パスタの街、群馬県高崎市。このパスタ激戦区で勝負する男がいる。
彼の夢は、高崎キングオブパスタで優勝し、パスタ日本一の称号を手にすること。
そう想い続けて、今年で節目の5年目を迎える訳だが、「くそっ、高崎以外でなら繁盛間違いないのに!」が、すっかり口癖になってしまうほど、うまくいってない。
そんなある日、高崎から遠く離れた片田舎で、たまたま立ち寄った洋食屋のスパゲティに衝撃を受ける。
こんな片田舎のパスタ、どうせ味を盗んだってバレやしないだろう。
男はどうしてもその味付けを知りたくて、半分ほどコソッと持ち帰り、味を調べることにした。
まんまと盗むことに成功した彼の店は、一気に繁盛した。
連日長蛇の列ができ、マスコミが押しかけ、今年の高崎キングオブパスタ優勝候補と騒がれ始めた。
「日本一の称号まであともう少し。もう少しで人気店の仲間入りだ」
しかし、テレビで騒がれてしまったために、洋食屋に盗んだことを知られてしまった。
「俺の・・秘密のレシピを…。あいつ、絶対に、絶対に許さねぇ!」
そう言って目の前に現れた男の顔は、もはや人間の形相をしていなかった。
「お前を殺しに来た」。
店主は土下座して謝った。
「もう二度と盗まない、あの料理は二度と客には出さない!だから殺さないでくれ!」。
「分かった。今回だけは許してやるが、絶対に約束を守れよ」。
洋食屋は拍子抜けするほど、あっさり立ち去って行った。
しかし、あの目はヤバかった。もうパクるのはやめておこう。何をされるか分かったもんじゃない。
彼の店は瞬く間に、元の人気のない店へと戻ってしまった。
ちょうどその頃、自分と同じタイミングでパスタ屋を始めた知人の店が、人気店になっているのをテレビで見た。
思い起こせば、自分は料理の才能も無ければ、大した努力もしてこなかった。今更だが、甘っちろい考えだったなと思い知らされる。
高崎キングオブパスタ開催まで、もう時間がない。
今度こそ新メニューを考えよう。このままでは優勝どころか、入賞だって無理だと、必死に考えた。
しかし、新メニューはできなかった。。
高崎キングオブパスタ当日。
見覚えのあるテレビ局のディレクターがこっちに気付いてやって来た。
「ねえ、あれ作るのやめちゃったみたいだけどさ、ここで出してみんなを驚かすつもりなんでしょ?」
「楽しみにしてるから。後で寄るね。」
あのパスタさえ出せれば、優勝できるかもしれない。
成功した知人の映像が思い起こされる。
俺だって成功したい。
あのパスタさえ出せれば。
ええーい!もう後悔なんてしない。どうなっても構わない。
男は一心不乱に、秘密のレシピを作り始めた。
「美味い!やっぱり美味いよ、このパスタ!」
人が人を呼び、たちまち行列が伸びていく。
「これ優勝間違いないよ。やっぱ美味いわ!」
パスタを頬張る客の様子を見てマスコミもやってきた。
「これだ、これが見たかったんだ。もう他に何も要らない」
男は次から次へと自分のパスタを求めに来る客を見て満たされた。
時間終了。入賞は間違いないだろう。果たして優勝は。残すは結果発表を待つだけ。
しかし、あの男はすぐそこに来ている。
なぜ、約束を守らなかった?
