「伊豆が温暖」だなんて言ったの誰!
伊豆と言えば、青い空と青い海。
だーねだーねー
山と温泉、そして富士山。地震はちょっと怖いけど伊豆って良いとこだよね。
だーねだーねー
せっかくの伊豆だ。
いつも以上に何度も天気予報を確認し、文句なしの晴れ予報であることを、何度も何度も確認した。
それには理由がある。
伊豆山稜線歩道にやって来たのは、2年ぶり2度目。
前回も晴れ予報だった。
そして、その通り見事に晴れた。
快晴だ。
普通なら浮かれてしまうだろう。
それがその時の伊豆山稜線歩道だ。
「伊豆が温暖」だなんて言ったの誰!
まさかのラッセル行軍。
紛れもなく、快晴だ。
だがしかし、前夜にまさかの大雪。
3シーズン用のミドルカットブーツはバスから降り立って、わずか三歩で中まで濡れた( ノД`)シクシク…
景色は良かったけど、寒さに震え船原峠で失意の途中撤退。
「雪景色の伊豆なんて、めっちゃ貴重な経験ができたぜぃ!」と強がりを吐き捨て、背中で泣いた。
今度こそ、今度こそ!伊豆らしさを満喫するんだ!
今回、そんな強い信念を抱いて2年ぶりの伊豆山稜線歩道に再びやって来た。
伊豆山稜線歩道とは、修善寺虹の郷から天城峠までの全長42キロの山稜歩道こと。
今回は天城越え第一章。達磨山レストハウスから天城峠まで、石川さゆりワールドを漫遊する全長32キロの旅。
第二章は、天城登山口から天城山を越えて八丁池経由で天城峠まで、距離20キロの天城縦走路。
総距離52キロを繋ぐ天城越え堪能の旅。
では、第一章。
ルートとコースタイム
■2022年2月6日 ※カッコ内は標準コースタイム
達磨山レストハウス⇒(40分)⇒戸田峠⇒(65分)⇒達磨山⇒(50分)⇒伽藍山⇒(60分)⇒舩原峠⇒(50分)⇒棚場山⇒(50分)⇒土肥峠⇒(50分)⇒魂の山⇒(50分)⇒風早峠⇒(40分)⇒仁科峠⇒(70分)⇒猫越岳⇒(160分)⇒二本杉峠⇒(60分)⇒天城峠⇒(15分)⇒旧天城トンネル⇒(10分)⇒天城峠バス停
コースタイム:12時間50分(休憩含まず)
総距離 32キロ
累積標高上り 2,365m
伊豆山稜線歩道 本編
風の音
朝の5時。
ここは達磨山レストハウスの駐車場。
前回撤退した伊豆山稜線歩道のリベンジだ。
体力に自信がある訳ではないから、自ずと暗い内からのスタート。
暗闇の中、吹きすさぶ強風が森を揺らして怖いじゃないか。
自分は相当なビビりだ。ひよひよだ。
当ブログを読んでいただける数少ない貴重な方はご存知かと思うけど、吊橋で躊躇したり、裏妙義の丁須の頭では腰が抜けてピークを踏めなかったり、ヒヨり度は筋金入りだ。
とりあえず達磨山まで行ってみるかと、強風にすっかり弱気になりながらのスタート。
真っ暗闇の行軍って好きな人いるんだろうか。
地面は凍ってるけど、前回の雪山行軍に比べたらマシか。
ゴォォォオオー!と言う風にひたすら怯えながら、なんとか1.8キロ歩いて戸田峠までやって来た。
早く日が昇ってほしい。
星は見えないけど、きっと空には青空が広がるはず。
夜景を撮ったものだが、ひどい手ブレだ。じっと構えて撮っていたら凍えてしまうから震えながら撮った、泣ける一枚。
ちなみに、部屋の壁のヘリに足を痛打し、右足薬指を骨折するという自虐行為からまだ2週間しか経っていない。
この日も当然治っているはずがない。
今のところ普通に歩けてはいるが、万が一岩にぶつけたりしたら、この平和な伊豆の地に痛みで脱糞しちゃうかもしれない。
そんな惨事になったら通りすがりの方からきっと通報されてしまうだろう。
32キロの長い道のり、足だけはなんとしても守らなくてはならないのだ。頑張るぞ。
夜明け
6:10
待望の日が昇る。
のぼ…
らねぇ!!
なに?この分厚い雲は。今日は晴れ予報でゴザルが?
ああ分かった。高山から日の出を見る時、眼下に雲海が広がってることが多いけど、きっと朝もやってやつだーね。だーねだーねー。
日が昇って気温が上がりさえすれば、パーッといなくなるに違いない。
だから大丈夫だ。安心したまえ。
痛てててーー!
