山肌を白く染めるヤマボウシの大群生。
そんな景色が見られる山があると聞く。
そんな都市伝説みたいな山、ほんとにあるの?
どこかのよもやま話でしょ?
「あの人夢見てただけですよ。寝言もひどいし、きっと重度の夢遊病なんです」
いやいや、それが本当にあるらしい。
どうやら長崎の九千部岳(くせんぶだけ)という山らしい。
「らしい」というのは、実はちゃんと見ていないから。
やはり、浮かれすぎて夢遊病だったのかもしれない。。
自分でももう分からない。
あれはそう、
突然白いもやもやに包まれて…、何も見えなくなって…
こうやって神隠しに合うんだなぁなんて思った。
ふと辺りを見渡せば、ハイカーが数人、うつろな表情を浮かべて
「ヤマボウシはどこぉ〜…ヤマボウシぃぃ〜……」
と重度の薬物中毒者の様に彷徨っている。
精神病棟ですか?
イメージしていた華やかな光景には程遠かった。
あれは夢だったんだ。夢であってほしい!
ゆっくり、振り返ってみたい。
今年はなんだか植物たちが生き生きしている。
ツツジの大当たりの年だし、自宅に生えてるヤマボウシも例年になく元気だ。
こいつは期待できる。
九千部岳を狙うには今年がベストだな。
2週間前の自分はそんなことを考えていたのだった。
土曜に物干し竿を買ったり精米したり、家の用事をあらかた済ませた翌日の日曜、島原へと愛車を走らせた。
愛車はホンダ。F1で磨かれた技術はどこに生かされてるのかは分からないけど、とにかく主婦たちの意見がふんだんに取り入れられた使い勝手重視のNSX。
あ、間違えた、N-BOXだった。
福岡の自宅から島原は意外と遠い。島原って天草の隣なんだからそりゃ遠いし、ところどころ高速道路も途切れてるから、長崎市や佐世保の方がはるかにアクセスは良い。
しかも自分はケチって、無料区間の長い西九州道で伊万里まで出て、そこからひたすら下道を走るというも猛烈ケチっぷり。
通常の2倍、時間かかったぜ。。
帰りはのんびりでもいいから、行きは贅沢に高速道路を使いまくるか、大牟田からフェリーを使うなど、時間短縮を最優先にすべきだった。
まあしかし、ヤマボウシが満開のタイミングと、晴れ予報がジャストミートしてくれさえすれば、多少登り始めが遅くなっても日が長いこの時期ならOK。
今回のヤマボウシみたいに白い花を撮影するなら、晴れは絶対に外してはいけないのだよ。
そして、てんくらは見事なA予報。
舞台は整った。
最高の1日になることに期待を膨らませつつ、無駄に長くN-BOXのドライブを楽しんだ。
これも旅の醍醐味。
なんでも前向きに考えたい。
九千部岳は九州百名山で、標高1,062m。
南島原に叔母が住んでるけどスルーして帰ってきたよ(笑)
ルートとコースタイム
■2023年6月11日 ※カッコ内は標準コースタイム
田代原トレイルセンター⇒(100分)⇒山頂⇒(85分)⇒田代原トレイルセンター
コースタイム:3時間5分(休憩含まず)
総距離 4.8キロ
累積標高上り 480m
九千部岳登山 本編
田代原トレイルセンターから登山開始
幼少の頃から数えて、島原へはこれで5回目ぐらいだろうか。
意外と来てる方かも。
こちらは田代原トレイルセンター前の駐車場。カーナビだと田代原野営場が出てくると思う。
キャパは20台ほど。
トレイルセンターの中のトイレを借り、ちょいと中を散策してみればとてもきれい。
島原と言えば火山。
雲仙普賢岳の火砕流で大きな被害がでたのもだいぶ昔の出来事になっちゃったけど、その時の噴火で誕生したのが平成新山。
今でも噴煙がくすぶっているため入山はできない。
普賢岳の方は入山規制はなくて、ミヤマキリシマとオオヤマレンゲの名山として九州では超重要な山。
