「トキなんてどこにもいねぇじゃん」。
おっさんはこの金北山へと続く雄大な稜線に立ち、悲しげにそう呟いた。
稜線を吹きぬけていく優しい風もどこ吹く風。
彼は「トキぃ〜、トキはどこ行ったぁ〜」と池中玄太ばりに鳥を追いかけ、佐渡を彷徨う。
彼のあだ名は「バカ旦那」。
そんな彼が作った音楽ユニット、
「遭難乃風」に加入を希望する者は未だに一人もいない。
彼はただひとり、代表曲「美保純恋歌」を口ずさむ。
曲調はもちろん長渕だ。九州の血が湘南なんてしゃらくせぇと騒ぐのだから仕方ない。
そんなイタイ男にも佐渡の山は優しい。
トキは探せなかったけど素晴らしい景色を用意してくれた。
ボンビー旅も2日目、後編どえす。
この日はドンデン避難小屋から金北山へと縦走し、横山登山口へ下山してからトキを探して彷徨うボンビー旅。
下山後は佐渡名物の海鮮なんぞには脇目も振らず、トキを探しつつ、両津港を目指す。
温泉すら入らずに汗臭いまま帰りのフェリーに乗船。
そしてなんと、そのまま帰路についたのだった(笑)
ユキワリソウとカタクリの最強コラボ。
4月後半の佐渡は山野草のパラダイス。
これまでそこそこ山には登ってきたつもりだけど、この群生には恐れ入りました。
それとね、なんにしてもこの時期は涼しいから暑がりな自分は歩いててチョー快適だった。
そんなわけで温泉なんて無くたってそんなもん苦痛でもなんでもなかったわー(強がり)。
それにしても、2日間ほんと金使わなかったなぁ🤣
前編はこちらからご覧ください。
標準コースタイム
■2024年4月29日 ※カッコ内は標準コースタイム
ドンデン避難小屋⇒(20分)⇒金北山縦走路登山口⇒(15分)⇒アオネバ十字路⇒(45分)⇒マトネ⇒(75分)⇒真砂の峰⇒(110分)⇒金北山⇒(160分)⇒横山登山口
コースタイム:7時間5分
佐渡ヶ島 金北山登山後編
ドンデン避難小屋から縦走開始
金北山縦走路入口。
今朝は3時に起きて、朝から福岡の味「うまかっちゃん」を食べてドンデン避難小屋を出発。
まだ真っ暗だけど最初は舗装路を歩くし、佐渡には熊もいないから安心して歩ける。
青線が残雪期ルートになってるけど、残雪なんてなくてもごく普通の登山道になってるからご安心を。
ここは最短距離でアオネバ十字路を目指す。
アオネバ十字路に到着。
初めて歩く山のヘッデン歩行にすでに疲れたけど、ここから本格的な縦走が始まる。
シラネアオイは寝てる時も花は開いたままなんだな。
修学旅行の時に半目開けて寝てる奴がいたの思い出す。
夜明け
歩き始めて約1時間、ようやく夜明けのショータイムだ。
頭デカ族を締め付けるヘッデンを外せばものすごい開放感を得られる。
夜明けのタイミングでマトネに到着。
マトネってなんだ。
金北モルゲン。
気温は5度ぐらいかな。暑がりな自分が半袖の上からストームクルーザージャケットを羽織ってちょうど良い感じ。
モルゲンツリー。
太陽がこの星の半分を真っ赤に染める。
トキ色に染まっていく。
仕事のストレスも癒える。
先日、部下と1年間の業績評価の面談をしたんだけど、完全にナメられてるため、いや、時代っていうのも少しあるけど、「リモートでもいいっすか?」と聞かれ、
「う、うん。もちろんいいよ」
と快くOKしたわけです。
そして当日、teamsで面談したわけだけどさ、まさかのカメラオフ。
「面談」ではなくて、もはや「談」。
電話かよ。
まあ女子だから化粧とかめんどくさいからなぁ〜って思ったけど、
やはり、どう考えたって自分がナメられてるよね。
ふっ、まあいい。ナメられてるぐらいがちょうど良い。困った時に、助けてよぉ〜って言い易いし。
その後も淡々とカメラオフでの通話は進み、最後まで顔を見ることなく切られた(笑)
そんな部下の評価でさえ悩む。態度や人間性は一旦置いといて、業績だけを見て評価してあげるべきなのか。