強風の勢いが増してる!
ゴォォォォオオオー!!と音を立てて吹き抜ける中に硬いものが混じり始めたし。
雨か?いや、あられだ!雪だ!
そして明るくなり、目の前に現れる霧氷。
目を疑った。
そしてこの瞬間、ヒヨりまくりな自分の脳裏に、温泉入ってのんびりして、沼津で海鮮丼を食べて帰るという、なよい姿がフラッシュバック。
きっとそっちの方が楽しい。
メンタルが豆腐とかそんな次元じゃない。
ここは地獄だ。
失意の伊豆
6:30
そして、景色ゼロの達磨山を登頂。
達成感?
あるわけない。
何度も何度も天気予報を確認してやって来たが、まさか見間違えたのか?
いやいや、笑い飯とショパンコンクールで2位になった人を見間違えても、天気を見間違えることはない。
達磨山から船原峠までは6.1キロ。
つか、達磨山レストハウスからまだ4キロしか歩いてなかったのね。。
自分は寒さにも暑さにも弱い。だから伊豆にしては大袈裟かな?と思いながらも、念の為ダウンを持ってきた。ほんとよかった。
ちなみに下はタイツと夏用パンツの組み合わせで後悔しまくり。
今度こそ、今度こそ!伊豆らしさを満喫するんだ!
という気持ちは確かにある。
でもこれ引き返していいんじゃね?
という思いの方が勝っている。交錯するというのとは違う。勝っている。
この先、歩く意味を疑う深いガス世界。伊豆らしさなんてゼロだ。
まだまだ前哨戦、決めるなら今だ。今なら海鮮丼が待っている。
しかし、優柔不断な自分はこの先もうだうだ悩みながら進むことになる。情けなさの極みだ。
景色が楽しめないのに登る理由もないだろう。そんなことが正しいってことは百も承知している。
冷静に悩みたいところだけど、寒すぎて止まれないという事態も優柔不断さに拍車をかけた(言い訳)。
答えを出せずにただブルブル震えながら進む。
アホでし。
なんだこれは。赤くなってきたぞ。まさか晴れるのか?
下山してから晴れるなんて、登山してたら何度も出くわすアルアルだ。
あの悔しさったらない。
やはり、これは朝もやなのだ。もう少し待てばきっと晴れる。
前回と同じ、船原峠まで歩いて判断しよう。
やっと考えはやっと整った。
ただの回答の先延ばしと言うなかれ。
達磨山から古稀山までは一般道の西伊豆スカイラインと並走して行くからあっという間だ。
ここまでは前回も歩いて勝手知ったるっていうのも短く感じさせた理由の一つ。ぜんぜん景色違うけど。
ニット帽が白くなってた。
自分が冬に伊豆に来ると、雪が降る確率100%。
晴れたのは沼津アルプスの時だけなんだけど、あれって桜の季節だったもんなー。
ひゅー。
見事な霧氷。これで青空だったらめちゃ綺麗だったろうに。
もはや晴れ予報のぼったくりだ。
再び西伊豆スカイラインにでて道路をとぼとぼ歩く。寂しすぎるじゃないか。
横を走り去って行った1台のバイクが、端から見てもすごく寒そうにしてた。路面の凍結を心配しながらゆっくり走り去っていく。
森は完全に凍りついた。
天気ドットジェイピー、てんくら、ヤフー天気、気象庁、全部晴れだった。
そう、ベストを尽くして探した。
これは仕方ないのだ。
道路を歩いてて到着したのが伽藍山。
ただの通りすがりの山さ。
進むべきか撤退か
あ!向こうの方晴れた!
単純な自分は、これだけで高揚した。
あの雲の切れ間よ、こっちへ来い!
一縷の望みが、まさか実現しようかという展開に、おっさんの心が踊った。
真上を覆う分厚い灰色の雲とも、これでおさらばだ!
これから向かう方面の空は恐ろしく荒れているが…。こんなものは今だけだ。
伊豆のギラギラした太陽がもうすぐあちきを照らす。笑いが止まらないじゃないか。
カマーン、伊豆パラダイス!
今度こそ、伊豆を満喫するんだ!