九千部岳の姿を確認。
今日は標高500mも登らないから楽勝だろうとか、そんな風に思わないことさ。
急げばすぐにバテるのはよく分かってる。
胸張ってビビりながら行くぜ。
周回コースだからどっちから登るか迷ったけど、急坂は下りより上りで歩いた方が安全だからね、この道路を少し先に行ったところにある登山口から登ることにしたよ。
ふむ、てんくらA予報にしては空色が少ないじゃないか。
まあいい。行ってみよう。じきに晴れわたる。
かれこれ3年は満開のタイミングを待った。
満を持しての島原。
島原の遠さを考えると、山頂に向けたこの一歩はとても意味深い。
登り始めはお決まりの杉林の洗礼。
杉花粉の季節は植林する業者に文句を言ってやりたくなるぐらい腹立たしいけど、それも花粉の時期が過ぎてしまえばあっさり忘れてしまう自分の単純な脳みそ。
人は忘れるから幸せでいられるんだな。
杉林が終わればアセビ?ヒメシャラ?とにかく植生が変わる。
樹木はとんと見分けつかないから適当でごわす。
岩場がでてくるけど、目当てはヤマボウシだから端折りまくる。
前回の登山では過程が大事なんだと力説した気もするけど、過程はどんどんすっ飛ばしていく。
朝令暮改ってサイコー。
この小さな花はなんだろう。
山頂まで1,000m。
実は湿度がひどくて、早々にバテている。
たかだか500mしか登らない登山だったのに、条件が悪すぎてダウン寸前。
オオカメノキかと思いきやミズキかな?
暑ぢぃ。
これは己の汗なのか、湿気が肌に付着してるだけなのか、もはや分からないぐらいびちょびちょだ。
これが海に囲まれた島原のパワフル湿気か。
湿度に殺されるかもしれない。
やっと山頂だと思いきや、さっきの1,000mの標識からわずか半分しか歩いていないことに愕然とする。
梅雨の低山ハイクは侮れない。
ヤマツツジだろうか。
「山を白くするヤマボウシ」、そればかり考えていたからこの鮮やかな朱色がちょっと意外。
第1展望所
おお、ようやく。
第一展望台であり、ここが山頂を上回る一番の展望地だと聞いている。
さあ、広がれ!ヤマボウシの森!
第1展望所から白い絶景
ほえー。
いささか白く染まり過ぎてね?
さすがにここまで満開すぎると、ガスなのかヤマボウシなのか見分けがつかんやーん。
アハハハー
アハハ…
うぐっ(泣)
てんくらA予報どこ行った!?
さすが、この山で一番の展望地なだけある。
これだけ壮大なガスが見られることもそうない。
見渡す限り、白く染めあげる。
空まで白いのは、きっとヤマボウシが空に反射しているからだろう。
うふふ、なぜか目からあふれる湿度。
これは涙なんかではないん…だ。。湿度なんだ。
僕が一番…
ガンダムを上手に扱えるんだ。うぐっ。
出会いとは一期一会。
二度と出会うことのない景色に出会うべく山頂へ移動だ。諦めないぞ。
山頂に近づくと岩がゴロゴロして、岩と岩の隙間が函谷関の通過ばりに難儀する。
これが島原の夏山を彩るヤマボウシ。
最後に写真載せるけど、うちの庭のヤマボウシの方が何倍もきれいじゃないか。。
山頂から白い絶景
九千部岳山頂に到着。
なんとしても、なんとしても、
視界いっぱいに広がるヤマボウシを見るんだ。
はい、どぼぼーーん。
言葉にならない。
島原までの長い道のりを思い起こすと、悔しさが倍増する。
この鬼畜な光景を前に、目から湿度が溢れて止まらない。
うあああー(湿度)
山頂にいたグループの1人が、目に湿度をためる自分に向けてこう話しかけてきた。
「ちょっと前まで晴れててね、そりゃもう凄い景色が広がっとったんよ。あれは凄かった」
まさかの追い打ちかよ!
