おっさんは、おっさんの限界を超えるべく旅に出た。
最近は近い字が見えなくなってきたし、流行りに疎いからKing Gnuって読めなかったし、水トちゃんが本当はみうらだって知らずに職場で恥かいたし。
だいたい、おっさんだって昔はおっさんじゃなかったんだ。
ランニングに出掛けたのに、ただの河川敷の散歩になってしまった平日の夜、「おっさんの壁を超える!」と意味不明なことを掲げ、北アルプスのキングヌーこと「赤牛岳」へのチャレンジを決意した。
よく思うんだよね。今できることは何かって。
体力的にも今ならまだ何ができるかって探してしまうのも、きっと人生の折返し地点を過ぎたからだろう。
のんびり過ごして「良い歳の取り方をしてるよなぁ」とか、そんな諦めたようなことぜったいに言わないぞ。
誰にでも平等にやってくる老いに最後まで抗ってやろうじゃないか。
最低でも2泊しないとたどり着けない秘境の山に、しっかり2泊かけて登ってきた。
それって挑戦か?
まあいい。
まだ暗いうちに三俣山荘のテン場を出発して、鷲羽岳の山頂あたりで明るくなってきた。
槍ヶ岳の威風堂々とした姿と、遠くの富士山のシルエット。360度ぐるっと見渡せば、朝日に照らされた百名山たちが軽く10座以上見える。
早朝の北アルプスにすこし強めの風が吹いている。ただこれも日が昇ればおさまるだろう。
最高の天気に恵まれた。
さーて、今日は赤牛を食らってやる。
この3日だけは部下にも上司にも気を遣いまくる日々ともおさらばだ!
少しずつ紅葉も始まってきた。
9月の三連休は表銀座、裏剱、聖岳〜光岳とか、たくさん候補があったけどやっぱり赤牛。
水晶小屋で力汁を食べることもしっかりプランに盛り込んで、さあ出発だ。
ルートとコースタイム
■2023年9月16日~17日 ※カッコ内は標準コースタイム
鍋平登山者駐車場⇒(40分)⇒新穂高温泉⇒(80分)⇒わさび平小屋⇒(235分)⇒鏡平山荘⇒(140分)⇒双六小屋⇒(140分)⇒三俣山荘
1日目:コースタイム:10時間35分(休憩含まず)
三俣山荘⇒(70分)⇒鷲羽岳⇒(85分)⇒水晶小屋⇒(35分)⇒水晶岳⇒(155分)⇒赤牛岳⇒(165分)⇒水晶岳⇒(35分)⇒水晶小屋⇒(95分)⇒黒部川源流の碑⇒(40分)⇒三俣山荘
2日目:コースタイム:11時間20分(休憩含まず)
赤牛岳(前編)
新穂高温泉から登山開始
まだ眠くて眠くて死にそうだけど、2泊3日の山旅が始まってしまった。
ここは新穂高温泉。鍋平駐車場からすでに20分以上真っ暗な中を歩いて、やっと新穂高登山指導センターまでやってきた。
今回のおっさんを超える旅を成功させるためには、初日が鍵となる。
なんといってもテン泊装備で三俣山荘まで歩かなくてはならない。
わんぱくな方にはそれぐらい楽勝だろという方も多いだろうけど、自分にとって限界は双六小屋までで、この距離と標高差は未知の世界。
はっきり言って一週間前からおっさんは仕事が手につかないぐらい緊張している。
鍋平を4時に歩き始めて、5時過ぎにやっと空が明るくなってきた。
三俣山荘まではどうしても歩けなかったら、双六小屋でテントを張って2日目の行動を考え直さないと。
今日は「ガンガン行こうぜ」を封印したいところだけど三俣山荘のテン場は競争率が高いため、「いのち大事に」の2つのモードをうまく使い分けながら歩かなくてはならない。
何と言っても9月の3連休という鬼畜ウィーク。
とにかくペースが大事だぞと言い聞かせつつ、下山してみたらYAMAPのペースが140%というね…、
我ながらぐちゃぐちゃなペースになってた。
