイゼンだけで登れちゃうぐらいだ。
常に揺らしててもアミノバイタルは少しシャリシャリしてくる。気温は0℃ぐらいか。風が強いから体感はもっと寒い。
とうとう、あられが降り始めた。
そう言えば前回6月に登った時もあられに降られたんだった。
その時も悪条件だったにも関わらず、最後には絶景を目の当たりにできたんたから、今回も一発逆転を狙って最後まで頑張ろう。
歩いても歩いても近づかない稜線。
この長さが雪渓歩きの恐ろしさ。距離感がつかめなくていつももうすぐ稜線だと勘違いしてしまう。
風が強いし、ひたすら下ばかり見て黙々と登った。
さあ、あと一息だ。
稜線に着くなりハイマツ帯で風をしのいでカップラーメンと洒落込むぜ。標高2,500mの雪の上でも山専ボトルのおかげで熱々をいただけるのがなんと幸せなことか。
涙の味がした。
猛烈なガスと爆風と大アクシデント
なにこれ。
マシマシで天気悪くなってる。
あられを伴った爆風で顔が痛い。石が飛んできてるみたいでマジで地獄のような世界だ。
まともに立っていられない。
風に押されて岩場で踏ん張ったらアイゼンのジョイント部の金具が真っ二つに折れた。
よりによって雪山の山頂で折れるか?
下山どーすんの。
なんとか山頂に到着。
爆風!!
ウエーイ。。
あ〜なんも言えねえ!
(オリンピックを意識してる訳ではない)
ひゅー。。
おーい、立山よー。どこ行ったー。
地面も凍りついてる。
これ以上の長居は無用だ。下山するぜ。
YAMAPで針ノ木小屋経由の下山ルートを確認しておこう。
スマホスマホ。スマホはいつもウエストハーネスのポケットにしまってあるぜよ。
スマホ・・
スマホが無ぇ!!!
何度確認しても無い!やばくね?落ち着け!ハイマツに潜ってザックの中をチェックするんだ。
くっそー、マジで無いやん。。
走馬灯の様にペイペイ、モバイルパスモや銀行アプリとか、スマホに詰め込みすぎたことの後悔が襲ってくる。
よりによって、
雪渓で落としちゃったよ!!!ぜったいに出てこないYO!
こんな世界の中から見つかるはずがない。
見渡す限りガスの雪渓。このどこかに落ちてるなんてジラレヘン。
しかし万が一見つかるかもしれない。一縷の可能性にかけて下山ルートは針ノ木峠経由ではなくマヤクボ沢でのピストンで下山することにした。
信じよう。念ずれば叶う。
絶対に見つかる!絶対に!!!
奇跡的に晴れてくれた。これなら運が良ければ見つかるかもしれない。
最後にスマホを確認したのはマヤクボ沢と針ノ木大雪渓の分かれ道辺りだ。あるならそこだろう。
諦めるな。きっと見つかる。きっと見つかる。
そうそう、ここら辺で俺はスマホを見ながらこんなことをブツブツ呟いた。
「スマホでYAMAPを確認。よし、合ってる合ってる。完璧だ!!」と。
ああ・・、哀れ。
その後、ショルダーハーネスのポケットに入れるつもりが雪渓へのキラーパスをかまし見事に落下させたんだね。俺のバカ!
しかし、見つかる。希望は捨てるな。絶対に見つかる。
片方のアイゼンが壊れてても雪が腐ってたから問題無かったのは助かった。これで捜索に集中できる。
気合いで視力3.0までアップだ!
血眼になってくまなく探す。信じろ!
絶対に見つかる。絶対に見つかる!!
見つからなかった…(泣)
そして晴れるという下山あるある。
寒さに耐えただけの登山、その挙げ句アイゼンを破壊してスマホまで落として、なんたる悲劇。
水曜どうでしょうに触発され「俺も行くぜ、信濃大町!!」と勇んでやってきたものの、向かう先は「行くぜ、大町警察署」になるというまさに悲報。
ふきのとう。
心ここにあらず。シャッターを押すだけだったな。
ヤマエンゴサク、だよね?