この状況でプチ自慢をぶちかましてくるなんて、清々しいまでの自己顕示欲ではないか。
「その痛み、分かるよ」、そんな風に言ってほしかった。
でも、おかげで腹がくくれた気がする。
晴れるまで待ってやろうではないか。
こうなったら籠城してやると腹に決め、大して空腹ではなかったけど、とりあえずおにぎりを食べ始める。
山頂のシモツケソウを見ながらおにぎりを食べていると、
まさかの雨が降り始めた。
少しピンクがかったヤマボウシもある。あれはハナミズキかな。
どちらもミズキ科。
ガスだけならまだしも、雨もそれなり。
天気は悪化の一途。
もはやこれまでか。。
追い詰められた戦国武将風に言ってみる。
レインウェアを羽織るでゴザル。
さっきまで暑さで死にかけてたというのに、途端に寒い。とても6月の九州とは思えない寒さだ。
さっき清々しい自慢をしてきたお爺さんはもう下山を始め、諦めきれない亡霊と化したハイカーを4名、山頂に残すのみ。
全員、無言でガスを眺めているのだ。
静かな山頂だ。
何も変わらないガス景。打ち付ける雨がつらい。
ガスの美しさだけで言ったら小結、関脇クラスだななんて考えていた。
ああ、関脇クラスだと誉めた途端、少し晴れてきた。
日が差したのは気のせいか?
これは夢か。
まさか晴れるのか?
と思いきや、再び関脇クラスのガスが強烈なつっぱりで盛り返す。
がっぷり四つのガス攻防。
こちとらわざわざガスを眺めるために、わざんざ片道4時間半もかけて福岡から来たわけではない。
もっと言えば、一昨日まで東京で夜まで仕事をして福岡に飛んできたから、その移動距離は1,100km。
この山にいる誰よりも長い移動をしてきたのだ。
ガスを見るために。。
ゲッザーン開始
誓う。来年もまた来よう。
もういい加減、寒さに耐えられない。
ゲッザーン開始。
下山を始めた途端、晴れてきた。
ふむ。
島原までの長い移動距離を思えば、山頂に引き返すなんてお安い御用だ。
やはり山頂に戻ってみたらガスまみれ。
もうガス岳と名前を変えたい。
再び下山を始めると今日イチに晴れた。
これは一体どういうことだ。
当たり前のことを忘れていた。
ガスは山頂にたまりやすいから、山頂から少し標高を下げればガスの層を脱出できるというだけのことだった。
雨も止んだし。
青空だったらこんなもんじゃなかったんだろうけど、これだけでも報われた。
島原の海も少しだけど見えた。
ヤマボウシだけでなく、山から眺める海も見たい。
来年、必ず来ると誓ったけど、今年が当たり年なら来年は裏年になるから、しっかり開花状況はチェックしなきゃね。
途中、普賢岳との分岐があるんだけど、吹越トンネル前駐車場から登ればたった標高差200mほどのお散歩感覚で登れてしまう。
さすがにそれでは歩き足りないだろうから、普賢岳と縦走すればいいね。
次のためにメモメモっと。
なるほど、反時計回りで歩くと下山は足に優しいなだらかな傾斜。
やはり今回のコース取り(反時計回り)で正解だった。
すごい直毛の森を駆け下りていく。杉林なんぞに用はないのだ。
改めて、次は吹越トンネル前駐車場から登ることを誓う(笑)
旧箱根街道っぽい苔がきれいなトレイル。
そんな情緒を吹き飛ばすようにびっしり生えた苔が激すべりで一瞬も油断できなかったんだけど。
のいちご。
クイッと90度左折して田代原トレイルセンターへ。
良さげな東屋があったから、疲れてはいなかったけど突然休みたくなった。