2日目のヘッデン歩行に備えて、わさび平小屋で単4電池が売ってないか聞いてみたけど、そりゃ置いてないわな。
このあと、三俣山荘で2本で400円という日本一高い値段で販売してたから念のため買っといたけど、店員さんも買います?って半信半疑だったな(笑)
これから予備はちゃんと持ってこなきゃだめだなと、勉強代だと思うことにしよう。
話に聞いてたけど、今年のアルプスの渇水は大問題。
ホームページで豊富な水量を売りにしている双六小屋でも水場を一箇所に絞ったり対策している。
槍ヶ岳山荘ではラーメンと水の販売も中止したらしいし。
ここら辺から双六小屋まではつい2ヶ月前の西鎌尾根編でも書いてるから端折っていくよ。
とはいえ、2ヶ月も経てば風景もだいぶ変わってるんだよね。
7月の濃い緑が眩しかった森も、9月中旬になれば少し黄色が混ざり始めて、森に落ち着きがでてくるというか、実りの秋の訪れと同時に明らかに越冬の準備に入ったなって感じがしてくる。
アキノキリンソウ。
花ほど季節のめぐりが顕著なものはなくて、ハクサンイチゲとチングルマのお花畑はすっかり姿を消してアキノキリンソウやリンドウといった最終ランナーが主役になってくる。
秩父沢の雪渓は猛暑続きで解けきってしまい、すっかり水無川となってしまった。
深刻な水不足とは聞いてるけど、さすがに黒部源流の三俣山荘は余裕だろうと、このときはそう思っていた。
サラシナショウマで休むスジグロシロチョウ。
そして油断してると目の前をアルプスのいたずら好きが横切った。
オコジョ!!
咄嗟で逃げ去るところしか撮れなかったけど、2ヶ月前も鏡平付近で見かけたし、ここら辺を縄張りにしている子がいるんだね。
そんなほんわかムードを打ち消す様に灰色の奴が垂れ込める。
アルプスって天井があったのね。
イタドリヶ原のベンチでちょい休憩。
秩父沢でも休んだし、とにかく初日は短時間の休みをちょいちょい挟む。
ナナカマドもだいぶ色づいてきた。
ガスの中へ突入するのと同時に秋が訪れた。
もう少しで山には一年で一番きれいな季節がやってくる。
おっさんの一年も自然界と同じように春に若返って冬に老けたりというのを毎年繰り返せたらいいのに。
鏡池はこの上なく残念な結果に。
そもそも今日は曇予報だったからこれは予想できてたけど、残念だね。
鏡平から巻き巻きで三俣山荘へ
なんども来たことあるんだけど、実はまだ鏡平でご飯をいただいたことってないんだよね。
なんつったって赤牛岳を目指すヤロウなんだから何を食べるかは決まっている。
それがこれ、牛丼。1,200円なり~。
細く切られたこんにゃくがよーく味を吸ってて激ウマっ!
美味いというか、良い意味でこのがさつな味付けが妙に懐かしかった。
というのも、中学生の頃に友達と上野のアメ横へ出かけ、高架線下でおっさんたち(今の自分ぐらい)がむさぼる牛丼が異様に美味そうに見えたんだよね。それで俺たちも食ってみね?って当時仲良かった奴と2人で食べたあの時のこんにゃくが染みた濃い味付けを思い出す味で、なんか牛丼以上に美味かった。
おっさんにも若い頃があったんだな。あいつ理系の大学出てなぜか人材派遣会社に勤めたけどすっかり音信不通になっちゃったなぁ。きっと向こうも同じこと思ってるだろう。
ちなみに下山の時にも鏡平でもう一度食べようとしたら「もう今シーズンの牛丼は終わったよー!」だって。
さらば青春の味。
しっかり腹ごしらえして出発。
鏡平まで来ちゃえば双六小屋は射程圏内なんだけど、三俣山荘はまだまだその先。
殺す気か。
ガスは濃いけど、少し日差しがでてきた。
おっと、晴れてきた。
途端に首がちりちりと焼けてくる。登ってる時の天気は悪いぐらいがちょうどよい。
