11月初旬。
一人の原始人が今シーズン最後の紅葉を楽しもうとやって来たのは栃木県の中倉山。
しかしこの中倉山、かの有名な足尾銅山鉱毒事件の影響をもろに受けた山で、なんと今でも山の半分が禿げた状態で実に痛々しいお姿。
渡辺謙ぐらいの状態だと言えばいいだろうか。
まあそんな紅葉どころか草木も生えない山で、紅葉を狙いに来る輩なんぞこれまでの長い登山史でいただろうか。
断言する、いない。
そう、これは前代未聞。ギネス級のチャレンジなのだ。
そんな中倉山の荒廃した稜線には、奇跡的に一本だけ生き残ったブナがある。
それを「孤高のブナ」と呼び、この中倉山を一躍有名にした張本人なのであーる。
今回はその孤高のブナが紅葉した姿を狙う。
そのはずだった。
改めて、上へ戻って最初の写真を見てほしい。
すっかり落葉を終えた哀れな姿ではないか。
孤高に冬支度万全といったところだ。
ふっ。笑えばいい。
なんて言おうが後の祭り。
見事なまでなツートン。
稜線の左側は鉱毒ガスや煙害によって禿げ山となった斜面。
日本で初の公害事件となった足尾銅山鉱毒事件から100年以上経過しても、今なおその爪痕はしっかりと残っている。
一度破壊された自然や生態系は決して元には戻らないということを証明する生き字引みたいな場所だけど、そこら辺で見かける堰堤工事や渓流保全工事なんかはそれらが本当に必要なものなのかを考えさせられる。
自然を人間の都合で変えようとすれば、未知の問題が起きてくるだろうし。
さてさて、中倉山は実は今回で2回目。1回目はバリエーションルートの足尾のジャンダルムからよじ登ったんだけど、まああそこのルートはほんと誰にも薦めない。恐ろしいし無傷で済んだのが不思議なぐらい。
今回歩いたルートは一般ルートだったけど、沢入山までなら危険なところも無く、快適な登山が楽しめる。
問題なのは沢入山から先のオロ山まで。
コース不明瞭なところが多かったし藪漕ぎもあったりでぜんぜん楽しめないからっ!!
オロ山まで行くことないヨ!!
と強調しておく。
余談ですが、
この翌日、駅の階段を降りてたら突然左足のふくらはぎを肉離れが襲った…。
しばらく歩行困難な日々でゴザルよ
(´;ω;`)ウゥゥ
ルートとコースタイム
■2023年11月11日 ※カッコ内は標準コースタイム
銅親水公園⇒(45分)⇒登山口⇒(110分)⇒中倉山⇒(75分)⇒沢入山⇒(65分)⇒オロ山⇒(65分)⇒沢入山⇒(155分)⇒登山口⇒(45分)⇒銅親水公園
コースタイム:9時間20分(休憩含まず)
総距離 16.6キロ、累積標高上り 1,492m
秋の中倉山
銅親水公園から長い長い林道歩き
銅親水公園(あかがねしんすい)の駐車場は23台しか止められないから割とすぐ一杯になってしまう。
朝9時ちょうどに到着して残り3台ほどの空き状況だったかな。
ちなみに前回来たときも「これであかがねって読むの!?」って驚いたなぁ〜と思い出して、己の学習能力ゼロぶりを再認識。
故障中の双眼鏡があったけど、その前には大きな木が立ちはだかってるし、もはや修理される気配なし。
見捨てられた感が寂しいぞ。
この通行止めのヌートバーをくぐって中へ。
通行料100円取ってくれていいから、登山口の近くまで車でアクセスさせてくれるとありがたいでごわす。
ぐるっと手前の山の裏側へと回る。
長い長い林道が続くでごわす。
橋を渡る。
小魚がたくさん泳ぐ渡良瀬川。
水もきれいになって魚も戻ってきてるのね。
100万本の植林を実施中ということで、死んだ自然をなんとか戻そうとする活動が行われている。
真っすぐ行けば松木渓谷と皇海山へ行けるとあるけど、かなりの難路で実際には行けないらしい。
そして松木渓谷というのが足尾のジャンダルムのこと。
中倉山へはここを左へ折れて再び橋を渡る。
案内表示があるから迷わないと思うよ。
林道沿いにはほんの一部だけど紅葉が見られるところも出現。
登山口付近で紅葉がピークなんだから山の稜線では完全に終わってるだろうな。
早々に諦めモード。
真っ赤に燃〜えた〜カエデだから〜♫
この先、パタリと紅葉は姿を消す。
まだまだ続く林道にダッフンダを連発。
帰りもこの林道を歩くことを考えると、ボンビーなくせに食い意地だけは超一流な自分なんかは今すぐ引き返しておっ切込みうどんを食べて帰りたくなってくる。