西伊豆スカイラインから今度は森の中へ突入。
この森を抜ける頃にはサンシャイン池崎化した伊豆が輝いている。
とりあえず、強風から逃れることができたから、今は樹林帯にいる方が幸せだ。
7:40
船原峠に着いた。
32キロある伊豆山稜線歩道には2箇所エスケープできるポイントがある。
1つは土肥峠の持越温泉。
もう1つがここ船原峠。
大曲茶屋バス停まで歩いてバスで修善寺駅に戻ることができるのだが、さっき晴れを予感させる光景を目にしたばかりだ。
撤退するかどうか、判断はちょいとペンディングするかと、必殺の先延ばし。
ここ船原峠は全行程の3分の1。
とりあえず次のエスケープ地点の持越温泉まで行ってみよう。
繰り出す先延ばし策。
なりゆきに任せて先を進むことにした。
次の棚場山まで行って、引き返すか決めてもいいしねと、選択することからひたすら逃げる。
ちなみに次のエスケープができる土肥峠まではここからたったの4キロだ。
不思議なもんで、4キロの距離がご近所さんに感じる。完全に伊豆に頭がやられている、やばい傾向だ。
思考が軽いというのは、つまり思慮が浅いということ。
ふむ。じゃあ普段通りってことね♫
緩やかな上りだ。
急ぐ必要もない。
棚場山でもう一度天気予報を確認してみよう。雪予報に変わってるのは間違いないだろうけど。
ちょっと向こうには青空が広がっている。そして海は陽光を浴びて青い。
マジで、なんでこの上だけ雲が覆うのか、不思議だ。
もうしばらく我慢すれば、海と青空の境目が分からないぐらい、眩しい青の世界に取り囲まれるはずだ。
さて、棚場山に到着。
さあ、運命の時間ダ!!
天気予報を確認する。なんならこの先の進退を決めたっていい。
サイコロを振るようにスマホを取り出し、てんきとくらすにアクセスしてみる。
ドキドキするな。
「我が人生に一点の曇なし!」
うそだろ?
誠に信じがたいが、完璧などぴーかん予報だ。風速10m?いやいや、15mはあるって。
まあいい。
とにかく進路は決まった。
迷わず行けよ!行けば分かるさ!
天城峠へ!レッツ・ゴーの助
あ、一点の晴れ、見っけ。
(T_T)
呪いと霧氷
樹林帯によって風が遮られれば、精神的に余裕が生まれる。お陰でだいぶ落ち着いてきた。
やっぱり晴れるんだという希望の火が灯ったのも精神の安定には効果大だ。
しかし、これから晴れるというのに、誰ともすれ違わないのが不思議。
この人気の縦走路において、すれ違ったのはわすか伽藍山付近で寒さに背を丸めたおじさん一人だけ。寒すぎて会話なんてもちろんゼロ。
お互いが、あの人ずいぶん情けない姿だなと思ったに違いない。
まあいい。こんな感じでえっちらおっちら進めばいいさ。
ここまでも幾度となくアップダウンを繰り返してきた。
すでにふくらはぎの筋肉に張りを感じ始めていたから腿を上げて歩くように意識する。
使う筋肉を分けることで疲労を分散するのが目的だが、ぎこちないったらありゃしない。
おまけに効果があるのどうかも甚だ疑問だ。
久しぶりに氷ではない白い樹を見た。
雑誌で紹介されてる伊豆山稜線歩道って、笹原の写真ばかりだけど、半分以上はこういう樹林帯なのよね。
こういう樹林帯から突然笹原に切り替わった瞬間が超絶気持ちいいんだけど。
南無妙峠に着いた。ちょうどベンチがあるし、風も樹林に遮られてるから、ここでもぐもぐタイム発動。
おにぎりを食べながら、なにやら宗教じみた峠の名だなと思いながら、そこにあった石碑を読むと、その昔、乞食の夫婦がここで死んでからというものの、ここを通る旅人達がお腹を空かす様になったと書かれているじゃないか。
呪いとかやめてほしいんだよね。ビビりだから。
このおにぎりもそれなのか。
この天気も呪いと言うならその夫婦許さないっ!
こんながさつにリュックの背面ネットにレインウエアを突っ込んじゃうような自分に呪いが効くとは思えないんだけど。。
きっと、がさつに腹が減っただけだろう。大体、いつも何か食ってるし。
こういうので怖がらせないでほしいんだよなー。
さて、行こうか。
折った薬指はまだ大丈夫!
この後、しっかり痛みだすんだけど、それはまだ先の話。
なんだ、あの白き頂は!
達磨山あたりが一番ひどいと思っていた自分は愕然とした。
この先、更に伊豆らしさから遠のく世界が待っているというのか。悲しいっスー。
そしてたまに日が差し込むようになってきたところで樹林帯に突入するという間の悪さ。
まあいい。少しずつ好転してしてるっぽいだけで嬉しい。
9:00
土肥峠に到着。
最後のエスケープポイントだ。
持越温泉バス停まで3.8キロ。
さっき天気予報を見て自分の心は決まっている。最後まで歩き切る!今は曇ってても良くなっていく傾向なのは間違いないのだ!