「家族を養うためには仕方がなかったんだ」と、苦しい反論をしてみた。嘘ではないし、どうせ許してくれる。
未だそんな甘さがあった。
「違うね。安定した収入をお望みなら、料理人なんて仕事はとっくにやめているはず」
「結局アンタは自分のことしか考えてねえのさ。家族が苦労しようと関係ない」
「何が何でも脚光を浴びたかった。それが本心だろ。最初にアンタを見てすぐに分かった。どうせすぐ、俺との約束は破るだろうって」
そう言って、男は化けゴリラへと姿を変えた。
「一生、悔やみな」
店主に襲いかかった。
谷川岳に幽閉された店主は、死ぬまで岩の上で懺悔させられたという。
それがあの、西黒尾根にあるザンゲ岩の由来になったとさ。
なんてねー。久しぶりのいんちきストーリー、長かったわー。
高崎キングオブパスタ、一度行ってみたいわー。
もう何度も谷川岳には登ってるけど、この日はほんと条件に恵まれて、やっと冬の西黒尾根を完全踏破することができたよ。
上りも下りも西黒尾根、ピストンさ。
5年前、猛吹雪の中をひたすらラッセルして、ざんげ岩のちょい手前で撤退した。
ものすごい風と地吹雪。巨大な雪庇とホワイトアウト。西黒尾根の厳しさを思い知った。
つか、今思えばあまりに条件が悪かった。
ロープウェイも強風で止まる程だったしね。今ならあんな条件で山に入ることはまずしない(笑)
今回は完璧な晴れ予報。
森林限界を越えて姿を見せる谷川岳の大絶景に、これが見たかったんだ!って感動した。マチガ沢をのぞいてみれば吸い込まれそうになるし、大迫力の東壁にも圧倒される。
やっぱり西黒尾根は特別だと思い知らされたよ。
谷川岳は日本百名山。
自分の中では百名山の中でもトップ10に入れる名峰(百名山ぜんぶ登ってないけど)
ルートとコースタイム
■2023年1月22日 ※カッコ内は標準コースタイム
ロープウェイ駐車場⇒(10分)⇒西黒尾根登山口⇒(150分)⇒ラクダのコル⇒(80分)⇒トマの耳⇒(15分)⇒オキの耳⇒(75分)⇒ラクダのコル⇒(120分)⇒西黒尾根登山口⇒(10分)⇒ロープウェイ駐車場
コースタイム:7時間40分(休憩含まず)
総距離 8.1キロ
累積標高上り 1,380m
冬の西黒尾根 本編
ロープウェイ駐車場からスタート
谷川岳ロープウェイのチケット売り場は相変わらず繁盛してるなー。
経営が東武から星野リゾートに変わって、往復料金はなんと驚愕の142%アップ!
2,100円から3,000円に上がったと言うのに(2023年シーズン)、相変わらずの人気。
ちなみに駐車場代が別途500円かかるんだから、もう自分はロープウェイを使うことはないだろうな…。
サッカーくじが当たれば話は別だけど。
外に出てみれば、おっさんの鼻腔をツーンと刺激する冷えた空気。うーん、良い天気だ!
昼過ぎからもっと天候は良くなるって言うんだから、坐骨神経痛をいたわりながらのんびり登るかって感じ。
さてさて、今は8時。
ほんとはもっと早くスタートできたんたけどね、
着くなりトイレに駆け込んで15分ほどスタートが遅れちゃったのよん。
スペシャルな1日が始まると言うのに、腹下しからのスタートだなんて自分らしいじゃないか。
お腹を冷やしたのが原因。
真っ先に雪山の洗礼を浴びる形になってしまうなんて、、やはり冬の谷川岳は手強い。
ちなみに、期待して飛び込んだウオシュレット付きのトイレは、まさかの凍結防止のためによるボタンを押しても作動しないというノンウオシュレット状態。こちとら時間がないのだ。強で一気に洗浄したかったというのに。
便座が冷たくなかっただけありがたいと思わなきゃ。
これだから、冬の谷川岳は手強い。
登山開始
さて、取り付き。
5年前は登山指導センターの横から雪壁を無理やり乗り越えて取り付いたけど、この日はゲート横から。スタートからトレース泥棒してのアプローチ。
ノートレースも覚悟してたけど、たくさんの野良ハイカーがいる。
(これからロープウェイ組をブルジョワハイカー、それ以外を野良ハイカーと呼ぶことにした(完全にひがみだ)。
しかも2組ものパーティも入ってる。
厳冬期は変態しかいないと聞いてたけど、今日はお祭り騒ぎだ。
おぉ。。
標高が低いところから霧氷が始まるなんて、この先の絶景に期待できる。わくわくでっせ。
霧氷どこ行った?
突然、みごとに消えるイリュージョン。
生唾ものの絶景に心を踊らせていた自分がバカみたいじゃないか。
いつもは無口で無愛想で難しい部下が、今日は機嫌よくやたら相談しにくる。
ん・・もしかしてもしかして、やっぱ最後に頼りになるのはこの人だけだなぁーとか、実は尊敬されちゃってんじゃねー?
