男は激しく肩を落としていた。
毎日、熾烈なパワハラにも耐え抜いてきたこの男が、これほどガッカリしているのは珍しい。
いったい何があったのか。
ホークスの12連敗が理由か?
いや、違う。話は一年前に遡る。
忘れもしない、台風が接近する中で歩いた暴風雨の裏銀座縦走。
時おり突風が吹く稜線と打ちつける雨に耐えながら、烏帽子小屋から双六小屋まで歩いた。
双六岳では体温が下がり、立ち止まったら死んでしまうというリアルな恐怖を感じつつ、必死に双六小屋まで歩いたことは今でもトラウマになっている。
しかし、肩を落としている理由はこれではない。
この翌日の出来事。
その日は台風一過の快晴で、西鎌尾根から槍ヶ岳までは完璧な青空だった。
絶景だった西鎌尾根も残すは槍ヶ岳のみ。
さあ最後の槍ヶ岳を踏みに行こうとしたまさにその瞬間、突如槍ヶ岳の背後から黒い雲がもくもく湧き出て、あれよあれよという間に辺り一帯をガスが覆ってしまったのだ。
疑いようのない青空だったのに。
雲ひとつ無い空だったのに。
まさか下から黒い雲が湧き起こってくるなんて。
今思い返してみても恐ろしい光景だった。
しかも、これで終わりではない。
結局、槍ヶ岳でたっぷりガス景を堪能した後、下山を始めると突如襲ってきたのは、猛烈な吐き気だった。
こみ上げてくる嘔吐に何度も何度も足を止め、槍沢ロッヂで横にならせてもらったりしながら、なんとか上高地発の最終バスに乗るべく、泣きながら歩いたのだった。
今思えば、間違いなく熱中症だったな。
あんなに辛く、ガッカリした旅はない。
そんな訳で、やっぱり今シーズンの北アルプスはここからスタートすることになった。
今度こそ、快晴の双六岳と西鎌尾根からの槍ヶ岳に登って胸キュンするんだ。
双六岳は今回で3度目だけど、過去2回ともガスガスだったからね。
今回が「三度目の正直」になるのか、「二度あることは三度ある」になってしまうのか。
満を持しててんくらA予報を狙ってやって来たわけだけど、予報がコロコロ変わる梅雨空だからね、
果たしてどうなることか。
これでガスったらつくづく双六岳とは縁がないと思って諦めるよ。
では、双六岳〜槍ヶ岳の1泊2日の山旅。
前編の双六岳編です。
ルートとコースタイム
■2023年7月16日(1日目) ※カッコ内は標準コースタイム
鍋平登山者駐車場⇒(40分)⇒新穂高温泉⇒(80分)⇒わさび平小屋⇒(235分)⇒鏡平山荘⇒(140分)⇒双六小屋⇒(65分)⇒双六岳⇒(55分)⇒双六小屋
コースタイム:10時間15分(休憩含まず)
総距離 17.7キロ、累積標高上り 2,050m
双六岳~槍ヶ岳縦走登山(前編)
鍋平から新穂高までですでに疲れる男
鍋平の無料駐車場。
ここに来ると、否が応でも戻ってくる時の登り返しのことを心配してしまう。
今年はロープウェイがメンテナンスのため運休中だしね。
鍋平からはこの登山指導センターの表示に従って進む。
はじめてここに来たときはこの近道を知らずに車道を延々と歩いたもんね。
あの頃はうぶだった。
ちなみに、まだコロナ童貞です。うふっ。
途中でトレイルが沢になってて、かなり歩きにくい。いきなり靴を濡らしたくないから、ソローリソロリ下っていく。
ロープウェイがメンテナンス中なのは予想外だったな。帰りはここを登る体力を残しておかないと。
新穂高温泉の登山指導センターに到着。
ここからすべてが始まるというのに、すでに疲れているのは鍋平ならでは。
でもへっちゃら。てんくらA予報なんだもんもん。
ワサビ平小屋へ移動
おいおい、ちょっと待ってくれよ。
ネット予約制の駐車場ができとるやないかい!!
次回から必ずここ予約する!くそっ!
歩き始めてすぐ風穴で5秒だけ涼む。
先は長いからこんなところで長居はできない。
この長い林道をただダラダラと歩いていく。
今回の旅は晴れの双六岳を狙うことと西鎌尾根の絶景を目的にしているから、ここら辺の移動はだいぶ端折って書くよ。
何と言っても双六岳は3回目だしね。
レインウェアを着るまでもなかったけど少し雨がぱらついたり怪しい空模様。
笠新道を登る勇気ある方々に、心のなかで「あんたたち、ほんまもんだよ」とエールを送る。
笠新道は下りで歩いたことがあるけど、下りでも鬼畜に感じた激坂をよく登る気になるよなぁと、この時はそう思ったけど、新穂高温泉から槍ヶ岳までの長い長いルートも鬼畜度は負けてないよなぁと翌日以降思い知ることになる。
やっぱ槍ヶ岳は一筋縄ではいかない。
花手水風にフルーツや野菜を浮かべてハイカー達の癒やしになっているわさび平小屋に到着。
ここは水が豊富な山小屋だから、ここで水分補給させてもらうのは最初から予定通り。
ここまで水は500mlしか持ってきてなかったけど、ここでしっかり2リットル補充して出発。
鏡平でオコジョ
わさび平を過ぎると小池新道入口がでてくるわけだけど、ここから双六小屋まではなんと6時間もかかる。
新穂高温泉から数えれば7時間。
鍋平からだと7時間半以上というまさにデンジャーゾーン。
トップガンマーヴェリック最高。
釣り人を2人発見。
新穂高温泉周辺では、とても魚には遡上できない大規模な堰堤がいくつも建設中だけど、魚なんているんだろうか?