後で知ったけど、持越温泉のバスはすんごく本数が少ないみたいだから事前にチェックしとくべし!
近づいてきた白き頂。マジで目を疑っちゃうじゃないの。
相変わらずトレイルはガチガチに凍ってるけど、安いナイキのトレランシューズでも滑ることはない。
もう何度目かのアップダウンをアホみたいに繰り返してるけど、まだ全行程の半分にも達してないという事実。マジでアホらしくなってくる。
晴れるんだよね?
それか、空って元々こういう色だったと思うことにするか?
悪天候のほうがドラマチックな写真が撮れるから写真家は悪天候を好むって言うし、今日はそれを探す旅だと割り切ってもいい。
ん?
いやいやいやいや。
何を諦めたことを言ってるんだ。晴れる!晴れるんだ!
容赦ない現実はこれだ。
全て凍りついてる。
いよいよ白き頂の霧氷ゾーンに突入したと思われる。
さあ、これが写真家が望むという悪天候だ。
・・・・。
堪能できるわけがない。
気温が低いから雫となってポタポタ落ちてくることがないのがせめてもの救い。
ダウンの上からレインウエアを羽織るとさすがに暑いからね。
果たして伊豆のこういう霧氷や雪景色って珍しいのだろうか?
海からほんの数キロで突然1,000m近い山がそびえ立つ。そりゃ風も強くなるから、背の高い木々は育ちにくくなるだろうし、笹原が広がるのも分かる。
湿気を帯びた風が山にぶつかって急激に冷え、霧氷だって出来やすい。
貴重な経験なのかと言うと、偶然のようで必然に思えるよ。
突然だけど、
最近、飛行機に乗ってて、隣の人がスマホでアイドルのライブ映像を、自分の視界に入る角度で見始めたんだよね。
アップテンポな曲だと照明が激しく光り、
それが暗い機内でぴかぴかする。
自分は読書灯をつけて本を読んでいる。
そのシチュエーションをちょっと想像してみてほしい。
超絶、うざいから!!
自分はこんなにPerfumeを愛してるんですアピールですか?はぁ?
一緒にPerfume見て盛り上がれないし!
自暴自棄になって無差別殺人する人と同じ。死にたいなら頼むからお一人でどーぞ。盛り上がりたいなら一人でどーぞだ。
という話。突然すまぬ。
ほんと、自分の世界に入り込んでくるのが超絶ストレスだったわー。
月に何度も飛行機に乗ってると、乗り慣れてる人とそうでない人ってだいたい分かってくる。
たまに読書灯をつけたままスマホをいじりだす人がいるけど、慣れてる人はそんなことはしない。
隣の人に反射するから。自分が通路側に座ってたとしたら斜め後ろの人に反射する。
パソコンのキーボードを叩く音がうるさいから公共交通機関でパソコンは使わない。iPhoneとかタブレットでできる仕事に限る。画面を隠しながら、ひたすらドキュメントを書くとかね。もしくは紙とペンで資料にメモを付けていくとか。
たまに表計算とかパワポ資料をパチパチ音を立てて作ってる人いるけど、その画面、周囲の5人ぐらいからガッツリ見られてますから。マジで。
自分もこないだ提案資料を夢中に作ってた某コンサル会社の人の画面をずーっと見ながら、1時間勉強させてもらった。手元のスマホでネタになりそうなこともメモっちゃったし。
ご丁寧にパワポの1ページ目も編集してたからどこの会社の誰かも分かっちゃった。
そういう人に限って、外見が出来る男風なんだよね。
カッコつけてるけど、個人情報だだ漏れですから。
自分ごととして、気を付けようと注意することばかりだよ。
なんの話だっけ。
あ、Perfumeだ。
魂の山。たましいの山と書いて「こんのやま」。
うん、いい名前だ。
ずっと西伊豆スカイラインと並走してるからサービスエリアみたいな売店が出てきても良さそうなんだけど、あるのはパーキングだけ。
トイレや自販機なんてものは一切ない。
しかし、ようやくここで建物が見えてきたのは「西天城高原牧場の家」。
4月〜11月の季節限定で一棟貸しのペンションをやってるから、大人数であれば仁科峠で中継地点として一泊すると良いかもしれない。
もちろんこの時期(2月)は営業期間外。
そもそもこの牧場の存在を知らなかったから影響ないけど。
とにかくこのルートはトイレが無いから、ここを歩く人達は並走する道路から見えない位置で野ションしまくって霧氷を溶かしてるはず。
霧氷から笹原へ
さあ、霧氷ロードはまだまだ続く。魂の山から下って再びあの山に向かって登り返す。
鼻の穴が見える。鼻毛が伸びるトレイルを鼻クソの如くあの穴からズボっと突き抜ける。
鼻毛が白髪になってきた。
Perfumeの頭みたいだ。
人は悪い情報ほど信じやすい。
もし知り合いから、富士山に登るけど何を揃えればいい?