とか浮かれた瞬間、「来週は有給と在宅と土日を繋げて1日も会社出てこないつもりですけどー、いいですよね?」
って言われた時と同じぐらいバカみたいじゃないか。
ふっ。こんなことは珍しくない。
やっぱ厳冬期の西黒尾根より、会社の方がはるかに手強い。
朝日がぐんぐん昇っていく。
気温は低いけど、いきなりの急登で暑くなってさっさとハードシェルを脱いだよ。
ハードシェルの下はベースレイヤー2枚の重ね着。
白毛門も晴れ渡る。
白毛門は2月と5月に歩いたことがあるけど、5月の残雪期はイヤらしい所に雪が残ってたり、藪が出てたり、すっごく歩きにくくて、ちょっとトラウマ。
急登ゾーンを抜けると、広く開放的な尾根道を登っていく。
トレース通り、樹林側にルートをとっていく。
薄っすら雲が広がってきて、少し太陽を隠すと夕焼けみたいに紅い空になった。
不思議な空だなぁ〜、景色よいなぁ〜。そんな風に冬景色を楽しみながら登ってたらさ、
そしたらさ、突然襲ってきたんだよ。
え!?
(間に合わない!!)
ガンッ。
これはその時の再現画像(下山時に撮影)
木の枝が見えてから顔面を強打するまでは一瞬の出来事。
そこから後ろにぶっ倒れるまでの間は、出会いは〜スローモーション♫(中森明菜)的な、時がゆっくりに感じられた。
つか、爆裂痛かったもんね。
しっかり鼻血も吹き出たし。
10分ほど鼻血が止まらなくて、しばらく上を向きながら歩くという雪山サスペンス。
顔面にもしっかり傷ができて、1週間ばかし、かさぶたが痛々しかった。
鼻血が垂れないように、ゆっくり後ろを見れば武尊山。
少しずつ沼田や新潟方面からこちらへと雲がやって来てる。
午後に向けてどんどん天気は良くなる予報というのは、果たしてほんとか?
樹林の隙間から、谷川岳が見えてきた。
谷川岳を確認したら軽く休憩。
今日は魚沼産コシヒカリを使用した、大根味噌漬けおにぎりが行動食。
ここ群馬は味噌の聖地。
ぼかぁねぇ〜味噌だと長崎県雲仙の「吾妻天塩味噌」が一番好きだなぁ〜と、水色のジャケットを着て加山雄三ばりに言ってみたいが、ここ味噌の聖地では許されない。
たださ、味噌好きでもない自分が、好きな味噌の産地と品名まで言えちゃうほど、これ、魅惑的なウマさなんだす。
つか、九州は昔から麦味噌文化だから、関東には馴染まないだろうけどね、ご興味あれば一度ご賞味あれ。
ちなみに、この「吾妻天塩味噌」は、島原に立ち寄っても、スーパーとかでなかなか見当たらない。
販路が狭いらしく(人気ないのかな)、どこで売ってるか事前に調べて行かないと、なかなかお目にかかれない一品。JAの通販で買うのが一番確実。
では話を戻そう…。
ここから森林限界
そしていよいよ森林限界となり、岩場が出てくる。
そんな訳で、ここからはアイゼンちゃんとピッケルくんの出番。
ピッケルはあくまで滑落した時に止める道具だからストレートなタイプで十分。ダブルアックスで登っていく様な山とは無縁なのねん。
最初の岩場を越えれば谷川岳がドーンとお目見え。これをロマンと言わずして何という。
素晴らしい。
この景色が見たかった。
アップで。
スノーピークの社名の由来になっただけあって、遠くからも谷川岳の白さは際立つ。
さて、ここから西黒尾根で最も気を付けるべきポイントが連続する。
繰り返すけど、この日はトレースが付いてたから楽させてもらったよ。
右のマチガ沢側に落ちたら這い上がってくるのはかなり厳しい、かと言って左側に落ちれば命はない。
しっかりアイゼンを蹴り込んで、ピッケルで滑落防止体制を取りながら進む。
振り返ると後ろから続々とやってくる。
ラクダのコルへのこの下りは慎重に。
今日は視界も良い。風も弱いし、こういう日を選んで来よう。
標高を上げると白毛門の奥の山々も見えてきた。
右下のピークが白毛門。真ん中左寄りのピークが笠ヶ岳、真ん中の一番高い山が朝日岳。
ダチョウさんの押すな押すなしたらマジであかんポイントだ。
ラクダの背を越えたら再び下り、登り返す。
左側に大きな雪庇が育ちやすく、ここも見どころの一つ。
ここら辺で、登り始めの時に前を歩いてた方が(一瞬で引き離された)、急に息苦しくなったと言って、戻ってきた。
