花巻の山奥に人知れず、ひっそりと営業する西洋レストランがあるのをご存知だろうか?
ぐるなびにもRettyにも載ったことのない、秘密のレストラン。
あたりにはガスが垂れ込め、風が強く吹き始めた。
ケルンを目印に、迷わないように慎重に下山していくと、そこに突然、山小屋風の造りのレストランが建っていた。
天気が悪くなってきたから、避難するつもりで店内に入ったら最期。
その登山客は、もう二度と、この世に戻ってくることはできないという。
店内に入ると、「こちらは、注文の多い料理店です」という張り紙があった。
おお、こんな山奥で人気店を見つけたぜぃ!と喜んで、さらに店内の奥へと進んでいくと、次の張り紙には、
「お客様、どうぞ靴と上着を脱いで、そこに置いてある香水を吹きかけてからお入りください」
ふむふむ。自分が放つ強烈な汗臭さはもはや営業妨害だろう。かたじけない、ここはドバっと多めに香水を吹きかけておこう。
更に奥へと進むと、次の張り紙には、こう指示が書かれていた。
「そこにあるクリームを耳に塗って、体中に壺の中の塩をよく揉み込んでください」。
えっ。。
そう、このレストランは、客を料理する殺人レストランだったのだ。
逃げようとしても無駄だ。扉はしっかりと鍵がかかっている。
本性を表した化け猫が舌なめずりしながら、ゆっくり近づいてきて、こう言い放った。
「く、臭ぇ!こいつ人間じゃない!もはやゴリラ!」
ガーハッハッハッ。バレちまったら仕方ねぇ。
ただし、そんじょそこらのゴリラではないぞ。
デブゴリラだ!
うほっ!うほっ!うほほーーーい!!!
山中に響くデブゴリラの咆哮。
高山植物が咲く美しいトレイルと、流れる雲と青空が織りなす大絶景。これこそが岩手の夏の風景。
これが、ゴリラにならずにいられるか。
岩手県花巻市にある早池峰山(はやちねさん)にやって来たよ。
同じ花巻市出身の宮沢賢治の名作「注文の多い料理店」になぞらえてみたYo!
繋げ方にだいぶ無理があったかー、ガーハッハッハッ!
こちらはホソバツメクサ。カトウハコベと瓜二つの花。
蛇紋岩で形成された早池峰山は、その珍しい自然環境もあって、ハヤチネウスユキソウを始め植生が独特。
何年か前、至仏山に登った時、花に詳しそうな方から「このカトウハコベは、本州ではここ至仏山と谷川岳、岩手の早池峰山でしか見られない花なんですよ」と教わった。
その頃から、ずっと気になっていた山。
そして、早池峰山に登るなら、絶対にカトウハコベが咲く初夏にしよう。そう思っていた。
こうして広がっていく山と自然に関する知識。
びっくりするが、前ふりのレストランとは全く関係はない。
さてさて、念願のカトウハコベは発見できたのか。
東北遠征1日目。
手前に咲いてるのは、ハヤチネウスユキソウ。
早池峰山は標高1,917m。日本百名山、花の百名山。大谷翔平や菊池雄星で有名な花巻市にある山。
ルートとコースタイム
■2022年7月2日 ※カッコ内は標準コースタイム
河原の坊⇒(45分)⇒小田越⇒(75分)⇒五合目⇒(35分)⇒稜線分岐⇒(15分)⇒山頂⇒(15分)⇒稜線分岐⇒(90分)⇒小田越⇒(30分)⇒河原の坊
コースタイム:5時間5分(休憩含まず)
総距離 9.1キロ
累積標高上り 880m
早池峰山登山 本編
河原の坊から登山開始
前々回の赤岳登山に懲りず、またも半額の菓子パンを大量にゲットしてしまった。
パンだとシャリバテするの分かってたくせに。。
大好きな「半額」という文字が目についた瞬間、マッハで買い物かごに放り込んでいた。
これは本能なのだ。
本能には逆らえない。
はるばるやって来たここは、大谷翔平のふるさと、岩手県花巻市。
東京から500km以上も離れたみちのくの山岳ランド。
今は昼の12:50。
ハイシーズンの土日は交通規制がしかれ、河原の坊まで車で上がることができない。
小田越に向かっていく一本道を進むと岳という所で止められるから、そこに車を駐車して、登山口のある小田越までシャトルバスで移動することになるんだけど、その規制も13時になれば解除される。
ほんで、今はその残り10分を待っているところ。
交通規制をしてるおじさんが気さくに話しかけてきてくれたから、おかげであっという間に時間が過ぎたよ。
13:30
そして到着した「河原の坊」の駐車場。
某有名ブログを読んで、登山口の小田越に停められるもんだと思いきや、駐車できない様にロープで規制線が引かれてて、仕方なく河原の坊まで戻ってきた。
河原の坊はキャンプもできるからトイレも完備だよ。
河原の坊から小田越までは、約40分ほどの林道歩き。
途中、花巻出身の宮沢賢治の詩碑があった。宮沢賢治自身も早池峰山には登ってるらしい。
実に、すっこーん晴れ。
緑が気持ち良いなーと、歩き始めはいつも通り余裕の表情。
暑ぢぃ。。
早々に暑さでカラータイマーが点滅するのもいつも通り。
正面のあれが早池峰山かな?