急ぐ旅ではない。寄り道にこそ旅の情緒があるのだ。
そう言って向かった東屋は男女5~6人のパリピに占拠されており、すかさずクイックターン。
そんなもんだ。
わいわいガヤガヤ、楽しそうに東屋で盛り上がるパリピハイカーに背を向けて、ガスと湿度にやられたおっさんは駐車場へ向かう。
ヤマアジサイの素朴な咲きっぴりが、敗北感でいっぱいのおっさんに似つかわしい。
島原の夏の風物詩ヤマボウシ。
ふっ。
帰りに島原そうめんでも食べて癒やされるしかないな。
田代原トレイルセンターに戻ってきた。
曇天をバックに駐車場にあったヤマボウシを撮影してみたけど、映え感ゼロ。
田代原キャンプ場の隣には、野生の黒毛和牛がそこら中にいる。さすが島原だ。
雲仙温泉、小浜温泉という有名な温泉地が2つもある島原に来て、どちらにも寄らずして帰るなんて人生損してる。
やって来たのは、雲仙温泉「青雲荘」。
たしか880円だったかな。内湯と露天が離れてて不便だったけど、湯はいいし広くて、なによりきれいだったのが良かった。
お土産屋さんに立ち寄ってみれば佐世保名物、大和製菓の味カレー。
こんなんじゃない。
農協で売られている「吾妻天塩麦みそ」を探しにきたのにCOOPのスーパーでも探せなかった。
どこに行けば売ってるんだか。。
実は登山より最大の目的がここ。
「雲か山か」と書かれているけど、これは「雲仙きのこ本舗」さんが運営してる食事処。
食事はランチタイムしかできないんだけどね、目的は食事ではない(あわよくば食べたかったけど)。
これ。
養々麺(Yo!Yo!めん)!!
島原は素麺の町。兵庫や奈良も有名だけど、全国的に島原もとても有名。
ちなみに流しそうめんの発祥地は宮崎県高千穂というプチ情報。
そんな訳で、ヤマボウシ2023はこれにて終了。
いやいや、最後にこれだけ。
結局我が家のヤマボウシが一番きれいだわー。
この写真は5月21日に撮ったもの。九千部岳に登ったのが6月11日だったから、家のヤマボウシが満開になった20日後頃が見ごろって覚えとこっと。
おわり
一度でいいから九千部岳に登ってヤマボウシが見てみたい。
最初はそんな控えめな希望だったのが、次第に少しでも良い条件で絶景を見たいという欲が襲ってくるのは仕方のないこと。
結果的にガス山に登って、ただ運動してきたたけで終わってしまったけど。
とは言え、島原は登山しなくても、魅力がたくさん詰まっているところだから、観光だけで訪れても面白い。
なんせ温泉が最高なのだから。
このガス山めぇ!!おぼえてろー!
雨に打たれ、山頂から吠えた。
帰りの道のりは愛車N-BOXでえっちらおっちら、BMWとかレクサスなんかにビュンビュン抜かれながら左車線をキープして帰ってきた。
以前はオデッセイに乗ってて、大型車の良さはよく分かってるつもりだけど、自分にはN-BOXがちょうど良い。
登山だと駐車スペースが狭かったりするからなおさら良い。
まあだけど、当たり前だけど、飛ばせない。
よく大きな車に乗って気持ちまでデカくなっちゃう人いるよね。そういうオラオラ系な人にはぜひ軽自動車に乗って謙虚に生きることを薦めたい(笑)
まあそんなことより、N-BOXは収納力が抜群で、キャンプの大量の荷物もぜんぶ乗っちゃうし、自転車だって乗ってしまう。
かなり優秀なのだ。これが一番気に入っている。
フルフラットになればもっといいけど。
ではでは