知床が世界自然遺産の登録に当たって、IUCNから河川の構築物の撤去を求められ、元の姿に戻す工事をしたと聞くし、こうした灌漑工事が全部本当に必要なのか疑問に思ってしまう。
この先、恐ろしく濃いガスが垂れ込めている。
てんくらA予報なんてすけど…。
梅雨時の樹林帯で致死量の汗をかいた。
そんな時に救ってくれるのがここ。
沢の上にうっすら靄がかかってるのは、なんと冷気なんだよ。信じられる?
ここは沢の上流にある雪渓の冷気が沢に乗ってゆっくり流れて来るからめちゃくちゃ涼しいポイント。
とにかく小池新道で休むならここが定番。
しかしなぁ、この天気エグい。
また少し雨が降ってきたし。
と思えば、ガスは少し晴れてきた。
こういう瞬間がシャッターチャンスって分かっちゃいるけど、重たいザック背負ってるとカメラを取り出すのも億劫になるんだよね。
ちなみに自分はカメラの収納には、昔からパーゴワークスを愛用してて、スウィングLとフォーカスⅯの2つのカメラバッグを使い分けてるんだけど、最近はどちらかと言えばフォーカスの方が出番が多い。
スウィングの軽量さは魅力なんだけど、マジックテープが弱くて、2回ほどカメラをぽろっと落としてしまったことがあって不安なんだよね。
そういう点でフォーカスは止水ファスナーでカメラのポロリ防止になるし(金たまポロリ風に言ってみた)、生地も強いし、なにより軽いからね。
ピークデザインのキャプチャーも検討したけど、やっぱりカメラを裸で持ち運ぶというのが心配だったからね、もう少し検討が必要かなと思っている。
足元に目をやればミヤマキンバイがすぷらっしゅ。
マジで癒やされちゃうここはどこ?
熱帯雨林と化した樹林帯だよ♫
おえぇ〜。
いや、まじで風が吹き抜けないから暑いのなんのって。
これでカンカン照りだったらと思うと恐ろしい。そろそろ登山にも携帯扇風機が必要だなと本気で思っている今日このごろ。
ワークマンの空調服って登山で使えないのかなぁと本気で悩んでいる。
登ってる間は曇りで、山頂で晴れてくれるというのがベストプランだと思ってたけど、風が無きゃ曇っててもダメかも。
キヌガサソウとてんとう虫のコラボ。
やっと着いた。
小池新道登山口から歩くこと2.5時間で鏡平に到着。
鏡平といえばの逆さ槍ヶ岳の絶景なんだけど、この日は見事なまでの白いベール。
ふっ。山頂で晴れればいいんだよ。
あっ、なんか動いてる!
最初ネズミかと思ったら、オコジョ。
俺に似て小さくてちょこちょこしててカワイイ奴じゃ。
晴れ予報を信じる健気なハイカー達で鏡平は大盛況。
自分もそのうちの一人だけど、こんだけ曇ってるとさすがに晴れるのか疑わしくなってきた。
鏡平と言えばかき氷。宇治金時は、は、は、800円!!