と聞かれたら何て答える?
ネットの情報は玉石混淆。初めて登山する人は心配になるだろうし、大袈裟な情報に振り回されたら軍資金がいくらあっても足りない。
でも安心させ過ぎてもいけない。
そのさじ加減の難しさ。
自分は、今はキャンプブームだし、この際カッコよくて良いものを買っとけば普段から使えると前置きして、レインウエアは高くて気に入った物を選んで、日焼け止め対策とトレッキングポール、手袋は必須。富士山は小屋が多いからいつでも水分と食料が買えるように現金を持ち歩くこと。薄手のフリースがあると重宝するのと、肌着はワークマンでOKと言っといた。
こういう質問ってほんと難しい。
一緒に買いに行きたいぐらいだ。
あと行動食は?と聞かれて、即答で「おにぎり!」と答えた(笑)
今日の行動食とメインのお昼、どちらもおにぎりだ。マラソンで重宝するカフェイン入りのエナジーゼリーは確かに効果あるけど、登山は握り飯に限る。
それと、羊羹もいいらしいよ。
さて、話を戻す。
そこにはまるで世界の果ての様な光景が広がっていた。。
確かに悪天候は時に美しい。
しかし、それ以上に、今必死に登ってきたピークがただの名も無き通過点だったことに目眩がして膝から崩れ落ちた。
伽藍山みたいなただの通過点でさえ名前が付いてるというのに、山の名付けのルールはいまいち分からない。
相変わらず、自分の上にだけどす黒い雲が覆い、ほんのちょっと向こうは青空が広がっているというシチュエーション。
手のひらを太陽にすかして見てみたい。
そんなことしたことこれまで無かったけど、曇ってたら無性にやってみたくなった。
本当に血潮が浮き出るのか?
そんなはずがない。
シワだらけの働く男の手がそんな簡単に透けてたまるかコノヤロー!とよく分からない意地を発揮させとく。
宇久須峠まで目と鼻の先のところまてきた。
そして再び伊豆らしい光景が広がる。
これだ。
先程までのいた名もなきピークを振り返ると、わずかだが青空も見えた。
自分が過ぎ去った所から次第に晴れていくという、永遠の悪天候。これは呪いなのか。
しかも、前回の雪山行軍となった時よりも寒いじゃないか。
人が望む「自然」とはなかなか曖昧なものだ。
アスファルトで見事に整備されたハイキングコースや、キャンプ場の電源付きオートサイト。究極はグランピング。
電源付きサイトなんて、はっきり言って最高だ。
自分も子供とのキャンプは好きだから、オートキャンプ場を否定するつもりは毛頭ないけど、そんな時は自然を楽しむっていうのではなく、あくまでキャンプを楽しみたいだけだ。
まあ堅苦しいことは抜きにして、自然という存在の軽さや弱さに違和感を感じることがたまにあるよ。
自然には山の動物がいて、過酷な寒さに直面する時もあれば、水に飢えて命を落とす危険もあって、今も昔も自然と向き合うときは命がけなのは変わらない。
それでいて最高に楽しいところ。
準備さえちゃんとしておけば。
低山でだって遭難死するんだから。軽んじちゃいけない。
グランピングや電源付きサイトで自然と触れ合う機会が増えるのはとてもいいことだけど、それせっかく見えてるものを見えなくさせてるから。
海で泳ぐなら、まずプールで泳げる様になってから。スキューバーダイビングをするなら潮流を知るのは当たり前なんだし。
潮干狩りだって、満潮と干潮を知っとかないと沖に取り残されるわけだよ。
大事なことだよね。
そして、伊豆に取り残されたおっさん。
伊豆山稜線歩道は道路と並走してるとは言え、陸の孤島みたいなルートだ。
この笹原が孤島感を一層かもしだす。
これから向かう峰々。
伊豆山稜線歩道の最高峰のある猫越岳がある方面だ。
後半戦に最高峰が用意されてるって…。
天城トンネルからスタートした方が良かったんじゃね?