サッカーの世界では一流チームになるほど上手いのは当たり前で、その振る舞いもレギュラーに相応しいかの選考基準になる。
しかし悲しいかな、我がチームは底辺の三流チーム。
ケツ穴好きの坂本の巨人が「紳士たれ」とか言ったところでお下劣にしか聞こえない。どんなに良いプレーをしててもケツ穴の呪縛からは逃れられないのだ。
つまり、巨人と我がグループは同格。
我がケツ穴は永久に切れ痔です。
自分も部下も同じケツ穴のムジナ、ここはしっかり業績だけで評価してあげよう。
相対評価で迷ったときに人間性で少し差をつければいいや、ということにした。
誰かを評価するということは、改めて思うけど自分を裁く場だなとつくづく思うわけです。それぐらい悩む。
特に今の20〜30代は物価高で電気代なんて以前の2倍近くに上がってるし、安い月給のままだとかなり厳しいと思う。
人間性に多少問題があっても可能な限り上げてあげたいと思うんだよね。
悩みに悩んだ評価をやっと一段落させ、自分は佐渡にやって来た。
リモート女子はこんなに悩んだとは思うまい。
下界は雲の下。
どこまでも続く雲海を闊歩しながら眺め、ああ東京で仕事してる時の俺は死んでるなと思う。
朝日の勢いは止まらない。
今日、本州では4月では記録的な夏日になるという予報だけど、佐渡の最高気温は19℃。
チョー快適、なんも言えねぇ。
モルゲンの森をのんびりペースで歩く。
自分の場合、ペースはゆっくりだけど休憩が少ないからか、終わってみればだいたいコースタイムの120%ぐらいになってることが多い。
金北山はまだまだ遠いけど、これが不思議なほどみるみる近づいてきて、しまいにはすぐだったなという感想になる。
夕焼けより朝日の方がはるかにきれいだ。
夜間に湿気が下がって空気が澄んだところに日が差すからだろう。
絶景続きの縦走路
標高1,000mにも満たない稜線なのに、まるで森林限界みたい。
冬の強風は積雪を吹き払い、さらに地表も削り、局地的に高山帯と同様の景観を作り出すそうだ。
こんなこと聞くと冬になんてぜったいに登らないぞと思う。
アップダウンを繰り返す。
トレッキングポールを持ってきてほんと良かった。
いつも少しでも楽して登りたいと思ってる🤣
とりあえずここまでの軌跡を振り返る。
あのピークがマトネだったのかな?
マトネから金北山まではずーっと森林限界の絶景が続く。
小俣沢のコル。
今でこそ登山用語はあらかた理解できるんだけど、コルって言い方には未だに違和感はあるよ。
ショウジョウバカマ。
森林限界と森の中を繰り返すけど、ひとたび森の中に入れば山野草の宝庫。
残雪も多い。雪の重みで斜めになった木を避けるのにほんと苦労する。
カタクリはまだぐっすり寝ている。
時間の経過とともにゆっくり開花していく様子が見られるのは、朝イチから歩き始めた特権。
標高1,000m未満とは思えない稜線はまだまだ続く。
ツンブリ平に到着。
至るところに休憩ポイントがでてくる。ここでたしか半袖1枚になったと思う。
目指すピークは確実に近付いてくる。
もしかするとカタクリの花が咲き開く前に山頂に着いちゃうんじゃないか?という不安すらよぎる。
そんなわけでもう少しペースを落とす。
朝の4時前から歩き始めたし、12:45発のフェリーに間に合えば良いから慌てる必要はない。
こんな広い稜線歩き。
佐渡は小さいのに山のスケールはとても大きい。
ハイマツではなく、笹原の向こう側に広がる雲海という構図はこれまでて初めてかも。
振り返ってみたけどもうどこがドンデン山なのかぜんぜん分からないよ。
真砂の峰に到着。
まだまだ極上の稜線歩きは続く。
むしろここまでは前菜レベル。
阿弥陀岳南稜ルートにある青ナギみたいなところが続く。
はるばる佐渡まで来ておきながら、トキがもう600羽ちかくまで増えてるとか、避難小屋には布団が備えられてるとか、そんな情報しか持ち合わせてなかったから、このダイナミックな光景には驚いてばかり。