ゴゼンタチバナも実りの秋。
夏に秋が混じったトレイルを弓折岳へ登っていく。
この登りがしんどいんだけど、もう何度も歩いて勝手を知っているというのはほんと心強い。
究極の睡眠不足で立ちながら眠れるぐらいフラフラだけど、双六小屋までなら確実に歩けるという自信が持てるのもこれまでの経験のお陰。
眼下に見える鏡平をガスが取り巻く。
たったこれだけのことなのに山でしか見られない絶景に変えてくれる。
弓折岳の中段あたりまできた。
端折りまくってるから簡単に思えるかもしれないけど、双六小屋までで累積標高差は2,000mオーバー。それもテン泊装備だからそれなりに時間はかかってる。
頑張ってたどり着けばガスる。
我が人生一片の悔い無し。
明日の赤牛岳が晴れれば全部いいんだよ。
弓折峠まで来れば、反対側にそびえる双六岳とご対面。
一度も晴れたことのない双六岳はこっちからお断りだ!最短距離で三俣山荘を目指すショゾン。
今更だけど、赤牛岳を攻略するにあたってどのルートからアタックするか散々悩んだ。
結局、一番楽しくて贅沢なのは三俣山荘にテントを張って、三俣山荘と赤牛岳をピストンするプラン。
これだと鷲羽岳と水晶岳を堪能し、未踏の黒部源流も歩けるし、なにより体力的に優しい。
新穂高温泉から読売新道で黒部ダムへ下山するルートは鉄板だけど、読売新道が死ぬほどつまらなさそうであえなく却下。とにかく黒部ダムに楽しみを見いだせなくてね、もう歩きたくないのよ。
あとは折立から入山して雲ノ平を拠点にして赤牛岳ピストンで高天原温泉にも立ち寄るプラン。これは我ながら良いプランを思いついたなと思ったけど、何と言っても折立までが遠すぎる。
ともかく、どこからアクセスしても2泊は必要なロングコースだけど、結果的に今回の自分の選択がベストだと思えたから、赤牛狙いの方はぜひ参考にしてくださりませ。
池塘では命の営みが繋がっていく。
オオルリボシヤンマ。レッドデータブックに片足を突っ込んでいる希少なトンボ。
ナナカマドのトンネルを抜ける。
もしかしたら今日双六岳に登ったら晴れんじゃね?って欲も出てくる陽気になったけど、おっさんの体力でそれは不可能。
とことん双六岳とは縁がない。
もはやマイホーム感すらある双六小屋が見えて歓喜しそうになったけど、こんなところて安堵してはいけない。
今日の目的地はまだまだ先なのだ。
この小屋に近づいてからの木道がこれまた爽快。
なにもかもが絶景。
相変わらず、双六岳は快晴の予感。
いかんいかん。変な気起こすんじゃないぞ。
双六小屋でカルビ丼を食べるつもりだったけど、鏡平で食べた牛丼がパンチ効いててここは軽く水分補給するだけで移動開始。
双六小屋までは端折ると宣言しておきながら、結局だらだらと長く書いてしまったな。
巻き道にするにしてもだね、この坂を登らねばならないのだよ。
牛丼リバースしそう。
シラタマノキ。
巻き道に出るまでに燃え尽きてしまいそうな急登。
森林限界に突入と同時におっさん限界にも突入だ。
だいたい、ここまで登ったら山頂踏むのとあんま変わらないんじゃね?とか思ったりする。
よしっ!頑張った。
ここまで上がってきたら予想以上に草紅葉が始まっててちょっと感動したな。今年の夏が暑すぎて秋は来ないかもって思ってたけどしっかり来てるのね。
ここからの巻き道を歩くのは初めてだ。
平坦であってくれ~平坦であってくれ~
おお~、割と平坦な感じでいい感じじゃないの。
もうザックが重たくて肩も痛いし、そろそろ限界だったから助かるよ。
表銀座方面はいつも晴れてんだよなー。サイコーだなー、肩痛いけどー。
がびちょーん!!!