もしかしてシャリバテ?と思って、キャラメル一つあげたよ(笑)
しばらく歩いてみてから体調の悪さに気付くこともあるからね、早いタイミングで撤退を決めたのは良い判断だったよ。
特に避難小屋が使えない雪山において、撤退の即時判断はどんなケースであれ正しいと思う。それが成功か失敗かは別にして、正しい。
意地になったばかりに行動不能になって周りを困らせるのが一番困る。
だから、撤退なんてものはどんどんすればいい。
食べることから撤退できない自分は、毎度、過食で行動不能になることが多い。あしからず。
つか、今回の登山みたいに、5年前に撤退した山に登頂できたら、何倍も感動的だし、達成感もハンパない。
焦らず待てば、ベストコンディションにきっと巡り会える。
どーだ、条件は抜群に良い。
登山前にさんざん腹を下しまくってたことなんて忘れちゃうほどの大絶景。
最後の急登を前に、ここでも小休止。
もう大丈夫だろうと思ったところでも、マチガ沢側に今にも雪崩れそうなクラックが入ってるポイントがあって、再びお腹緩むわー。
ちなみに、本日の行動食はさんざん悩んだ末、羊羹にしたんだけど、手がベタベタになるから、手袋をはずさないと食べれない物だってことに今ごろ気付いた。
ふっ。持ち帰ろう。
終わらない急登
狭い区間を抜ければ、あとはザンゲ岩に向けて急登を登る。
疲れてきたところで、この急登がとにかくしんどい。
もうね、こんな顔になってたわ。
ああ、この風景。
毎年、こういう岩の出方してるんだな。
よーく覚えてる。ここで力尽きたんだよ。
これが5年前、急登のラッセルに喘ぐ自分の姿。
この急登の途中で、下山の体力も考えてそろそろ引き返した方がいいなと、判断したんだった。
よくこの条件でここまで頑張ったと思う。今の体力では考えられない。
横を見れば傾斜角度が分かりやすい。
40度はあるんじゃないの。
ロープウェイ山頂駅よりもだいぶ高くなった。
往復3000円を余裕で払えるブルジョワハイカーとの合流までもう少し。
西黒ヤロウは草でも食ってろ!と差別されないか心配だ。
さあ、5年前を超えたぞ。
この夢に見た光景も一瞬で忘れてしまうおっさんの記憶力が悲しい。
カメラやっててほんとよかった。
マチガ沢を覗き込めば、吸い込まれそう。
すこし傾斜が緩んできたけど、山頂まではまだまだあるなー。
白い世界だとどうしても距離感が分かりにくい。自分とゴリラ、どっちが本当の自分か分からなくなる以上に分かりにくい。
前からやって来た男性が、
「3時から登り始めて、これ僕がトレース付けたんですよ」と突然話かけてきた。
「あ、あ、ありがとう」
「僕が付けたんですよ」
「う、うん、ありがとう(しつこいな)」
彼の後ろ姿を見送ると、他のハイカーにも
「3時から歩き始めて、コレ、僕がトレース付けたんですよ」
って話しかけてる(笑)。
もう、分かったよ。
ニョキニョキ育った雪庇。
YAMAPで密かに流行っている、西黒尾根名物「雪に映る自分の影」。
真似てみた。
やっぱり、まだまだ登らせるのね。
西黒尾根は短い距離で1,400mも登りつめる。こちとらお腹が緩んでるというのに、なんて鬼畜なんだ。
鬼畜の代償は、美しい雪景色。
と言いたいところだったが、怪しい雲がだいぶ増えてきたじゃない。
歓喜と呪詛が入り混じったかの様な光景だな。
そろそろ休憩して座り込むハイカーも増えてきた。
自分は雪山の場合、なるべく立って休むようにしている。
おケツを冷して、今よりもっとお腹を緩くしてしまうのをなるべく避けたいのがその理由。
強く握ってもサラサラ〜と無くなってしまうパウダースノーに寝そべりたくなる気持ちはわかる。だが、お漏らししてべちょべちょにする訳にはいかないのだ。
一気に傾斜が緩くなったけど、いい加減長い。いつまで経っても肩の小屋に着かないイメージ。
左を見れば遠くに赤城山。
そして手前に見える尾根は、先ほどから言ってるロープウェイ利用者のみが歩くことを許されたブルジョワリッジ。
おお、やはり、そなたもボンビー尾根を歩いておったか!大儀であるぞ!