宇久須峠と仁科峠
10:20
宇久須峠に到着。
ここでようやく半分。
ブログやYAMAPを見てるとテント泊する人はここで張る人が多いから、ここら一帯、野糞だらけなんじゃないか?と最大限に警戒してたけど、きれいなところで一安心。
ここでコースのほぼ半分ということで、
GODIVAのチョコケーキ食って糖質チャージ。
最終バスは17:49だから楽勝だ。もしかしたら14時台のバスにも乗れるかもしれない。そうしたら修善寺駅からタクシーを使わなくても、バスで達磨山レストハウスに戻ることができる。
折った薬指が軽く痛み始めたが、気のせいか?まだ足は動く。
さあ行こう。
ここからが本番。
ここを下っていけば風早峠だ。
風早峠に到着する頃には、強風はたいぶおさまっていた。
もう後戻りはできない。
伊豆らしさってやつがこの先にあるはずだ。
伊豆を満喫するんだ。
風早峠から天城峠までは16キロ。風早峠がちょうど中間地点だったのね。
ふあっ!!鼻血放出。
久しぶりに雲以外の空を見たから、すっかり青いことを忘れてた。
待ちわびた春がやって来た感じ。
海を見ると思い出す。
恒例行事と言って、何もわかっていない子どもたちに道着を着せ、お正月の凍える海に腰まで浸からせて空手をさせるニュース映像。
親のエゴ全開。身の毛がよだつ。
自分はそれをこたつで見ていると居たたまれなくなる。
こんな天気なんぞ、あの子達が耐えた寒さに比べれば、海に浸かってないだけマシなんだ。
頑張らないとあの子達に笑われてしまう。
今、ようやくあちきの心に火が着いた。
まだ16キロしか歩いていないんだ。
ふんがっ!ふんがっ!
謎のもも上げをしてストレッチをしてみる。
その瞬間、ももの裏が「ピキッ」と音を立てて激しい痛みがほとばしった。
おっさんの体はとてもデリケートだと言うことを忘れていた。普段しない動きをした瞬間、壊れる。
もも裏だけじゃない。おケツまで激しく痛い。
錆だらけの体を無理に動かしたからネジがきしんだ。見覚えのあるこの痛みは、そう、
「坐骨神経痛だ!」
残り半分、このおケツの痛みとも騙し騙し付き合っていくしかない。
ストレッチなんぞやるんじゃなかったと激しく後悔しながらおケツをさする。
これはサバイバル登山になるぞ。
牧場の柵沿いを行けば、この先に見えるのはドリフの雷さまコントを彷彿とさせる、高木ブー山が見える。
ケツの痛みを抱え、足の指は骨折し、これから高木ブー山に挑むとは。
これはやるかやられるかの戦いだ。
10:50
仁科峠に到着。時間がお昼ちょっと前ということもあって、これまでのどの峠より車が多い。
この峠でさえトイレがないというのが、伊豆山稜線歩道の特徴だ。野ショントレイル。
上空の雲をなるべく映さない様に撮ってみたら、あら、なんて気持ちの良い光景。
騙し絵みたいなものだね。
一人でニヤけてても通報されないのが山の良いところだ。
振り返って遥か遠くに見えるのは達磨山だろうか。
すんごい歩いてきたな。
こんな遠いのに、まだ半分しか歩いてないって頭おかしいんじゃないの?
ここから第2部 森の天城峠へ
高木ブー山を目指してガンガン行く。
伊豆を満喫するんだ。
14時54分のバスに乗れたら最高なのだが・・。
前半で撤退するかどうか、うだうだ悩みながらだらだら歩いてきたのが今頃になって悔やまれる。
そのツケを払う時が来たのだ。後半でタイムを巻くなんて、そんな自信はない。
いい加減、霧氷にも見飽きてきた。
そろそろ違う景色が見てみたい。20キロ近く歩いてきたらそう思うのが健全だ。
いや、それだけ伊豆を満喫できているってことか。飽きるほどに。
アハハハー満喫してるー
オェェ〜
ナルゲンのアミノバイタルが凍ってきた。
歩き始めてからというものの、ずっとダウンを脱げずにいる。
でもまだだ。まだ伊豆が足りない。
伊豆の自然の厳しさはこんなもんじゃないはず。
もはや、何座目かなんて分からない。
後藤山に到着。標高は994m。達磨山が981mだからほぼ変わらずってところ。
感想まで惰性になってきた。
正直、バテた。
虚ろな表情で顔を上げれば天城峠までは13.7キロじゃないか。
頑張れ、あと13.7キロでゴールなんだ。
後半戦はほぼ樹林帯。白くなった鼻毛トレイルが続く。
天城山を歩いたことがある人は分かってもらえると思うんだけど、こういう村山富市の耳毛みたいな森が広がる。
これこそが伊豆らしさだと言われたら嫌いになってしまいそうだ。
木段の土砂が流れ出てしまい、残った木枠をまたいで越えていくのが嫌だから、その脇を歩いて登山道を広げてしまうという登山道アルアル。
「猫越岳山頂の池」に到着。
池は完全に凍りついていた。
一組の夫婦がベンチで寒そうに身をかがめ、静かに、今の時間を大事にする様に何か飲んでいた。スープだろうか。
インドア派からは、何が楽しくてそんなことをやってるんだ?と思われるかもしれないが、この自然界の本来あるべき寒さに身を委ねているだけで楽しいって感覚だ。
分かるまい。
正直言えば、今の自分も、なんでこの寒さの中、こんな思いをしながら歩いてるのか、さっぱり分からない。
11:40
寒さに震えながら伊豆山稜線歩道最高峰の猫越岳に到着。標高は1,035mだ。
しかし天城峠まではなんとまだ12キロもある。
残りたったの3分の1まで来た!なんて思うにはあまりに遠い。
ひとまずその手前にある二本杉峠、8キロを目指そう。目標は段階的に掲げないとゴールにたどり着けないのだよ。
こういう障害物がいちいち坐骨神経痛に決定的なダメージを与える。
ほんとうんざりするぐらい、ズキンとくるんだよ。
雲の厚みが薄くなってきて、たびたび陽光が差し込み始めた。
ほんの少し陽光を浴びるだけで体がぽかぽかしてきて幸せになれる。
お金出すからもっと太陽をおくれー!
