残雪期に脚光を浴びる山がある。
それが、新潟の日向倉山(ひなたくらやま)。
11月〜4月の期間限定でしか食べられない牡蠣みたいな山。
いや、牡蠣より短いんだからもっと貴重だ。
4月の奥只見シルバーラインが開通するのを待ってから、雪が解けるまで5月初旬まで、わずか1ヶ月限定でしか登れない山なのだ。
無雪期は廃道で、藪がひどいため登れないのだ。
この山のことをぜんぜん知らなかったから、最初はノートレースも覚悟してたんだけど、いざ蓋を開けてみれば車を停める場所がないほど大盛況。
遠くにそびえる未丈ヶ岳が実に立派。
こんな立派に見える山でさえ、日向倉山からのルートだと残雪期限定の藪こぎルート。
今回のタイミングでは、未丈ヶ岳へのコースは山頂直下の雪が切れて藪こぎ必至と聞いてたので、登る気は完全に消滅。
ほぼ100%のハイカーが日向倉山までの登山を楽しんでたし、右に同じっス!!
期間限定という甘い汁を吸いに来たハイカー、バックカントリーと共に激甘汁を吸ってきた。
日向倉山は標高1,431m。
融雪がかなり進んだとは言え、雪国の春はまだまだ先。
ルートとコースタイム
■2022年4月24日 ※カッコ内は標準コースタイム
銀山平⇒(130分)⇒日向倉山⇒(70分)⇒赤崩山⇒(40分)⇒銀山平
コースタイム:4時間50分(休憩含まず)
総距離 8.3キロ
累積標高上り 900m
日向倉山登山 本編
奥只見シルバーラインで銀山平へ
奥只見シルバーラインを知らない人は、始めて走ればこんな道路が今の日本に現存することにビビること間違いなし。
手掘りの様なトンネルが地下水でびちょびちょになった中を10キロ以上続く。
トンネルの中には信号まであったり、通過するだけで一大イベントだ。
ハイカーなんておらず、取り付きがどこかを探すのにも苦労するかもなーなんて危惧していたけど、車を停める場所が見つからないほどの混雑っぷり。牡蠣小屋より混んでる。
結局、取り付きポイントから300mぐらい離れたところに縦列駐車できた。
奥只見シルバーラインは18時から翌朝6時までは通行止め。
この時間規制はゴールデンウィーク頃まで続くらしい。
只見川にかかる橋を渡り、取り付きポイントへ。
こんなに車があるなら今日は踏み跡だらけだろうし、コース取りに迷う必要はない。楽な登山になること確定。
只見川では漁が解禁されたため、釣り人の姿もちらほら見かける。
車が多いわけだ。
以前、渓流釣りする友人から聞いた話によると、まず竿を出す前に、人の踏み跡がないことを確認するとのことだ。人が荒らした後では警戒心の強い岩魚は釣れないからだ。
ちなみに藪こぎしてて、目の前で熊と遭遇してアイゼンで蹴って逃げたことがあるとも聞いた事があったけど、それがほんとかどうかは分からない。
登山レッツスターティン
取り付き場所は、どなたかがスコップによってステップを作ってくれているというビッグサプライズ!
ったく、イタレリツクセリだぜ。
踏み跡だらけで、もはや考えることをやめた。何も心配することはない。
今日はこの踏み跡についていくだけ。
とりあえず、さっさといつも通りわかんを装着しとく。
いきなり急登
こいつぁー楽な登山になるなと浮かれた途端、かなりの急登のお待ちかね。
ふんぬー!!わかんじゃ厳しいんじゃい!と早々にギブアップ宣言を発動しながらも進んでいく。
ズルズル滑りながら、雪と格闘するうちに一気に汗が吹き出し、体臭レベルも急上昇。
いかん、これ以上臭くなるわけにはいかんのじゃー!