まだまだ続く。もはやここら辺で思考停止。
後ろから速いペースで追い上げてきた若いお兄さんが、なぜか抜かずにずっと真後ろを歩くもんだから落ち着かない。
これがトナラーってやつか。
やっと登山開始
お兄さんが背後に張り付いたまま登山口に到着。
体が十分暖まったからゆっくり上着を脱いだりおにぎりを食べたりして、お兄さんを先に行かす。もしかしたら熊でも警戒してたのかもしれないな。
まあ、とにかくこれで自分のペースでのんびり歩ける。
森の中に一歩入ると紅葉どころか落葉しきっている。
うん、これは間違いない、孤高のブナはもう散っている。
今日の目的を完全に見失った。
一体なんのために登っているのか。
たまにわずかに葉を残した木を見つけては貪るようにシャッターを切る。
一体何のために登っているんだか。
さきほど先に行かせたお兄さんが早速へばってた。
実は背後につかれた時に何度か体内に溜めた毒ガスをバレない様にぶっ放してしまったのだが、それをうっかり吸い込んでしまい足に来たのだろう。
「まさか…、鉱毒ガスの悲劇がまだ続いていたとは…」
そう言ってうつむく彼を憐れみながら抜き去る。
こんなおっさんの屁をまともに吸った彼の精神はズタズタだろう。
さあ、もう自分のペースを邪魔する者はいなくなった。
そして懲りずにたまに葉を見ると撮りたくなる。これなら近所の公園に行った方がまだまともな紅葉が見れたとか、口が裂けても言わないぞ!
枯れ果てた森の中を歩き続けること約50分。
やっと尾根に出そうだ。
ちょっと心配になって後ろを振り返ってもお兄さんの姿はもう見えない。
ムカついて帰ったのかも(笑)
ひー寒い!!
尾根に出た途端、暴風!
やっと向こう側の景色が開けたというのに寒すぎて眺める余裕無し!
ちなみに左奥に見える山がオロ山ね。
冒頭にも軽く書いたけど、詳しくはのちほど。
尾根に出たというのに、これまでとあまり景色が変わらない。
ちなみに中倉山を巻いて孤高のブナへ出る巻き道コースとの分岐が途中にあるんだけど、案内標識とか何も立ってなかったからYAMAPで軌跡ダウンロードして確認しながら登るべし!!
寒いけど、右から波平ピーク、沢入山、そしてオロ山、うん、よーく見渡せる。
このときはどこまで歩こうとか特に決めてなかったんだよね。
ふわっとオロ山ってどんな山だろうって思ってた程度。
さあ、ここでやっとこさ稜線に出る。
わくわく。
わくわく。
寒っ!!
更に猛烈な寒風が吹き荒れる。
手袋してても指が凍りそうだけど、男体山がお目見えとあって写真を撮らないわけにはいかない。
ちなみに男体山の手前にかぶって見えるのが社山。
絶景のスカイトレイル
中倉山の山頂は学生たちが7〜8人いた。下がジャージの子もいたからその子はまだ新入部員かな。
引率の先生2人が難しい顔で地図をじーっと見てたのが軽く不安になる(笑)
学生の手前YAMAP使えないのかも。
中倉山の山頂の標識にはブナの絵が描かれてる。
やはり売りは波平よりブナなんだな。
まだまだ先は長いし、風も強いから立ち止まらずブナへ移動。
右の急斜面は足尾のジャンダルムからの尾根。
よくこんなところを登ってきたもんだ。
ブナが見えてきた。
始めて見た時は左の斜面にはそこそこ木が生えてるからぜんぜん孤独やないやーんって思ったけど、改めて見てみると鉱毒ガスをまともにかぶる位置に立っているにもかかわらずよく生き残ったもんだなと感心する。
今さらジローだけど。
さあ、そんな孤高のブナ、果たして紅葉してるだろうか。
わくわく。
わくわく。
禿げとるがな。
1枚すら残っちゃいない。
まあ、こうなることは予想できたことだから大してショックではないのだ。
そんなことより、孤高のブナが寂しげだから今日は相棒を持って来た。
コイツで寂しさを紛らわしておくれ
ポッキーだ。
いいかいブナ男、今日からこのポッキーが君の友達だ。
名前はポキ男、よろしくね。
今日は11月11日、孤高のポッキーの日。
風の影響をあまり受けない山の斜面で腹ごしらえといこう。
さきほど紹介したばかりのポキ男を無惨にもぽりぽり食べる。
んまっ、ポキ男んまっ。
やっぱポッキーは3本ずつ食わないと歯ごたえないな…ブツブツ。
極細ポッキーって一生買うことないだろうな…ブツブツ…。