暖かい。こんなにも太陽は暖かいのかと、くどいぐらいに感動する。
カミサマ、これが伊豆の暖かさなのですか?
自分が知っている伊豆は、白いピークと、ダウンを着ても寒くて寒くて、地獄の強風が吹き荒れるところだと思っておりましたが、違うのですか?
精神的にやられていたが、だいぶ正気を取り戻せた。
太陽は偉大だ。
再び目の前に現れた謎のピーク。最高峰を越えたら下り基調になるかと思えばそうではない。
体力の限界を突き抜けている。もう登れない。
でももう戻れない。行くしかないんだ。
最後まで、最後まで満喫するまで、終わらない旅なんだ。
おケツをさすりながら、満喫するんだ。
つげ峠に到着。
ツゲって福岡の古処山が有名で特別天然記念物にもなっている植物だけど、ここのツゲ原生林も天城山域ではここにだけ自生するとても貴重な存在、という説明書きもあったよ。
そんなツゲを抜けていく。至るところにSUUMOがいる。
そして先ほど立ちはだかるように見えたピーク、三蓋山(みかさやま)に到着。
もう峠とピークは満腹。
一気にペースアップ
ちょうど13時。やっぱ14時54分のバスに乗りたいという欲がでてきた。
この先はコースタイムを3分の1ぐらいに巻かなきゃいけないというしんどいペース配分となる。ほぼランじゃないか。
くどいけど、前半で撤退するかどうか悩んでいたのがウルトラ悔やまれる。
ハァハァハァ(イメージ)。実際には疲れてて全然走れてないけど、気持ちはそんな感じ。
でも急ぐ。雪崩れ込むように下っていく。時間が迫っているのか寿命が迫っているのかもはや分からない。
そもそも仁科峠あたりからバテてるんだからしょうがない。
でもこんな時こそ、
伊豆らしさを満喫するんだ!
ぶへー
滑沢峠に到着。
もうぐだぐだ過ぎて、もはやここら辺のことは覚えていない。必死だった。
二本杉峠まであと1.3km。
マジで何のために歩いてるのか意味不明だ。
伊豆山稜線歩道は完全に2部構成だ。
達磨山から仁科峠までは海と笹原コース。
そして仁科峠から天城峠までは伊豆の山らしくヒメシャラ、ミズナラ、ツゲの原生林コース。
32キロという長い道のりを簡単に分けるとこんな感じ。
プロローグで達磨山レストハウスから金完山までの富士山絶景コースも加えて3部と言っても良いかもしれない。
富士山が見えなかったら、やっぱり2部になっちゃうけどね。
13:40
あぁ、、やっと二本杉峠に到着。もはややり切った感が半端ない。
そして、おめでとう。
ここにきて骨折した足の指がそれまでとは違い、激しく痛み始めた。もう指が痛いのか、足の裏が痛いのか分からないぐらい痛い。
さっきストレッチによって解放されたおケツの痛みもオトモダチ。
満身創痍だ。歩くことに関係ない上半身だけはいつも以上に元気だ。
古峠を経由して天城峠まで残り80分。
半分に巻けば余裕でバスには間に合う。行けるか?
いや、行かねばならない。
その先に満喫が待っている。
急いで足を踏み外したら奈落の底に直滑降だ。最後の最後に危ういトレイルを進むことになるとは。
これが伊豆のツンデレ。急ぎたいけど急げないもどかしさが憎いじゃないか、伊豆め!