と、早々にレインウェア脱ぎ脱ぎタイム。
メッシュのベースレイヤー1枚に早着替えを済ませた。
尾根道に出ちゃえばしばらく楽できるはずだと思っていたところに、目の前にはまだまだ続く急登のおかわり。
やっと電車に座れたと思いきや、「前より3両は武蔵五日市行きです~」とアナウンスがあって、先頭車両から慌てて後方へとダッシュをするハメになるのと同じぐらい油断できないのだ。
喘ぎながら一気に標高を上げると、さっき渡った橋がもう、あんなに遠い。
ふぅー。絶景まであと一息。
踏み抜きを懸念するか、わかんより滑らないアイゼンをチョイスするか、迷うところだ。
わかんの大きな二本の歯でもなんとか登ることができたけど、多くの人がアイゼンを選択してたよ。
もうここまで来たらずっとわかんでOKだけど。
振り返れば荒沢岳。
山頂はかろうじて見えるけど、稜線には微妙に雲がかかっちゃってる。
あの雲がこっちに流れてこないことを祈る。
左はすでに藪が出てる。
雪の下にはこんな藪が埋まってると思うと、雪が融けてから山頂を目指すなんて、とても無理だってことが分かる。
標高をかなり上げてきた。
この尾根を上り詰めれば広い稜線にでる。そうすればきっと楽になる、そう思っていた。
Bluetoothイヤホンがスマホと接続されていると思い込んで、電車で爆音の沢田研二「勝手にしやがれ」を流してしまった時の小っ恥ずかしさったらない。
今こっちを気にしてる女性に、きっと「ジュリー」というあだ名を付けられたに違いない。
Bluetoothの恐ろしさを体験した一幕。
とにかく、鼻っから接続されていると思い込んではいけないことを身を持って学んだ。
この先きっと楽になる。そんな望み抱いちゃいけなかったのだ。
稜線は裏越後三山デビュー
さあ、這い上がってきた。
この奥に見えるのが日向倉山だ。
こりゃ陽気になってしまう絶景じゃないか。
まだまだ遠いけど、ここからならそれほど標高差もさほど無さそうだし、望み通り楽できそうだ。
なんと言っても、ここからは裏越後三山の風景をずーっと眺めながら歩けちゃうのだ。
右が越後駒ヶ岳、左が中ノ岳。
疲れなんてぶっ飛ぶ名峰たちの絶景なのだ。
そして、荒沢岳。
荒沢岳はちょうど真向かいに位置しているため、この先もずーっと付き添っていただくことになる。
同じ山を違う角度から見ていく楽しむってたまにあるけど、荒沢岳だけはずーっと同じ角度から見続けることになる(笑)
楽になる?
そんな陽気な望み、抱いちゃいけなかったんだ。
雄大な稜線と聞いていたが、まさかここでガツンと下らせてからの登り返しが待ち受けていた。
あちき、何か悪いことでもしました?
たまに左側の景色が開ける。
こっちは守門岳方面のはずなんだけど、どれが守門岳かは分からない。手前の山塊は毛猛山塊でその後ろに隠れちゃってるんだと思う。
守門岳の周回ルートはなかなか長かったけど、すっごく良かった。
疲れた。盛ってる訳ではなく、なんか最初の急登から疲れた。
暑いし重いし動きにくいし、冬靴じゃなくてもぜんぜん大丈夫だったな。
最近は富岡アルプスや坂戸山とか、楽な登山ばかりだったからそのツケが回ってきたのかもしれない。
奥只見湖、ぜんぜん貯水できてないけど大丈夫なのだろうか?これだけ雪解けが進んであの貯水量はやばくない?
間違えて放水しすぎちゃったのかもね。
ツリーホールも残雪期にもなると雪が硬くなってズボッといかなそう。落ちたって這い上がるのも難しくなさそうだし。
つか、誰かおしっこしてそうだから、落ちるのだけは勘弁。
とにかくこの山の稜線は広くて、ゲレンデの様な斜面を歩いていく。
ちなみに、中国人が日本に来て一番ビックリするのが、周りへの気遣いらしい。
当たり前だ。
気遣いのできない国になんて住みたくない。
だけど、こんな広い斜面で、どこを歩いても踏み抜きの心配もないのに、ほぼ同じところに踏み跡が集中するあたり、日本人の同調しやすい特長が少なからずあるのかもしれない。
日本人が奇異に映るのも、一方で理解はできる。
ここから最後の登りに備え、BCがスキーを外して準備をしてるのかと思えばそうではない。
ここから稜線は藪が出てるらしく、左に巻いていくルート取りとなるため、やってらんねぇ〜とうんざりしちゃってるのだ。
やっとこれが最後だー!と一瞬浮かれ上がった考えは消滅。
ここで!先日坂戸山で会った方と遭遇。
いかにも知った顔で「どもどもー!」と近づいたのに、相手はぜんぜん分かってもらえなかった。
そこでなぜか始まる自己アピール。
「ほら、しゃがんでカタクリ撮影してるときに立山の話をしたじゃないですか(思い出しました?)」
「その時は黒い長T着てたんですけど、覚えてません?(思い出せコノヤロー!)」
自分のことを思い出してもらうのに、もう必死。
軽い挨拶で済ませたかったのに、なんで俺はこんな頑張ってるんだ。相手も軽く困惑してるじゃないか。
悲しくなるぜ。
「あ〜…」
と言ってたから、長い余韻が流れ、
「ああ、ああ、思い出しました。」
これは…、もしかして中国人が言う日本人の気遣いか?