結局、いちごポッキーが一番美味いな…ブツブツ…。
さて、しっかり腹ごしらえしたらこの稜線のもっと奥へ行ってみよう。
目の前に絶望を感じさせるピークが立ちはだかる。
そう、あれがブナの次に有名な「波平ピーク」だ。
説明不要の磯野家のボス。
晩ごはんが遅ければフネさんとサザエさんを叱りつけ、マスオさんを誘って外に食べに行ってしまう昭和の親父。
初期サザエさんは今では放送できないシーンが盛りだくさん。
右側の斜面は波平ばりに禿げあがった山肌。
ポキ男の他に十萬石まんじゅうと、どでかいおにぎりを2個も食べたからさすがに体が重い。
コンビニのおにぎりって普通サイズだと物足りなくて、最近は爆弾系しか買わない。
普通サイズの値上げがえげつないから、大きいサイズを買ったほうが割が良い様に思えてしまうってのがほんとの理由だけど。
見た感じ鎖場とかありそうなんだけど、沢入山までなら危険なところは特にないのがこの山の良いところ。
稜線歩きが長いから強風にだけ気をつければ大丈夫。
そして波平ピークに到着。
波平さんの銅像は何度も植毛しては折られるというのを繰り返してるけど、もう諦めて絵にすればいいんだな。
風が強いんでね、10秒ほど立ち止まったら波平ピークを後にして沢入山へ移動。
右手に日光白根山。
関東最高峰だけど浅間山に抜かれるのも時間の問題というもっぱらの噂。
登れない山が関東一位になったらちょっとやだな。
久しぶりの霜だからって踏み荒らしたの誰!
浮かれすぎ!被害届けだすよ!
少し残しとけっ!
波平ピークから沢入山は割りと近い。
本日のゴール、標高1,704mの沢入山到着。
これでソウリヤマと読む。
波平ピークから歩いてきた稜線。
ここまではほんと爽快なスカイトレイルだった。
沢入山から先も生唾ものの稜線が続いている。
うーん、もう少し先まで行ってみようかな。
足はまだ元気だ。
行ってみよう。
ここから修行
遠くに見えるシラビソに覆われたピークがオロ山。
あそこまて行く意味が無いことはなんとなく分かっちゃいたんだけど、とりあえずその手前の小ピークまでなら気持ちよさそうだし、そこまで行ったら引き返すことに。
この判断が間違いだった…。。
ちょっと盛るけど、北アルプス水晶岳〜赤牛岳のトレイルみたいな稜線が続く。
こりゃ中倉山が人気になるのもよく分かるなーと、そんなことを考えていた。
被害を受けなかった斜面は日光の山らしく笹原が広がる。
ガツンと下って登り返す。
沢入山でやめとけば良かったと考え始めてたけど、とりあえず、とりあえずと、この登り返しまでは行ってみることにした。
今日はハイキング気分で頑張るつもりなんぞ甚だなかったのに、その後もズルズルと進んでいく。
なんで登り返してるんだろう、ったくダッフンダだぜ。
根っからのボンビー性で山ヤロウでもある自分は、ここまで来たらオロ山まで行かないなんてもったいない、そう思ってしまった。
何度も言う、120%登る必要のない山だった。
恨むならボンビーを恨め。
藪こぎなんざこれまでの長い登山人生で何度も経験してきて、1ミリも楽しくないことは分かってたはずなのに、
「ボンビーなめんじゃねー!!」
と意味不明な虚勢を言い放ちながら突き進む。
まだまだ続く藪こぎ。
「ヤブなんぞ敵ではないわー!」とラオウばりに言い放ちつつ、足元にあった大木に気付かずにスネを強打し悶絶。
弱すぎる。
流血してるのが分かったけど、見てしまったら卒倒してしまうから後でそーっと見ることにした気の小ささも披露。
ひ、ひーー!!!
ここから先はまさしく修羅の国。
法律の外の世界に連れてってやるぜと言わんばかりだ。
とんでもない急斜面を木の根につかまりながらよじのぼってきたから写真を撮る余裕なんてなかったんだけど、やっと登りきったと思いきやピークはまだ先。
一瞬萎えそうになったが、山ヤロウのプライドが己を奮い立たせる。
そしてルートを何度も見失う。
「ガッハハハー、単調な上りだから地図を見ながら方角を間違えなければ大丈夫じゃい!」と木の枝をかき分けて進む。
もはやサバイバル化してきて、ハイキング気分なんて欠片も残っちゃいない。
登りきったと思えば、お次はシャクナゲの藪を平行移動。
いちいち小枝がひっかかって鬱陶しいけどゴーゴーだ!