平坦であってくれよぉ~。。
平坦であってよぉ・・
急転直下の下りが始まった。
9月中旬に生き残っていたヘビイチゴ。
ガツンと下った分、三俣蓮華岳との分岐までだらだらと登り返してきた。
もうね、とっくにおっさんの壁超えた。
ザックを置いて休みたいと100万回思った。
巻き道を振り返ったところ。
遠くでガツンと下ってから、ここまでだらだら登ってきたのが分かってもらえるだろうか。
もう無理!と言ってここで5分休憩した。
もうテコでも動かん。
表銀座にある真ん中にある大きな山は大天井だろうか。一度は歩いてみたいな表銀座。
さーって、再び歩き始めますかね。
おっさんの限界は浅いからすぐ復活する。
そして三俣峠に到着。
ここからは歩いたことがあるから、三俣山荘に向けてずーっと下りだってことは分かっている。
一度歩いたことがあるって素晴らしい。
やっと見えた。。
新穂高温泉から三俣山荘まで、自分にはとても歩けないと思ってただけに赤牛岳を踏破する以上の達成感に浸った。
鷲羽岳は三俣蓮華岳側から見て、鷲が羽を広げた様な姿がその名の由来になった通り、怖いぐらいでかい。
13:00
競争率の高い三俣山荘のテン場では、まずテントを張ってから三俣山荘でテントの受付をする。ほとんどのテン場がそうだけどね。
思いの外良いペースで歩けたからそこそこ良いところに張れたんだけど、隣のおっさんの独り言が多かったのが予定外。
まあ、ほんとすげぇ喋る。怖いぐらい。
ちなみに三俣山荘のトイレは小屋の中にしかないよ。
この日、午後はずーっと曇り空。
たまに雨がテントを打ち付ける音と隣のおっさんの独り言が聞こえてくるぐらいで、たぶん誰よりも早く寝ちゃったんじゃないかな。
赤牛チャレンジの2日目
隣のおっさんの独り言で夜中の2時に目が覚めた。すげぇな、昨日からずっと喋り続けてたのかもしれない。
耳栓を付けて、それからなんとなくうとうとしてたらもう3時半。
テントから顔を出してみれば星空がまたたくロマンチックな夜。
そんな聖夜を台無しにする隣のおっさんの「もう一晩ここに泊まるからなぁ」という独り言が聞こえてきて、今晩もこれ聞くのかよー!とうんざりしながらサッポロ一番塩ラーメンをすすった。
職場の後輩から「登山してるからあげます」ともらったリポDゼリー。
優しさに餓えている自分は涙しながら栄養注入。
今回の2泊3日の旅で、最大の山場は間違いなく初日の新穂高~三俣山荘までの行程だけど、今日の三俣山荘~赤牛岳のピストンもなかなかの長丁場。しっかり食べておく。
これ、いい写真だよね。
もう既にたくさんのハイカーが星空の下鷲羽岳へ歩き始めている。早く行かないとっ!
くそっ、サッポロ一番のスープが熱くてちょっと急げない。コッフェル熱くて口を付けれないしスープも熱いし、やべぇやべぇ。
ちなみに、今日も夕方から雨がパラつく予報だからなんとしてもそれまでには戻ってきたい。
登り始めて早々トレイルでサンショウウオを発見。
なんで君はこんなところにいるんだ。踏まれてしまうよ。
きっと希少種だろうし、なんか御利益ありそうだな。
鷲羽岳の山頂までもう少し。
鷲羽岳で夜明け
遠くの空では夜と朝が混ざり始めた。
水分2リットルと食料ぐらいしか背負ってないからあっという間に着いた。軽いって最高。
鷲羽岳山頂はまだ真っ暗。
真ん中に富士山が見える。左に常念、右に槍ヶ岳。
登山してなきゃ見られない絶景に山頂が興奮と、寒ぃから早く日昇れよという空気に包まれている。
そんな悦に浸ってる暇なんぞないので、さっさと次なる強敵ワリモ岳へ向かって下って登る。
登山をやらない方々よ、この下って登るという不合理な行為を登山者みんなが楽しんでやってると思うなよ。ふー。
左を向けば赤く染まりだした黒部五郎岳。