これでアップダウンが無けりゃもっと良いんだけどなぁ。そんな贅沢なことを考えたりもするけど、これぐらいなら許容範囲。
たまに樹林帯に入ると、カタクリが少しずつ花を広げ始めてる。
たまに白いキクザキイチゲも混ざる。
墓石かと思えば水場への案内だった。
今日は1.5リットルほど持ってきたけど、涼しいから水の減りは遅い。
こんな天国みたいな縦走路がまだまだ続く。
山野草ばかり有名な山だけどすべてがパーフェクトじゃないか。
射程圏内に捉えた。
遠いようで近かった。それなりに時間はかかっちゃいるけど、絶景でそれを感じさせない。
空気が澄んでるからか、佐渡は森の中までも彩度が高くきれいだ。
澄んだ屁をこきながら進む。
カタクリも花開く。
普通の花ならこれで終わりだけど、カタクリの場合は完全体までまだ半分の段階。
ここから目一杯反り返る。
天狗の休場に到着。
最後の登りと反り返るカタクリ
ここまでの細かなアップダウンは終わって、いよいよここから金北山まで登り一辺倒となる。
雲海から頭を出した峰が見えるけど、佐渡ヶ島はZの形をしてるからあれは海を挟んだ反対側の佐渡の山々で本州ではない。
育ちすぎたふきのとう。
カタクリがとうとう反り返り始めた。完全体セルまでもうすぐだ。
カタクリロード。
そしてカウントスリー。
ここまでわざわざ佐渡まで来たのが報われる絶景だった。
最後に山頂をフミフミしに行くぜ。
その前に毎度のハイチュウみくじ。
今日はチュウ大吉。いつも良い結果しか出てこないのが何気に嬉しい。
こういうかがむポイントが、体が大きくてガチガチ野郎には鬼門なんだよね。
岩場とか雪渓とかよりはるかに苦手。
トンネルを抜けた先が山頂かな?
うーん、雪原だった。
雪の重みで倒れた木を避けていくのがめんどくさいポイントの連続。
鏡池はどこでドボンするか分からないから、トレランシューズの自分は怖くて近寄れない。
雪壁を登るけど、ロープあるしステップもあるからアイゼンは不要。
つか、そもそも持ってきてなかったからロープがあって助かったよ。
標高を上げると、雲海の遠くに本州の山が見えた。弥彦山と角田山かな。
だいぶ雪も増えてきた。迷った踏み跡も混じってるから迷いやすい。
最後の残雪ポイント。
上りはいいけど、横山登山口へはここをまた下らなきゃいけない。
登りながら下りを想定しながら歩く。
金北山山頂
遠くから見えた謎の建造物の正体はこれだったのね。
元々は戦後に建てられた米軍のレーダー施設というから、朝鮮戦争、対ロシアに備えての施設だったんだろうな。
その後自衛隊に引き渡され、レーダーは妙見山に移設されたためこちらはもうお払い箱なんだそうだ。
たしかに、佐渡と対馬は地理的にも防衛の最前線になるよなぁ。
山頂らしいものはないのかなと少し奥へ行くと社があった。
ほいっ、山頂いただきました。
山頂は物々しい建造物だらけだけど、眺めは一級品。
豊田漁港とか、回転寿司の弁慶本店がある方面。
両津港よりこっちの方が栄えてる感じなのかな。
それと、ずーーっと奥に白い山脈が見えるのは頸城か北アルプスかな。
佐渡ヶ島の反対側の山並みのずーっと奥に新潟の山が見える。越後三山や苗場山とかかな。
佐渡の小学生は遠足で金北山に登るらしい。
旧米軍施設があるだけに山頂まで舗装路が続いてるみたいだし、安全が担保されてるから遠足にはもってこいだね。
すぐ下山してはもったいないけど、やることもないから山頂をぶらぶら。
日本一暇を持て余すのが下手なおっさんはやることがなくて困っている。
さて、どうする。
静寂な山頂でやることと言えば、佐渡の風に乗せて加齢臭を日本海に振りまくことぐらいしかないのだ。
花まみれの下山路
しっかり公害級の体臭を山頂に残して下山だ。
ほぼずーっとカタクリ。
さらば佐渡の最高峰。
トキはどこにおるんじゃ?