一体なんのために登ってるのかなんていちいち考えちゃいけない。
行けば分かるさ。
オロ山山頂
着きました。
レインウエア来てるのは藪こぎによるマダニ対策(笑)
山頂で高らかに宣言する、もう二度と来ない!
つか、オロって何だよ!
景色も平凡だし!
稜線歩いてるときのほうが景色よかった!シラビソが邪魔してるし!
皇海山だ。
ザ・修験の山と聞いてずっと登ることを後回しにしている山。
紅葉がきれいという話も聞かないし、景色もいまいちだろうし、百名山のピークハントだけを目的にした登山ってモチベ上がらんのよね。
そしてあれだけ苦労したオロ山には1ミリの後腐れもなく、とっとと下山を開始している。
途中にあった急坂を泣きながら下り、熊笹をかき分け、無駄に登り返したりしながら、なんとか沢入山まで帰ってきたのだ。
なんか、、すっごい疲れた。
ゲッザーーン
中倉山は標高1,530m。
オロ山は1,821mだから帰りは下り基調だから沢入山から先は楽勝。
ボンビーじゃなかったら、きっと楽しいまま終わってたに違いないんだ。
夕方になって少しずつ風がおさまってきたもんね。
だまし絵みたいだけど、これは稜線から足元の谷を撮った1枚。
稜線の影が山のシルエットみたいに映って、あたかも山を見上げてる風にしか見えないでしょ?
帰りはことごとく巻き道で。
往復17km弱のルートだけど、今のところ足はまだ元気。というか緊張したから疲れが分からなくなってるだけかも。
昼までは風が強かったけど、一日中晴れてくれて良かったよ。
奥多摩で最後の紅葉を楽しむか悩んだけど、11月中旬は紅葉もハズレることがあるからね、今日は結果的に中倉山を選んで正解だったのかも。
いろいろあったけど無事下山できたし。
ここから銅親水公園までの長い長い林道歩きだけど、頭の中は今日は帰りに何を食べようかってことでいっぱい。
苔がびっしり付いた壁沿いの林道は新進気鋭の芸術家達の遊び場と化している。
どらえもん。
作者:藤子・F・不二雄
キン肉スグル
作者:バンクシー
そんなこんなで旧足尾銅山精錬所大煙突が見えてきた。駐車場はもうすぐそこだ。
あの工場が1989年まで操業していたと聞いて、割りと最近まで稼働してたことに驚いた。
四方吉のカレーうどん
んまっ!!
最後は高崎で人気店の四方吉のカレーうどんへ。
とろ〜りマイルドなカレーに、手打ちのうどんが最高にうまい!
地図で見たら近いと思えたんだけど、意外と店までが遠くて、たどり着くまでに腹が減りすぎて気を失いかけた。
振り返って
さてさて、登山はともかく高崎にある四方吉のカレーうどんは何度も食べる機会を逃してきたから、なんとしても食べたかった一品だった。
途中、空腹過ぎてオロ山より遠く感じたけど、最後まで諦めずに耐えてほんと良かったと思える美味さ。
クリーミィでマイルドなカレーにコシのある自家製麺がたまらん一品です。ぜひぜひ味わってみてほしい。
ちなみに埼玉の行田で食べた大地っていうお店のカレーうどんも美味かったな。今では行列ができる店になったと聞いたけど、それも納得。
山登りばかりしてても物足りない時はあるもんで、温泉はさておき、何を食べたいかで登る山を選ぶというのも大事なポイントな訳です、ええ。
本当なら四方吉へは榛名山とか妙義山の帰りに寄るのが効率的だったんだろうけど、無理して寄ってほんと良かった。
オロ山へは無理して寄る必要はないけど。
そして登山の翌日、筋肉痛もなく快適に駅の階段を降りてたら、突如ふくらはぎが「ブチッ」とね。
体の中で嫌な音が聞こえて、あっやべ!と思った途端、ほとばしる激痛。
突然階段でへたり込むおっさんに対して周囲の視線が恥ずかしすぎる。
人生2度目の肉離れ。しかも同じところ。
今回は軽症で済んだんだけど、しばらくは歩くことすら困難で、いよいよ登山以外でもトレッキングポールが必要なぐらい老いたなと悲嘆に暮れております(笑)
実は何年かぶりにフルマラソンにもエントリーしちゃったから、そろそろ走れる体にしなきゃなと思ってた矢先の出来事。
やっぱ俺もってるわと痛感したでゴザル。
ではでは