ここで知り合いと偶然の再会。お互い同じBDのソロイストでガッチリ握手。
向こうがサングラスとバラクラバを外してたから気付けたけど、なんとも奇跡みたいな再会だった。こういう出会いは嬉しいもんだね。
ちなみに、神々しく光り輝いて見えたブーツをまじまじ見れば、ゴローじゃないの。ぜんぜんボンビーや無いやーん(笑)。
そして、この運命的な出会いを果たした後、
前を向いてビビった。
真っ白やーん!!
ここまで青空だったというのに、まさかの曇天。
午後から天気が良くなる予報だったはずが、どんどん悪くなっていってる。
ブルジョワハイカーと合流
これは…。福岡空港の保安検査渋滞か?
いや、ちがう。以前ヤフーニュースで見たエベレストの大行列だ。
定番の道標も、ああ、真っ白…。
シレっと、何食わぬ顔でブルジョワの列に仲間入りを果たした。
まっこと愉快ぜよ。
あちきは肩の小屋へは寄らず、良き気分のまま山頂を攻め落とすことにする。
良き気分は一瞬で萎えた。予想以上に寒い。。
真っ白、風びゅーびゅー。コンノ、ここに愛はあるんか?
とりあえず、形だけでもピークを踏んで、冬の西黒尾根を完登しとこう。
そんな思いが伝わったのか、一瞬ガスが晴れた。
トマの耳はハイカーだらけ。
こりゃ無理だわ、と悟ってオキの耳へ。
トマの耳からオキの耳までの移動がこれまた猛烈に寒い。
コンノー!コンノー!愛はあるんかー!
どんなに叫んでも風でかき消されて、周囲には一切聞かれない。
ストレス発散にはもってこい。
山頂はブリザード
オキの耳にタッチひろし。
カメラのストラップが映り込んじゃったけど、寒すぎてそんなことまで気が回らない。
「焦らず待てば、ベストコンディションに巡り会えたりするわけさ。」
つい一時間前、撤退する人を見て自分が呟いたこの一言が思い起こされる。
なにがベストコンディションだ。地獄じゃないか。
長居は無用。
ひとまず肩の小屋へ戻ろう。
地吹雪を巻き上げ、景色が目まぐるしく変わる。
地獄だ。
あ、すこし晴れた。
天気が悪い時ほど、絶景が見られるという話は嘘ではないんだなと、10人ぐらい立ち止まって写真撮ってたよ。
ロープウェイにするか西黒尾根にするか
肩の小屋に戻ってきたぞい。
もはや氷より冷たくなったおにぎりを食べた。
何が楽しくて、こんな冷えた飯を食いに山に登ってるんだか、分からなくなるよ。
これ以上お腹が緩んだら人としての尊厳を保てない事故を起こしてしまう恐れがあるから、白湯を飲んで胃を温めた。
これまで生きてきて、一番うまい白湯に出会えた気がする。
さーて、寒いし、天神尾根からロープウェイで下山しよっかなー。
下山はロープウェイで。
片道ぐらいならなんとか払える。
そう思って30mほど天神尾根を下ってみたんだけど…。
天神尾根もロープウェイ駅まではそこそこ距離あるしなぁー
乗るまでに行列並ぶだろうなー、
並んでる間は寒いよな〜…。
やっぱ西黒尾根でゲッザーンする!