これから登る山の全体像を撮っておきたくて、ここで5枚ほど撮影しておく。
花巻市から遠野市へ。
暑い。。
くっそ暑いじゃないの。
岳エリアの駐車場から出てるシャトルバスに抜かれる。
東北というと涼をイメージするけど、13時という最も暑い時間帯に、日向の林道を30分も歩けば、そりゃ汗も止まらない。
やっと小田越登山口
小田越には仮設トイレが用意されてたよ。
13:50
早池峰山だとばかり思っていた山が、実は全く違う山だったことが判明(薬師岳だった)。
無駄に5枚ちかく撮り続けてしまった画像は、帰ってからバッサリ捨てた。
ちなみに、この薬師岳は、小田越から山頂までわずか1.5時間で立てる山だよ。
これまで何度か東北遠征に来てるけど、東北には熊が多いというイメージがすっかり定着してしまった。
早池峰山では、つい先日、多くのハイカーがいる中で熊が襲ってきたヨ!という恐ろしいストーリーが赤字で綴られていた。
しかも、故意に襲ってきた可能性があると、熊の気持ちを汲んだ憶測まで付け加えられ、浮かれたハイカー達を恐怖のどん底に突き落としている。
おかげでチビッちまったじゃないか。
ここまで歩いた汗で既にパンツはびちょびちょだから、ちょっとチビッたぐらい、なんちゃない。
故意で襲ってくる熊に、熊鈴なんて意味あるんだろうか?と思いつつ、他に手段がないから鈴を鳴らしまくる所存さ。
ちなみに登山をしてて、これまで3回ほど熊を見てる。
熊に出会ったことなんてないってハイカーが多いけど、ほんと、気付いてないだけサァー!そこら辺にいるYo!と教えてあげたい。
この写真も木道の上にいるところの写真だし、自分が大朝日岳で見た熊も登山道をノシノシ歩いていた。
熊も歩きやすいところを好んで歩きたいんだと思う。
ここが小田越登山口。
登山口になぜかクールビズ風のサラリーマンがいるのは実に謎深いが、これが花巻スタイルなのかもしれない。
ちなみに「小田越」、山にありがちな難読漢字ではなく、これでオダゴエと読む。
場所によってはオダゴシだったり、大分県の九重っぽく読めば、オタンコシになりそう。
もう何がただしい日本語なのか、分からなくなってくる。
500㎞近い距離を運転してきて、くっそ暑い林道を20分も歩いたから、ヘトヘトどころか、もはや天に召されたも同然。
もう寝たい。あったかい布団が恋しい。
だが、わざわざ花巻やって来て寝る訳にはいかないのだ。
楽しまなきゃ。
1分でも睡眠時間を削って東北を楽しまなくちゃ。
関東では、ブナ林よりも更に標高の高い約2,000m付近で見かけるシラビソが、登り始めから広がっているという真実。
もうこれだけで、豪雪の東北の山に来たぞと思わせるには十分のインパクトで、自ずと気分も高まる。
ちなみにまだ標高1,250mほど。
シラビソは育つ場所、間違えちゃったんじゃないのか?