ハァハァハァ。変質者と見まごう息遣いのおっさんがあっちに歩いて行きました、と通報されかねない形相だった。
構うもんか。行けるところまで行くぞ。
ラストスパートだ。
14:25
よーーーし!
間に合った!!!!
感動のフィナーレだ。ここが夢にまで見た天城峠だ。
ん?
ちょっと待てよ。こんな峠道にバスが来る訳ないよな。。
よーく標識を見てみるんだ。
旧天城トンネルまで0.4km、15分だとぉ!!
ひえーー!!
完全に天城峠で終わりだと思って油断した。まさかあと15分先だなんて、下調べも足りなかった。
旧天城トンネル
旧天城トンネルのトイレはまさかの冬季閉鎖だった。
もういい加減、漏らしていいですか?
旧天城トンネルで足の指の痛みにのたうち回る姿。
わざとらし過ぎる。
しかも無理な姿勢を取ってオシッコ漏らしそうになるし、急いでると言うのに無駄に時間を浪費した。
お陰で旧天城トンネルを満喫できたけど。
あれ?
近くにバス停ないじゃないか。
まさか…。
ここからバス停まで0.3km、10分というダッフンダだよ!
今、14:40。。バスの時間は14:54。
とにかく事故さえなければ間に合うだろう。
ヒーヒーフー。
タイミングを狂わされる段差の階段で急げない!
神社にある階段みたいって言えば伝わるかな。段差が一歩だと広すぎて二歩だと詰まる。
そして、まさかの予想外の展開。事故った。
国道に降り立つ直前で工事をやってて、どこから下りて良いかが分からない事態。というか通せんぼ状態。
ちょっとこの工事業者ひどい!
ちょっと迷ったけど、ブルーシートをガシガシ踏んづけながらここを突破。仕方なかった。
14:48
14:54のバスになんとか間に合った。しかもここの道路、意外と交通量が多くてマジで焦ったぜぃ。
東海バスで修善寺駅へ
このバスの運転手がめちゃくちゃ親切で、途中の道の駅で「トイレ行くならどうぞ~」って言ってくれた。
前回の達磨山登山の時も運転手がとても親切で、雪山に行く自分のことをとても心配してくれた。
東海バス、めちゃくちゃサービス良いやん
大好きっ!!
修善寺駅で、達磨山レストハウスにも止まる戸田峠行きバスに乗り継いで戻ってきた。
富士山は最後まで姿を見せてくれなかったけど、やっと青空が見えた。
ほんと、最後の最後に。
小ぢんまりした沼津アルプスの峰々。
あと2ヶ月後には沼津アルプスも桜が満開だ(今日は2月6日)。下山後は沼津の観光客をカモにした海鮮丼屋さんに立ち寄ってぼったくりに合ってみるのも伊豆満喫では外せないコース。
振り返って
晴れ渡る空と青い海を見ながら笹原の伊豆山稜線歩道を夢見てたけどさぁー、もう一生そんな夢はかなわないと悟った。
ほんと、伊豆が温暖だなんて言ったの誰!?
今回もどぼぼーんな旅になったけど、もう腹をくくって受け入れるしかなかった。
山なんだから天気予報は外れるからね、残念だけど。
それにしても32キロ、累積で上った標高は2,365mと数字だけはすごいけど、歩ききってみれば、意外とまだ歩けるなという印象。足の骨折さえ無ければ。
そんな訳で少し回復を待ってから、次回は伊豆縦横断の旅、第二章、天城縦走路編へ突入する。
今回の伊豆山稜線歩道と繋ぐ、天城山登山口から天城峠までの約20キロの旅。
最後に河津桜満開のタイミングに合わせ、ツンデレな伊豆を満喫する壮大スペクタクルロマン。乞うご期待。
今度こそ晴れてくれると良いんだけど。
天気は水物だから仕方ないけど、
前回も感動したけど、
東海バスの運転手がとにかく親切過ぎ。
今回も心温まる神対応に、もうそれだけで伊豆に来た甲斐があったと思った。
ICが使えないし、1万円札は両替できないけど、運転手さんの余りある親切さはそんなデメリットを鼻くそに感じさせる。
自然を満喫しに来たけど、結局最後は東海バスのグッドサービスに満たされた。
目まぐるしく変わる天気に翻弄され、ドラマチックな32キロを終え、あたふたと慌しく移動。片時も気が緩まない展開の中で、バスに乗り込んでようやく落ち着くことができた。ほっと一安心。
そこで、この神対応。
東海バスが無ければ、伊豆を満喫することはできなかった。
ではでは