根っからのボンビーが染みついた自分にはどうやっても手が出ない。もはや2回分のランチ。
無駄にザック内のスペースを使っていたのがこいつ、カラムーチョ。
気圧で膨らんでいるのではなく、中身が増えているんだとプラスに思いたい。
次回からはポテチタイプではなくスティックにしよう。
記憶をたどって双六小屋へ
鏡平を出発してガスガスの弓折峠へ登っていく。
ここを登りきってしまえばあとは楽だ。
双六小屋まではたしか平坦な道になったと記憶している。
しかも、割とゆっくり歩いてきたつもりだったけど、今日の暑さとテント装備を考えればペースはもっと落としてよい。
せっかくのアルプスなんだからね、長く楽しまないと。
鏡平からえっさほいさ登って弓折分岐に到着。
ここまで登っちゃえば双六小屋までは楽な道のりなはず。
気が楽だね。
登ったわ。。
おっかしいなぁ。
ダイモンジソウ。
チングルマ。
ハクサンイチゲとミヤマキンバイ。
すごいすごい。
すごいお花畑。
ゴイスゴイス。
もう登らないと思ってたのに、登り続けてるんデス。
自分の記憶がいかに当てにならないか、痴呆の入り口に立っていることを確認できてよかった。
双六小屋が見えた。
体力的には余裕を残して双六小屋に到着できた。
はじめてここに来た時はヘトヘトで、小屋の手前で天に召され、テントの中でしばらく横になって動けなかったもんね。
クルマユリ。
クロユリ。
というわけで双六小屋。
予約してあったテン場のチェックインを済ませたら、とりあえず腹ごしらえだな。
たくさん食料は持ってきたけど、小屋の食事も楽しみたい。
ちなみにケーキは全部売り切れだったよ。
カルビ丼食べて、いざ山頂へ
カルビ丼1,200円に、ご飯大盛りどんっ!+300円なり〜。
テントでの食事って麺類が多くなるから、小屋ではやっぱり米を注文したいよね。
ご飯を食べてる間に天気が良くなってきた。
やはりてんくらA予報は正しかったんだ。わーい。
表銀座方面も本日初めての青空が見えちゃったりして、自分にとって、はじめての双六岳の晴れにGOが出た様なもの。
さあ、ピークを踏みに行こう。
双六岳の上空も雲の切れ間が見える。
どんどん晴れる。
これはイケる。イケるでー。
ちょっと登っただけで息が激しく切れる。
間違いない…、これは食べすぎだ!
カルビ丼を相席させてもらった方々は鷲羽岳へ散歩しに行くと言ってたけど、それはいくらなんでも自分には無理だったなと、ここで思い知った。
まあいい。自分は初の双六岳での晴れをゲットするのだ。
ガーハッハッハッ!
ひゅー。。
これは…ひどいぞ。
やっぱり、こうなる運命だったのか。
三連敗の男
はい、どぼぼーん。
まさかの三連敗。
二度あることは三度ある。
山ではよくあることだ。
それに、上には上がいる。今年のホークスが54年ぶりの12連敗という記録を樹立したんだから、こんなのは始まりに過ぎない。
これから4敗目、5敗目と続くかもしれないのに、3敗ごときで肩を落としていられない。
諦めきれずに、30分だけ山頂で粘ってみたけど、結局晴れることなく時は過ぎていき、泣きながら下山を始めた。
ところがである。
下山して3分後、振り返ったら山頂のガスが晴れるというマジカルボム。
今頃山頂では、アイツがいなくなったお陰でやっと晴れてくれたぜーと話題にしている頃だろう。
ちなみにホークスが12連敗を喫した時、地味に日ハムも13連敗という記録をマークしていた。最下位のチームが連敗記録を伸ばしたところで、これ以上悪くなることがないからあまり取り沙汰されてないけど。
日ハムに比べたら三連敗がなんだ。自分にはこれ以上悪くなる余地があるだけ幸せ者じゃないか!
来年また来てやる。
くそっ!
さっきからずっと表銀座は晴れている。槍ヶ岳だけは見えないけどね。
アオノツガザクラ。
カルビ丼でもたれる夜
惨敗したおっさんがテン場に戻ってきた。
双六岳のテン場はコロナ以降予約制になったからね、さぞかしスペースに余裕があるかと思いきや、以前とさほど変わらないぐらい大盛況やーん。
テントを受付けする際に予約済か否かのチェック項目があったから、予約してなくてもある程度は許容して張らせてもらえるんだろうな。
最後にテン場が晴れただけラッキーだと思おう。
風がビュービューだと安心して眠れないしね。
本番は明日の西鎌尾根だと切り替えて、今日の犠牲が明日に生きると思いたい。
おお、鷲羽岳も晴れた。
鷲羽岳に向かったあの2人は登った甲斐があっただろうな。
白髪染めに失敗したお婆ちゃんの頭みたいな雲。
早くご飯食べて寝たかったけど、カルビ丼の腹持ちが良すぎて、結局寝るのが遅くなった。
1日目はこれで終わり
明日もてんくらA予報。
神様お願い。槍ヶ岳だけは晴れておくれー!!
やっぱり、どうしても縁のない山というのはあるもんだよね。
疲れを癒やす目的で立ち寄った温泉でアブに食われたし、最近はツイてない。
めちゃくちゃ痛かったし、めちゃくちゃかゆい。
逆にツイてるなと思うこともあって、実は未だにコロナ童貞でいられてる。
毎日通勤電車に揺られ、高速バスや飛行機なんかにも乗りまくってて、我ながらよくかからないなと思う。
運でしかないけど。
ちなみに30歳までコロナ童貞でいられたら魔法使いになれるらしいよ。はあ?30?
とっくに過ぎとるわ!
2日目の槍ヶ岳も続けて書いちゃうつもりだったけど、2日目が涙ちょちょぎれる絶景で、長くなりそうだったから前後編に分けることにしたよ。
そんな訳で、後編こそ、今年はアルプスに行こう!と思わせる心震わせるブログが書けると思うのでご期待ください。
ではでは
後編はこちらからご覧ください!