振り返れば、早池峰山だとばかり思っていた薬師岳が屏風のように見える。
山頂までびっしり樹林が詰まっていて、巨大な髭剃りで剃ったら超気持ち良さそうだ。
早池峰山もあんな感じなのかもしれない。
林道からだとガスってて全体像が見えなかったから、この時はこの先の展開を分かっていなかった。
ちなみに先日、散髪に行ったら、店員さんからごにょごにょっと何か聞かれ、ちょっとよく分からなかったけど「ああ、はい」と適当に返事したら、まさかのモミアゲを斜めに剃られるという辱めを受けた。中学生以来のまさかの斜めモミアゲに爆死。毛が生えてくるまでたまらなく恥ずかしい1週間を過ごした。
散髪で適当な返事はもう二度としない。
ちょっと歩くと空が明るくなってきた。
おいおい、まさか?
まさかやー!!
そんなことってある?
まさかの、登山口から30分も歩かずして、森林限界に突入するというジラレヘン展開。
ぜんぜん薬師岳と違った。
森林限界に突入
小田越から0.8km付近。山頂までは残り1.9kmの短い行程。
全体の70%が森林限界を歩くことになるなんて、さすが東北。
どこかヨーロッパの山にでもやって来た気分だ。行ったことないけど。
ほら、空模様だってロンドンみたい。
ロンドンでガスっても味があって良いんだろうけど、わざわざ岩手まで移動してきてこれはない。
もしこのままガスが晴れなかったら、記念に花巻東高校にでも寄って帰ろうか。
くっそー、てんくらA予報だったのにぃ!
ちなみにロンドンにも行ったことない。
ハイマツのまつぼっくり。
標高はまだ1,500mほどだと言うのに、ハイマツも生える場所をうっかり間違えちゃったのかもしれない。どうなってんだ東北。
ハイマツの松ぼっくりを主食としているホシガラスもたくさん見かけたよ。
早池峰山は蛇紋岩で形成されている。
それがここの稀有な植生を生み出しているというのは至仏山で学んだけど、至仏山もこんなに早く森林限界には達しなかったもんね。
岩手の厳しい環境が、低い森林限界と大谷翔平を生んだのね。
イッツ、翔タイム。
帰りのバスに合わせて、次々とハイカー達が下りてくる。
彼らは天気が良い時間帯に山頂に居合わせ、悪くなってきたからそろそろ下山しようかと、えっちらおっちら下りてきた勝ち組なのだ。
みんな、勝ち誇った顔に見えるのは、自分の被害妄想なんかではない。これは必然なのだ。
気にしてはいけない。
うらやましいうらやましいうらやましいうらやましいうらやましいうらやましか。
横を見れば青空が見えるけど、こんなことで一喜一憂なんてするものか。
どーせ、晴れたり曇ったりを繰り返して、結局いつもみたいに山頂で曇るんだ。
まったく期待なんかしていない。
晴れておくれ晴れておくれ晴れておくれ晴れておくんなまし。
でっぷり太った雲がいかにも重そうで、今にも山に落ちてきそうだ。
今年は6月に梅雨が開けるという奇怪な年。例年より雪が多かったとか、花の開花が少ないとか、自然界では異常な事態が起こっていることを肌で感じている人も多いと思う。
いま、自分ができる脱炭素は何か?
それぞれが脱炭素に向けて何ができるか、真剣に考えなくてはいけない。
あちきはね、吐く空気を少し減らす。
うむ、アホの発想。
おっ。これはカトウハコベか?
葉っぱをよーく見るとどうも違う。恐らくこれはホソバツメクサだ。
水野美紀と水野真紀ぐらい間違いやすいぞ。
気をつけろ!