遠いけどほんといい山だし、黒部五郎小屋のテン場が激混みでゆっくりできなかったのが心残りで、また登りたい山の一つ。
ほんと、遠すぎるんだよね…。
東側の山は逆光で真っ黒だけど、野口五郎岳。
右も左も五郎。
どっちの五郎も良い山。
ちなみに、この歳になっても萩と荻をよく間違える。
カメラのお陰で明るく見えるけど、実際にはヘッデンはやっと不要になってきたレベルで薄暗い。
日の出はワリモからかな。
さあ日の出だ。
7月の西鎌尾根以来、久しぶりのご来光。
わお〜
これも思いっきり空を入れてみた構図でいい写真だな。
今日の相棒はいつもの富士フイルムX-T1。
朝日がおやじの旅路を照らす。
晴れてくれさえすれば、このチャレンジの成功は約束された様なもんだ。
ワリモの山頂はスルー。
ワリモの鎖場は難しくないけど、なるべく明るい中で通過したかったからひとまず良かった。
赤牛岳までは、コケたら痛いだろうけど難所は無いルート。
水晶岳へ
水晶岳へと続く天国のような縦走路が伸びる。
水晶岳から先が長いというのに、水晶岳までがこれまた長過ぎるっちゅーねん。
目を凝らせば遠くは雲海。
西側は谷底から吹き上げてくる風が強くて、レインウエアはまだ脱げない。
手袋は青のテムレスで便所掃除スタイル。
一歩ずつ確実に遠ざかっていく槍ヶ岳。
ピストンだからね、またあれに向かって帰ることを考えると遠ざかるのが惜しいよ。
朝日がぐんぐん昇る。
良く晴れたシルバーウィーク2日目、どれだけのハイカーが歓喜しちゃっていることだろう。
今年のアルプスはとにかくたくさん事故があった。もう多すぎてニュースにすら取り上げられないぐらい。
幸いにして自分は大きな事故に今のところ遭遇していないけど、この日の赤牛岳の帰り、岩場でコケてかすり傷を負った。
温泉でしみて痛かった。ちょっとコケただけで皮膚がボロボロになるんだから、100m滑落とか想像しただけで怖い。
草紅葉が輝いて、朝ってやっぱいいと思える光景。
余談だけど、最近は苦手なことを楽しむという余裕がでてきた気がする。
以前は会社で新システムの導入だったり、パソコンやスマホの変更ですら煩わしかったけど、最近は新しいシステムの導入があると少しワクワクしてしまう。
さて、どう対応してやろうかと。
考えてみれば我々40代の世代は、10代の頃にDOS画面に触れ、手作りパソコンとかにもトライした世代だから、プログラマーじゃなくても今の若い世代よりPCというものを理解している。
今の若い子みたいにアプリを使いこなす能力は圧倒的に劣るだろうけど、総合的にITに強い世代なんだろうと思う。
新しい基幹系システムに変更すると言っても、所詮むかしの手書き伝票をソフト化しただけの事だし、こちとらアナログでお金と物流と伝票の流れに揉まれる一方でデジタル化を推進させてきた世代だから、ほんと、よくよく考えてみたら実はおっさん最強じゃね?と思えてくる。
そう、実は最も柔軟に対応できる世代なんだよと自信みたいなものがある。
だから世のおっさん達よ、もともと自身満々なお方はさて置き、実は最強だということを自覚するんだ!と言いたい。
雲ノ平の台地が見えてきた。
日本最後の秘境と聞いてたのに、テントを張る場所がないぐらい人だらけだった。
アルプスに秘境なんてないんだと現実を思い知らされた。
一目で分かる笠すぎる笠ヶ岳。
水晶小屋に着いた。
本日のメインディッシュ「力汁」は帰りに立ち寄って必ずゲットする。
水晶小屋からはこの大絶景。槍ヶ岳から延びる東鎌尾根と遠くに見える山脈は南アルプス。
そしてその左にまだ薄っすら見える富士山。
こんな絶景が見られてもう満足した。
赤牛岳まで行く意味ないよね?
赤牛遠っ!!
はるか遠い赤牛岳を見て膝から崩れ落ちた。
つか、水晶が立派過ぎて赤牛岳なんて完膚なきまでに貫禄負けしてるし。
果たして赤牛岳まで行く意味あんの?