完全体に成長したカタクリ。
これが山野草の宝庫の呼び声高い金北山の実力なのね。
ユキワリソウとカタクリの夢のコラボ。
珍しい植物かどうかなんて関係ない。スミレがぶわっと。
そして、眼下にはとても標高1,000mとは信じがたいスケールがスパーク。
こうして佐渡全体を見渡せたのだから、一般観光客の百倍は満喫してやった旅になった。
森にブナが混ざり始めると森の奥にタムシバが咲いてるのも見える。
そしてシラネアオイもわんさか。
オトメエンゴサクとキクザキイチゲ。
沢沿いに咲くニリンソウ。
どこもかしこもシラネアオイの大安売り。
エンレイソウ。
花びらが舞ってたから、見上げてみれば桜が咲いてる。
ここは天国ですか?
新緑の上に桜吹雪が降り注ぐという摩訶不思議な季節感。
新緑の森はずーっとカタクリの小径。
山菜を取りながら登る佐渡マダム2人組とすれ違った。今日出会ったハイカーはこの他に2人だけ。
稜線はずーっと貸し切りだったし、ほんと贅沢な山歩きだった。
横山登山口に着いた。
下山すら飽きさせることが無いという奇跡みたいな山だった。
しかし、自分の旅はこれで終わりではない。
下山したら左へ。
ここからはGoogleマップを使って国道350号を目指しながら、トキを探すという懲りない男の悲しきミッションは続く。
どこにもおらんぜ…。
日差しが強い時間帯は森の中に隠れてるのかと思って山を探したけどいなかった。
となれば、やはり本命の田んぼのあぜ道にいるはずなのだ。
トビか。紛らわしい!
これまで死ぬほどチョコボールを食べてきたけど、一度も金のエンゼルを見たことがない。きっと金のエンゼルなんてメーカーの話題作りのでっちあげなんだ。
そう思っていた。まさか我が子が自分の目の前で金のエンゼルを引き当てるまでは・・。
そんな疑ってばかりの汚れた自分の前に、トキが現れてくれるはずがないんだ…。
そして歩き疲れた。
バス停前にご当地スーパーがあったからバスの時間まで自分へのお土産を選ぶことにする。
結局、表参道にある新潟のアンテナショップでも買える「佐渡ラーメン」と「なが藻蕎麦」を買って荷物を増やすという過ちを犯す。
両津港行きのバスが来た。
バスの中でも「トキなんてどこにもおらんやん」って何度口にしたか。
佐渡にはまた来なきゃな。
両津港にトキおったわ(笑)
あとがき
固く閉じたカタクリが反り返るまでのストーリーを追ったドキュメンタリー登山。
下を見ればカタクリとシラネアオイ、ユキワリソウだって咲いてる。
稜線は森林限界の開放感が続き、島に吹く風は常に新鮮で実に爽快。
右を見ても左を見ても海。
下山しても空気が澱んでいない感じがするのは、ぜひ一度味わってみてほしい。
こんな天国みたいなところ、他にない。
まだ4月だというのに東京では25℃を超える真夏日となったこの日、佐渡の最高気温はなんと19℃。
夜明けの稜線は寒いぐらい。
職場の佐渡出身の人から寿司屋の弁慶を薦められたけど、寄る時間がなかったのはちと残念だった。
でもまあ最大限、山だけを満喫するという実に男らしい旅になったからそれはそれで満足(強がり)。
佐渡の風はほんと気持ち良いので、上半身だけでも山頂で猛々しく裸になることをお薦めします。
ではでは