開放的なトレイルを下っていくハイカー達。
ものすごく広大な風景に早池峰山の実力を見た。
蛇紋岩がむき出しのトレイルが滑りやすいけど、ご覧の通り、難所も少なく、子供でも登れる山だと聞いてる。
この先、梯子がでてきてビビったけど。
冒頭で紹介した「注文の多い料理店」は、花巻市出身の宮沢賢治の作品。自分は知らなかったけどね。
「銀河鉄道の夜」すら読んだことないし、松本零士とメーテルと鉄郎しか知らないし、宮沢賢治の作品には全く触れてこなかった。
今回紹介するために読んだ「注文の多い料理店」は、最後にはゴリラ化してしまうというホラーな展開に、まさに自分にぴったりだと思った。
ちなみに、自分が尊敬してやまない、鹿島アントラーズのレジェンド小笠原満男も岩手出身。
シドニーオリンピックで満男が代表から落選した時は、本人以上に落胆した。
あの時はヤットや小野伸二も落選したし、トルシエが大嫌いになったよ。
ミヤマヤマブキショウマ。
話の脱線ばかりしてたら、高山植物がちらほら姿を現した。
山頂の避難小屋にいた管理人さんの話では、ちょうど太平洋側と日本海側の気候がぶつかり合うのがこの上空らしく、「ほんと、曇りやすいからねぇ〜」と、話してくれた。
しかし、天気が崩れる瞬間、そして悪天候から青空へと変わる瞬間こそ、山が輝く瞬間なのだよ。
あたかも自分の言葉で言ってる風だが、風景写真家の萩原さんがそんなことを言ってた。
でも、この薄っすら暗くなった時にX-E1(今日のカメラ)で撮る雰囲気がたまらないぞ。
曇ったり晴れたり
真っ暗になったと思ったら、晴れた。
目まぐるしい。
アニソン的な展開の速さに目が回る。
5合目辺りからは、なるほど、こりゃ下山で滑るな、と思わせるポイントがたくさん出てくる。
谷川岳の西黒尾根にもツルツルに磨かれた岩が出てくるけど、それも蛇紋岩ならでは。
雨の日は絶対に歩きたくない。
さっきから似たような写真のオンパレード。
だって、ずっとこんな風景なんだもん。もんもん。
だからと言って、決して景色に飽きた訳ではない。
最初の林道歩きはともかく、小田越から山頂まで、何一つつまらないところはなかったヨ!
たぶんここら辺で標高は1,500mを超えたと思う。銀河鉄道の空に向かって登っていく開放感。
読んだことないけど、ともかく標高2,900mぐらいまで樹林が続く南アルプスとのえらい違いにビビる。
再びカメラの話になるけど、今日持ってきたX-E1は古くてクセのあるカメラだから、ファインダーを覗いてからの露出修正がめんどくさい。
そんなめんどくさいカメラだけど、未だに手放せないでいるのは、手のかかる子ほど可愛いってやつに他ならない。
クセの強さの副産物で、たまにハッとさせられる絵が撮れる時がある。
未熟な装置が後々、名機になるのはよくある話。音響の世界で「やおや」と言えば泣く子も黙るリズムマシーン、ROLANDのTR-808。
未熟なリズムマシーンだけど、ヒップホップ特有のドゥーンという低音は、きちんとしたベース音やキックの音を再現できず、無理やりそれらしく似せたTR-808で作られている。
発売当初はさっぱり売れず、生産もすぐに停止。それが後のヒップホップ、R&B界から、なんじゃあこの音はぁ!と優作バリに絶賛されたのだ。
クセの強さがウケてるのは、ライカのカメラも同じだと思うけどね。
誰でもシャッターボタンを押しただけできれいな絵が撮れるカメラを探してるなら、ソニーやキヤノンのカメラを使えばいい。
このX-E1は手放せない1台。
ちなみに自分の周りには、未だにX30を手放せないという変態もいるから、2012年付近に発売した富士のデジカメは愛すべきクセカメラが揃っているのかもしれない。
中古で1万円しないぐらいだろうから、変態にはおすすめです(笑)
高山植物の大豊作
こちらがハヤチネウスユキソウ。
森林限界から上は至るところに咲いてたんどけど、どれも単発で、1,500mを超えた辺りから群生が増えてくる。
そしてやっと見つけたサァー、カトウハコベ!