これあと10回同じことを思う。
パノラマにしてみれば、水晶が主役だって幼稚園児にも分かる(笑)
もはや赤牛がどこにあるのかも分からない。
そんなわけで水晶岳が入らない様に赤牛岳をアップにしてみれば、今度は右奥の立山が立派過ぎてやっぱり赤牛は物足りない。
なぜ自分は自ら登頂意欲を削ぐ様なことをやってるんだか、わけ分からん。
水晶に近付くと岩がごろごろしてくる。
山頂が見えた。
水晶の山頂は狭いからあんなにハイカーがいたら嫌だなと思ってると、ちょうどグループがぞろぞろ下山を始めてラッキー。
6:50
我が人生2回目の水晶ゲット。
まさに北アルプスの最深部。ここまで来るのも一苦労。
だからこそ広がる360度山しか見えない大パノラマ。
やべぇー、水晶からの眺めがやべぇー。
長い年月をかけて歩き回って来た北アルプスの稜線が見渡せる。唯一歩いてないのはここから赤牛岳への稜線だけだな、とかそんな風に言ってみたいけど実際には未踏の地だらけ(笑)
つか、表銀座すら歩いてないし。
いよいよ赤牛岳
おいどんには水晶でくつろいでる時間はない。
赤牛岳まで続くこのすん晴らしい稜線を攻略せんと。
歩きやすそうに見えるけど、実際はアップダウンえげつないから、まじで。
しかも、悲しいけどこれピストンなのよね。スレッガー風に。
振り返ると槍ヶ岳と笠ヶ岳が両乳首みたいに立ってる。
名実ともにここはアルプスのへそ。
水晶岳の北峰からは岩場の激下り。
山登りをする度に明日から早起きする生活スタイルに変えていこうと思うんだけど、帰ったらつまらないドラマを夜中まで見ちゃうし実際には無理。
「VIVANT」がラスト3話から急転直下でつまらなくなったのは一体なんだったんだろうね。素麺を食べてて突然飽きるのと一緒で、急に堺雅人に飽きた。
西側の日陰は相変わらず風が強くて、レインウエアを脱ぎたくても脱げない。
真ん中に赤牛岳を臨む。
左のでっこみを超えてから、左のでっこみも超えなくちゃたどり着けない最果ての地。まさにとことん山まみれになりたい変態の境地。
おっさんの壁を超えるには絶好の腕試しの場だ。
逃げ出したい。。
朝方は真っ黒だった野口五郎岳も姿が見える様になった。
赤牛岳チャレンジを阻むピークを頑張って一つ超えると、そこから見える稜線はあたかも平坦に見えちゃうという不思議。
赤牛岳が周りの山に比べて突出して高くないからそう見えるだけなんだけどね。
なんにしても帰り道は水晶に向けて登りまくるということだから、今ここで体力を使い果たすわけにはいかない。
左に見える薬師岳がめちゃでかい。
この山も早いとこ登らなきゃ。このままでは最後まで未踏の地で残ってしまいそうだ。
ケルンを見たら突然スマホを置いてみたい衝動に駆られた。
もしかしたら、充電されるかもしれない。
充電は・・されなかった。。
次回までにスマホの無線充電の仕組みの謎に迫りたい。
つか、無線で充電される仕組みなんてどうでもいい。
謎なのはそんなことではなく、どう考えたって有線で繋いだ方が充電効率が良いに決まってるのに、なぜみんな普通に使ってるのかというところだろう。
有線で繋ぐより電気代がかかるだろうし、何をメリットだと思って使っているのか、いまいち納得感がない。
どれだけ大絶景が広がっててもね、ずっと感動し続けてもいられないんでそんな無線充電のことを考えていた。
高天原温泉との分岐に到着。
眼下に見える赤い屋根が高天原山荘。
どこからアクセスしても一泊以上しなきゃたどり着けない秘湯の宿だけど、温泉に入った後に汗まみれになって移動するという不合理さを味わえる。
自分としてはそれも含めて楽しめる自信があるからなんとしても訪れたいところ。
無尽蔵の体力があれば、この気持ち良さそうな稜線を目にして嬉ションしちゃうとこだろう。
おっさんは脱糞してる。
歩いてみれば意外と歩きにくいトレイルだけど、これも最強のおっさんになる試練だと思えば頑張れる。
ガツンと下ってきた。
帰りはこれを登るわけね。
つらたん。
再びこんな平坦に見える稜線でハイカーを錯覚させようとしてくる赤牛マジック。
これはまやかしだ。
騙されちゃいけない。
これは試練なんだ。
何度も振り返ってしまうんだけど、後ろの水晶岳の方からここまでは明らかな下り基調なんだよね。。
間違いなく帰りのほうが体力使うな、こりゃこりゃ。
そしてほら、言ったそばからこれだよ。
すんげー下る。これ標高差200mぐらいないか?
水晶岳周辺は水晶がたくさんあるけど、見つけても持ち帰り禁止だよ。
なんとなく赤牛岳らしい土の色になってきた。
夜中に一人でこっそり食べる冷凍唐揚げみたいな色でもOK。
ケルンを撮りたがるおっさん。
YAMAPの地図で現在地を確認しても赤牛岳が一向に近付いてこないから、もうスマホは見ないことにした。
あれが赤牛岳なのか?