無駄に天神尾根を下った分、登り返して、再び西黒尾根へ。
今日は西黒尾根のピストンで完全制覇を果たすぞ。
長大な尾根をゲッザーン
お腹を下すおっさんが、名実ともに下っていく。
もし気が緩めば、ここを脱糞尾根という汚名を着せてしまうことになるだろう。
いい大人なのに、そんなのは恥ずかしすぎる。
「慎重に!」とか、「集中!がんばれ!」とか、言葉にしながら下っていくんだけど、歩行上の注意ではなく、お腹の緩みに対する自分へのエール。
とは言え、危険地帯は確かに多い。
この雪庇はゴリラ級の体重を支えるには心もとない。
安全を見てトレースよりもっと左寄りを歩くことにしよう。
滑ったと同時にピッケルが雪に刺さる様に、滑落防止姿勢を崩さずに進む。
登ってるときは、なんて素晴らしい世界だと何度も立ち止まって感動していたというのに。
なんて天気になっちまったんだ。
風が強くてゴーグルを外せないから、どう撮れてるのかよく分からないまま、シャッターをポチポチ押してる。
猫にラーメンマンのヒゲを追加するだけで老師感がでることの新発見。
樹林帯は癒やしゾーン。
ここからは風もないし、鼻くそほじりながらでも歩ける。
谷川岳の象徴みたいな東壁が間近に見える。木々も相まってモノクロな世界を醸し出す。
これが何人もの命を奪ってきた谷川岳の本当の姿なんだろうな。
ゾッとするわ。
ぜんぜんゾッとしていなかった。むしろ浮かれてたわ。
鼻血を吹き出し、顔面に傷を作り、山頂でブリザードに見舞われ、腹も下している。
今回もたくさんの不幸に見舞われたが、緊張から解き放たれ気が緩んだおっさんの舞がこれだ。
もうすぐゴールなのねん。
こんな天気だけど、まだ山頂にはたくさんハイカーがいるんだろうなぁ。
土合駅周辺のお土産屋さんが近くに見えるところまで下りてきた。
午後遅くなるほど晴れるというのは、麓の話だったのねん。
タヌキかイタチか。
全国的に、野ウサギが減っていているらしい。鹿は増加しているのに。
フクロウなどの猛禽類も減ってきちゃうよね。
さあ、谷川岳登山指導センターも見えてきた。
気が早いけど、お疲れちゃん!
肉と米!
ここで南魚沼エリアで行われている「本気丼(マジ丼)キャンペーン」なるものをご紹介しとく。
新米の季節10月からから3月の春先まで、南魚沼エリアを中心とした各店が、魚沼産コシヒカリを使った大盛りどんぶりを出している。
米好きなら、腹下してても食べて帰るべし!
振り返って
10月ぐらいから、福岡空港の混雑っぷりが異次元過ぎてヤバい。
保安検査場まで300m以上の列、2〜3時間待ちになる異常事態。こんなの羽田でも成田でも見たことがない。
これ信じられる?
そりゃ乗り遅れる人もいるよ。。
一年で一番混む年始に混雑は解消されてたから、元に戻ったんだなぁと安心してたんだけど、ぜんぜん課題解決されてなかったのねん。
検査員不足の中、観光客や自分のように仕事で飛行機を利用する人の増加が重なったのが原因。
福岡空港は、滑走路が一本しかないことで生じる飛行機の渋滞は以前からの名物だった。今から飛び立とうとする飛行機の後ろに、これから着陸しようとする飛行機がもう来てて、見ているこっちがハラハラするほど。
これで紛れもなく日本一混む空港になってしまった。
福岡空港をご利用の際はツイッターで今の状況を確認してから行動すべし。
こんなことを書くつもりではなかった。
三笘の1ミリ?いやいや、俺は刈り上げバリカン9ミリだぞ!って書こうとしてたんだった。もういいや。
朝の腹下しはヤバかったけど、最後までお漏らしせずに歩けてよかったよ。
こういう非常事態にきれいなトイレがある谷川岳って有り難い、ほんと。
さて、冬の西黒尾根。
この2週間後、雪庇を踏み抜いて遭難された方もいたり(無事に救出)、一年前には遭難死亡事故も起きてるし、難ルートなのは間違いないので、どうぞ慎重に。
谷川岳は春夏秋冬、天神尾根、西黒尾根、厳剛新道、主脈も歩いたから、次は馬蹄形かな。
ロープウェイは値上がりしちゃったけど、トイレきれいだからまた来ます。
ではでは