前述の通り、ホソバツメクサとそっくりだけど葉っぱが違う。花の形もちょっと小ぶりかな。
綾野剛とスピードワゴンの小沢一敬ぐらいそっくりだ(共感得られなそう)。
ともかく、早池峰山を知るきっかけにもなったカトウハコベも無事にゲット。
そして、見事に晴れ渡った。
あとは栄光に満ちた山頂を目指すだけ。
岩手の山でゴリラが祝福されている。そんな感覚で浮かれ気味に登っていく。
ミヤマオダマキも、森林限界を超えてからちらほらと単発で見かけてたけど、5合目付近からはモリモリ。
ハイカーの多い時間帯なら、撮影タイムで渋滞を引き起こしてたに違いない。
豊作。ミヤマアズマギク。
チシマフウロ。
下を向いて撮影して、顔を上げてみたらコレ。
そんなまさか。なんてことだ。
5合目に到着。
よくよく見ると、標柱には「御金蔵(おかねくら)」と書かれてる。
うーん、とういう意味があってここに御金蔵と付けたのだろうか。まあいっか。
さらに勢いを増すガスり菌シロタ株の中へ突入。
悪いことはずっと悪いままなはずがない。オセロの駒がひっくり返る様に反転する時がくる。
さあ、晴れろ!オラァわくわくすっぞ。
しかし手を緩めることはしないガスリ菌。
ガチでケルンが目印になっちゃうぐらいだ。
と思いきや、5分もすればわずかに青空が見えた。
こういう風景を目の当たりにできるのは、登山ならでは。醍醐味と言って良い。
ガスったりしてるからか、ちょー涼しい。
林道が灼熱の暑さたったのが嘘みたいな別世界。
もうずっとここにいたい。熊だらけだけど。
ここは「竜ヶ馬場」という開けたところ。
爽快すぎる。吹き抜ける風、なにかの生き物の様に流れていく雲、柔らかな日差し。
今この時間、夏の岩手県を世界一楽しんでいるのは自分だ。
いくら14時から登り始めたとは言え、ゆっくり登らねば損だ。ただでさえ、こちとら仕事中は常に何かしらの納期に追われ、上司からだけではなく部下からも「これやって下さいよぉ〜」とパワハラを受け、常にぶるぶる震えているのだ。
こんなところに来てまで、時間に追われてたまるか。
ゆっくり楽しまなきゃ。
岩手をもっと楽しむんだ。
のんびりすれば、再びガスる。ふっ。構わん。
立ち止まれば、ガスる。構わぬ構わぬ。ガスっちまえ。
あちきはのんびりすると決めたのだ。
ガスったのなら、晴れるまで山頂で待ってやる。
ちなみに最近、職場で人が減ってしまった関係で忙しい。ちょいちょい1時間のフライング出社をし、夜は夜で誰もいなくなったフロアにポツーンと一人だけ残業なんて日もザラだ。
人事にだけじゃなく、各地の支社長にも余ってる人材がいないか聞いて回ったが、どこも人手不足でうまくはいかない。
いつになったら補充できるんだろうか。
そんなわけだから、
いくらでも待てる。
おっさんの忍耐をなめるな。
岩手をのんびり歩くぞ。
7月初旬で日も長い。ただでさえ、コースタイムだって短い。
安心しろ。
もっと岩手を楽しむんだ。
雑草だって光り輝いている。
完全にミヤマキンバイの存在感が薄れるほどに。
どうだ、この絶景。岩手が持つポテンシャルの高さ。
すげぇー。
そんなに平日が忙しいなら、土日は寝てたらいいじゃない?
うんうん、正しいよ。そのご意見正しい(ひとり自問自答、開始)。
寝てるよ、ご心配なく。寝すぎで爆死。登山に来てもテントでめっちゃ寝てるし、登山だって飽きない程度に月2回だけにしてるし。
登山ばかりしてて逆に疲れない?
うん、いい質問だ(ひとり自問自答継続)。
ゲロ疲れるよ。でも仕事の疲れとは質が異なるからぜんぜん平気。
アホなんですか?
違います。ゴリラです。
アホだから毎週寝て過ごすことができないんですよね?違いますか?