そうであってほしかったけどね、こいつも偽ピーク。
風が強かったお陰でバテずに済んだのはラッキーだったけど、もはや精神はズタズタ。
黒部ダムが見えてきた。
赤牛にチャレンジする人はここから読売新道を下って奥黒部ヒュッテに泊まるという人も多いけど、黒部ダム歩いてもガチで猛烈につまらないから、悪いこと言わない、やめた方が良いよ。
実際、読売新道を歩いた人のレコ見ても後悔してる人もいたし、この北アルプスの最深部を往復するほうがはるかに贅沢だしね、今回のルートに決めて良かったよ。
烏帽子岳が見える。烏帽子小屋が見えたから分かったけど、こっから見たらぜんぜん尖ってないから判別つかない。
がんばって偽ピークを越えたのに、非情なまでに赤牛岳はまだまだ先…。
なんかむしろ遠ざかってないか?
ここの岩場が意外とルートを間違えやすくて、帰りは自分もルートロスしちゃったんだよね。
同じところで何人も間違えてて、踏み跡がしっかり残っちゃってるから間違えるべくして間違える。
でも途中で「こんなに下った覚えはないぞ」とすぐ間違いに気付くあたり、常に何かにびくびくしてる性格の勝利。
そして振り返ればアルプスのおぼっちゃまが隠れているじゃないか。
どこからどう見ても、ともだちんこ。
遠目では分からなかったけど、赤牛岳って意外と岩がごろごろしてんだな。
なんにしてもやっと山頂が見えた。
あれが偽ピークだったらもう絶対に登れない。
KingGnu
不思議なもので何度トライしても必ずガスってしまう双六岳みたいな山がある一方で、今回みたいに一発で最高の出会いを果たすことのできる山もある。
今回の縁に感謝するけど、なんで双六岳はこんなに外れるんだろう。
明日は双六岳に4度目の正直でトライするつもりだけど、きっと駄目だろうな。そんな予感がする。
さあ、山頂で定番の「アレ」で乾杯しよう。
9:30
とうとうおっさんの限界を超えて、おっさんの中のキングヌーになれた。
とにかくまず休みたい。
休みたいけど、お約束のRedBull。
恥ずかしいけどベタなことやってみたいんだよね。
九州人なら赤牛丼を喰らいたいところだったけど、そりゃさすがに無理。
休みたいのを我慢して写真撮影に突入。
山登りというか、写真撮影に来た様なもんだからそりゃ当然。
左から槍ヶ岳、穂高、真ん中に水晶、鷲羽、乗鞍、御嶽、笠ヶ岳。写真から切れちゃってるけど右に黒部五郎と薬師。
ほんとすごい景色だよ。赤牛岳に来て本当によかった。
そんな感動に浸る一方で、赤牛みたいな辺境の地にはいさぎよい変態がいることをお忘れなく。
えっ!!
前編おわり
赤牛って聞いて真っ先にレッドブルを思い浮かべる人は稀だと思う。
自分みたいな九州人は真っ先に阿蘇の草原でのっぺりと放牧されている赤牛の姿がまずイメージしちゃうし、もっと言えば赤牛丼がたまらなく好きだから、名店で誉れ高い「いまきん」とか「山康」の赤牛丼がバンっと思い浮かぶ。
まあそれはいいとして、今年の7月にガスガスの双六岳で泣き崩れていると、やってきたトレラン二人組が「レッドブルやってきました!」
「ん?レッドブル?」
「赤牛ですよ!」
ハッとした。
赤牛ってあの新進気鋭の親父ドリンク「レッドブル」のことか!!
(自分はだんとつリポD派だけどな!!)
まあそんなわけで、赤牛と聞くと親近感もあるし、登頂意欲もくすぐられちゃったわけです、ええ。
部下にも上司にも気を遣いまくる日々ともおさらば。
おっさんのくせして休日は意外とチャレンジャーなんだぜというところを見せてやるんだ。職場の誰かに話したりしないけど、シルバーウィークにシルバーヘアーなおっさんが挑むにはこの日こそふさわしい。
とうとう赤牛岳まで歩き切ることができて、ひとまずチャレンジ成功。よかった。あとは無事戻れるかどうか。
後編は水晶岳に向けて鬼畜な登り返しと黒部源流、そして最終日の三俣蓮華岳登山と新穂高温泉への下山。
相変わらず書くのが遅いけど、気長に待ってください。。
とりあえず前編、最後まで読んでくれてありがとうございました。
後編も見てね