もはやどうでもいい。
新緑の美しさは一瞬スマホを失った悲しみを忘れさせてくれた。一瞬ね。
何度も何度も通えば、初めて見た時の絶景に巡り合えるだろう。
しかし今日で辛い思い出へと変わってしまった。もう再訪することは無いだろう。
ええ、自分で蒔いた種だってことは百も承知さ。
でもこのエリアとの相性の悪さを感じる。
針ノ木岳の隣の蓮華岳に登りにやって来た時もルートミスってハラハラしたし。結果オーライだったけど。
ニリンソウ。
こんな自生地がそこら辺で大安売りされてる山域だからこんな気持ちになってしまってなんか申し訳ない。
ワスレナグサ。
扇沢駅の駅長室へ。
万が一、拾得物の届け出があるかもと期待したけど、撃沈。
とろバス博物館にも立ち寄ってスマホが届いてないか念の為確認。
とても親切に対応して下さり有難うございました。
届いてるはずがないよね。
さあ「行くぜ、大町警察署!!」は見事に確定したのであった。
警察署に着いて顛末を説明。先輩にあれこれアドバイスをもらいながら自分にヒアリングする新人警官とのやり取りが始まった。
どこで落としたんですか?
針ノ木岳の雪渓です。
萩の木?萩の木だけ?えっと、それはどこですか?
針ノ木岳です。ハリノキダケ。扇沢から登れる山です。
えーっと(スマホでグーグルマップを見せて)、このどこの山でしょうか?
グーグルマップで針ノ木岳とどこで落としたかを説明したけど、グーグルマップで雪渓を探すのって超難しいってことが分かったよ。
しかし新人警官の若者よ、厳しい世界に入ったね。ぎこちなかったけど親切な対応が有難かったよ。
長野県って広いから登山をやってなかったら異動した先々で山の名前言われても分からんよなーと思いながら説明したけど、せっかく長野県警に入って、しかも大町警察署にいるんだから針ノ木岳ぐらいは覚えといて損はないぜ!
まあ、結局警察にも届いてなかったんだけどね。そりゃそうだよな。
は〜 テレビも無ぇ、ラジオも無ぇ、今のオラにはスマホが無ぇ。
吉幾三の「無ぇ無ぇ」が頭の中で繰り返し流れる。
今の自分にはサイアクな曲だ。
…
!!!
えっ!
おっぱっぴー!!
拾ってくれた山男子二人に感謝感謝!!!
大町警察署で説明しながら、もう1つのスマホで落としたスマホに何度か電話をかけてたら、拾ってくれた方がその着信番号を見て折り返しの電話をくれた!
その御方と信濃大町駅のすぐ近くの上原の湯で待ち合わせて無事に戻ってきたよー。
いやぁ、ほんと涙が出るほど嬉しかった。ありがとう!!
せめて温泉と軽食でもと、夏目漱石を数枚差し出すとかたくなに固辞され、「他の山で使ってください」とハイパー神対応に遭遇。
他のヤマッパーさんからもその御二人が「一人一人に「スマホ落としてませんか?」と訪ねながら登ってたよ」と聞いて、どん底の底まで反省。
俺も誰かのために何かしたい!とにかく手っ取り早く誰かのスマホ拾ってあげたいー!あるある言いたいー!と、よく分からない興奮に呑まれ、、
そして一気に疲れが押し寄せてきた。
本当に本当に、有難うございました。
親切の連鎖が続くように自分も何かしたい、というのは本当の気持ち。
一度はもう来るもんかと思った針ノ木岳。ここにはまた来なきゃいかんぜよ。
振り返って
初めて針ノ木岳に登った時は下山中に滑落し、その数年後の蓮華岳登山ではルートをミスって大沢の急登にヒヤヒヤした。
そして今回はスマホ落下。更にアイゼン破損、山頂は地獄。
装備は完璧だったんたけど、いかんせんどこか抜けてる。反省しきりの登山になってしまった。
改めて拾ってくれた御二人に感謝。有難うございました。
何度か通えばいつか最高の天気に当たるだろうと信じてまた来るしかないっ!
ちなみに針ノ木大雪渓の下は雪解け水が猛烈な勢いで流れてて、もし雪渓を踏み抜いて下に落ちたら命の保証は無い。
雪解けも早いから、ここを歩くのは6月までにしといた方が良いし、もし7月以降になってしまったら、雪渓の真ん中を歩くのは避けた方が良いと思う。落石には気をつけなきゃだけど。
情けは人の為ならず。
あの御二人に早く良いことが巡ってきておくれー!
と願うばかり。
本当に有難うございました。
ではでは