違います。ゴリラだからじっとしてられないんです。
うほっ。
ここの気温は恐らく15℃も無いはず。
しかも10m以上の風が絶え間なく吹いている。体感温度は10℃以下。
のんびり歩いてる分には寒くも暑くもなく、汗をかかない程度でちょうど良い。
6月や7月の登山でも寒さに辛い思いをしたことがあるから、下界がどれだけ暑くなろうと、防寒具だけはしっかり準備してきている。
天狗の滑り岩に差し掛かった。長い梯子を登っていく。
ちなみに前に見える愛くるしいオケツは、今晩避難小屋に泊まるというパトロールのお方。
シーズンインすると避難小屋に交代制で泊まってるとのこと。
この後、貸し切りの山頂でいろいろ話を聞かせてもらった。
話は脱線してばかりだけど、先日、福岡のPayPayドームで、デーゲームのホークス対日ハム戦を観戦した後に、急いで翌日の仕事のために羽田行きの飛行機に飛び乗ったら、なんと試合を終えたばかりの日ハムの選手たちと同じ飛行機に乗り合わせて、大コーフンした。
あちきの弱いところで、一緒に写真撮りたかったけど声を掛けられなかったよ。
しかも、彼らはプレミアムシートではなく全員一般のシートに座るというサプライズ。
この日の勝利投手のポンセが、なんと自分と通路を挟んで2つ隣に座っている。
198cmの体型でさすがに狭そうにしているが、スチュワーテスに「オーケー!イッツオーケー!」と大きな声で受け答えしている。
普段からデブゴリラな自分も狭いシートにうんざりしてるけど、ポンセみたいな大男が小さくなって我慢している姿を見ると、本当に頭が下がる思いだ。
しかし、本当の意味で頭が下がるのは、ポンセの隣の席のおじさんで、座席に収まりきらないポンセ以上に小さく縮こまった姿には涙が止まらなかった。
本当に、ポンセの隣にならなくて良かった。
ちなみに、ジャイアンツと同じ飛行機になったこともあるけど、全員プレミアムシートだったな。
日ハムのお家事情は大丈夫なんだろうか。
少し、日ハムが好きになったよ。
あの時のポンセの隣りに座ってたお父さんの辛さに比べたらこんな登りなんぞ、屁でもない。
山頂の稜線はもう目の前だマエダ。
さあ、青空が待っている。
やはり岩手と自分は相性バツグンなのだ。
稜線はもっとお花畑
稜線に出た。ここから山頂までの0.4kmは花と大パノラマが広がる至福のコースらしいから、楽しみだ。
なんだこの、夜みたいな暗さは。
岩手とは相性バツグンと言ったばかりだが、舌の根も乾かぬ内に前言撤回させてもらう。
500km以上移動してこれじゃあいくらなんでも報われない。もしこのままここで死んだのなら成仏できないぞ。
カラマツソウ。
ハクサンチドリ。
登山道の端には高山植物が一杯。コイワカガミ。
山頂の避難小屋まで、残り100mを切ったところで、まさにオセロの駒がひっくり返った。
生まれて初めて「あっぱれ」という言葉が自然と口に出た。
先日久しぶりに古畑任三郎の再放送を見た。
突然話は脱線するけど、そんこと気にしない。
冒頭の田村正和のセリフ。
「え~、自分が周りから嫌われてるんじゃないかと心配してる皆さん。
え〜、ご安心ください。そういう場合は、本当にたいてい嫌われています。
んー、問題なのは人に嫌われてることを、分かっていない人の方で…ハイ。」
と、古畑任三郎特有の含みをもたせたセリフで始まった。
なるほど。
たしかに、時々自分を嫌われるようなことをしていないか?と疑って見ることは大事だ。
自分に当てはめてみると、
自分は誰よりもいびきがうるさいし、平常時から鼻息だってうるさい。体臭だってやべぇ。
安心してください。そういう人は、たいてい本当にゴリラです。
うほっ、うほほーーい!
問題なのは自分がゴリラであることを喜んでしまっている人の方で…ハイ。
この広大な風景。
野生のデブゴリラの生息地。
山頂からの大絶景
山頂には先程可愛いオケツをご披露してくれた管理人さんが今晩泊まるという避難小屋。
外観で分かる、有料の小屋となんら変わらない立派な造り。
中は後で見せてもらうとして、この避難小屋のすぐ隣りにある山頂へ行ってみよう。
またガスっちゃうかもしれないからね。
早池峰神社の奥宮と、甲斐駒ヶ岳で見かける様な刀剣がたくさんあって、実に修験の山らしい雰囲気。
最初の林道歩きを飛ばしたとは言え、コースタイムは短いから疲労感はあまりない。
毎度ヘトヘトとなり、天に召される展開ではないのだよ、ふっ。
蛇紋岩は滑りやすいというのが登っててよく分かったから、下山の安全をお頼み申すでゴザルでゴザル。
山頂はまるで、上毛かるたで言う「あ」の「浅間のいたずら鬼押し出し」的な景色。
岩がゴロゴロした地球そのものの姿。
しかし、早池峰山は浅間山と違って火山ではない。隆起して生まれた山だというのも、まさに至仏山と同じ。大古の岩が地表にでてきているという神秘の山なのだ。
そんなことは知らずに、山頂でボケーっとご飯を食べながら、画面中央のアカボシテントウを眺めていた。
たまにつんつんしたりして。
ナナホシテントウムシに比べて大きいから、テントウムシモドキ的な偽物かと疑ったら、本当にテントウムシだったという、何のオチもない話。
それぐらいボケーっとしていた。
平和だ。
今日は雲が多いけど、よく晴れた日には三陸海岸の海まで一望できるらしい。
ここで遅れて上がってきた管理人さんと談義しながらいろいろ教えてもらったよ。
秋田方面。
きっとたくさんの熊がいるんだろう。雲が無ければ岩手山や秋田駒ヶ岳、南は仙台方面の山まで見えるとのこと。
「へぇー、蔵王山も見えるんですねぇ〜」と相槌を打つと、
「いえ、蔵王山は見えません」と即却下される笑。
おにぎりを3個食べた後のおやつ。岩手名物を出すと見せといて、今日は福井名物の大福アンバン。
別に福井県に行った訳ではなくて、ケンミンショーを見て福井のアンテナショップに駆け込んだのだ。
ちなみに岩手には、オリオンベーカリーの「力アンパン」という餅入りの極旨アンパンがある。
が、今回は事前の仕込みが間に合わず、下山後に3個買った。
避難小屋の中を見せてもらったけど、かなりきれいだし広い。
少なくとも自分が東京でお世話になっている社宅なんかよりよほど清潔にしてある。
TVerがつながるならここで暮らしたい。
ゲッザーン開始
14時に登り始め、山頂に着いたのが16時頃。山頂の滞在時間はわすか30分ほど。
即席登山になってしまったけど、それでもいい。山頂までのプロセスが実に楽しい山だったし。
そう、山頂にもう少し長く滞在するぐらいなら、稜線に戻った方が楽しいと思って行動を再開したよ。
というわけで、バイケイソウの花。
ちょうど見頃。
花火のようなカラマツソウ。
ミヤマカラマツとカラマツソウがあるらしいけど、その違いはとんと分からない。
そして、チングルマ。
6月~7月アタマまで見られる高山植物の主役。7月中旬からは綿毛、秋には地表を紅葉で染める、無雪期の登山シーズンはチングルマ無しでは語れない。
山頂稜線はまるで日本庭園。
団子と濃い緑茶でもありゃ最高だ。赤福を1箱一気食いしたい。
チングルマはまさに見頃を迎えていた。夕方なだけに山頂も下山は登山口までずーっと貸し切り状態だった。
河原の坊の駐車場の手前で家族連れを抜いたけど、ほんと贅沢な登山が楽しめたよ。
熊にびくびくしながら下山したけど。
山頂付近はお花畑。ミヤマヤマブキショウマ(右上)、ミヤマアズマギク(中央左)、ミヤマシオガマ(左下)。
ミヤマミヤマって・・。
中学生の頃、歴史の授業で次々と出てくる平(たいら)のなんちゃら、藤原のなんちゃらにうんざりして、バッサリ捨てたトラウマがよみがえる。
もう、あちきにはミヤマクワガタしか覚えられない。
そして特別天然記念物のハヤチネウスユキソウ。
ミツバオウレン(右)とコイワカガミ(左)。
書くのに疲れてきたから見たまんまの説明。
ハヤチネウスユキソウの大群生。
山頂付近の稜線は早池峰山の最大の見所と言ってよく、コースタイムの短さによる物足りなさは一切感じさせない、圧巻の景色。
高山植物帯は特別天然記念物に指定されるほど種類が多いそうだ。すげっ!
恐怖のツルツル蛇紋岩
誰よりも引けた腰で、慎重に下っていく。
慎重に慎重に。
梯子の次はツルッツルの蛇紋岩を泣きながら通過。
砂礫帯までくれば一安心。
パトロールの方も、何度もここに登ったことのある知り合いが、最近滑って怪我したから気をつけてねと話していた。
ビビリな自分には何よりも効く薬だった。
真ん中に白く見えるのは、注文の多い料理屋だろうか。
いや、違う。小田越の登山口にある小屋だ。
遠そうに見えてめちゃ近い。山の遠近感は難しいのだ。
さらば早池峰山。
ここから樹林帯へ突入する。
市松模様の木道をてくてくと。
河原の坊へ林道歩き
小田越に戻ってきた。
当然ながら、もう誰もいない。
登山口前にいたサラリーマン風の男性も姿を消してしまった。みんな化け猫に食べられてしまったのか。
実に寂しい限りだ。
小田越の登山口から見上げた早池峰山はすっかりガスの中。
雲の多い1日だったけど、山頂で晴れてくれたのは奇跡だった。
あとは河原の坊への林道を歩くだけ。
コースタイムが短く、日も長い7月初旬だったから14時から登り始めても無事に下山できたけど、やはりこんな時間から登るもんじゃない。
注文の多い料理屋が現れる恐怖なんかより、リアル熊の出現に怯えながらの下山になったよ。
寂しく歩いてると、前から走ってきた軽トラのお爺さんが「あんたが最後~?」と笑顔で話しかけてきた。
どんだけ安心したか。
ありがとう、お爺ちゃん!
別れ際に、
「熊が多いから気をつけてな~」と
最後にしっかり熊を意識させる余計な一言を放ち、去ってった。
そんなこと言うなら河原の坊まで乗せてってほしかった(T_T)
かなり急ぎ足で河原の坊に到着してみると、意外とまだ多くの車が残っていた。
だいぶ飛ばしたから先行してたハイカーに追いついたらしい。
ゼェゼェ言ってると、帰りの身支度をしていた2人が「お疲れサマ〜」と話しかけてきてくれて、熊の緊張から解き放たれたよ。
岩手の方々は気さくで優しい人ばかりでホクホクになったよ。
振り返って
100mを走るスプリンターは、スピードが乗ってくると、空を飛んでいる感覚になるらしい。
(いきなりだが、世界陸上に触発されている)
空を飛んで、体がバラバラになりそうになるのを鍛え上げた筋力で抑え込み、腕と足の動きがちぐはぐにならない様に、必死に姿勢を維持しながら走る。
ものすごい速度で景色が流れていく。
スプリンターは素質だ。努力ではどうにもならない。
選ばれし天才達が、もともとの走力、仕上げてきたコンディション、気持ち、その全てをピークに持ってきて突っ走る。
高次元な世界で、自分の走りができた者だけが上に行ける。
空へ。
もっと速く!
早くちねぇと!
ん?
早くちねぇ山。
てへっ。
なんの話だ、これ。
元々は福島県の一切経山か田代山に行こうと準備をしてたんだけど、急遽、東京から倍近く離れた秋田駒ヶ岳に変更。
早池峰山も前々から憧れの山だったから、なんとか秋田駒ヶ岳とセットで東北遠征ができたらいいなと無理やりねじ込んでみたよ。
ほんと、日が長い時期だからできた企画。早出が基本なのは分かっちゃいるけど、たまには無茶してみるもんだ。
おかげでカトウハコベもハヤチネウスユキソウもみることができたし。
結果オーライ。よかよかー。
という訳で、次はチングルマがちょうど満開を迎えた秋田駒ヶ岳へ。
ではでは