もはや本当か演技か分からないが、最後は思い出してくれたと信じよう。
きっと思い出すまでに時間がかかり過ぎてしまい、今さら盛り上がれないだけだろう。
これは演技ではない。
そう信じよう。
思い出してくれて、ありがとう。
もう山で話しかけるのはやめると誓った。
左からの巻き道は、たまに藪がザックに引っ掛かるけど、そんな手を焼く様なルートではなかった。スキーを背負ってたら苦労するだろうけど。
左に滑り落ちたとしても、藪に掴まれるし、また登ってくるのが大変なだけで、大事故にはならなそう。
無事トラバースが終わり、稜線に再び戻ってきた。
ところどころ、ちょっとしたクラックがあって藪が顔をのぞかせている。
もう少し融雪が進めば藪が元気よくでてくる気配。
最後の登り
そして、本当に最後の登り。
雪山って絶景なんだけど、これと言って見どころが多いわけじゃないから、ブログを書く身としては話が膨らまないんだよなー、と言いつつどうでもいいことばかり書いて、結局今回も一万文字以上になっちゃいそう。
前を歩くおじいちゃんが背負ってたわかんがレトロでいかす。
疲れてぜんぜん追いつけなかった…。
山頂と魚介
着いた!山頂広い!奥には会津の山々!!
さーて、絶景を堪能しますぜ。
左の山が丸山岳。
残念ながら、霞みがでてしまい見通しはあまり良くないけど、それでも絶景。
荒沢岳の次に存在感があったのが、この未丈ヶ岳。
日向倉山だけでは物足りず、未丈ヶ岳にも足を伸ばしちゃうわんぱくハイカーも結構いるらしい。
今シーズンはここからでも山頂直下の雪が切れちゃってるのが見えるから、縦走するハイカーはいなかったけどね。
遠くに燧ヶ岳。
霞が恨めしいけど、尾瀬のテント泊はゆるくて、ほんとのんびりてきるから、また観光気分で行きたい。
山頂はどんどんハイカーが上がってきて賑やかになってきた。それでも車の数に比べたらハイカーは少なめ。
渓流釣り客も多くいたと思われる。
ちなみに、山頂ではYAMAPで飯豊のレジェンドと呼ばれるお方がいた。
でも、もう、いいんだ。
山で人に話しかけるのはやめようと誓ったばかり。
もう悲しみたくないのだ。ここは静かにしておこう。
最近、頻度高めで食べてるのがこれ、サーモン寿し。山で喰らう最強飯だと思う。
立山に焼きサバ寿しを持って行ったら、ザックの中も手もサバの油だらけになり、ずっとサバ臭さを漂わせるハメになった一泊二日。
帰りのバスの車内にも漂うサバの異臭。
おかげで焼きサバ寿しは登山には向かないことを悟った。
サーモン寿しなら安心なのだ。
ちなみに武甲山に持っていったバッテラもなかなか良かった。
山で食べる魚介ほど美味いものはない。
話を戻して、左から越後駒ヶ岳、中ノ岳、荒沢岳の裏越後三山。
越後三山の八海山は恐らく越後駒ヶ岳の影に隠れちゃって見えないんだと思う。
中ノ岳にはまだ登ったことないけど、それほど興味が掻き立てられる訳ではないから、登るのはまだまだ先になりそう。
赤崩山へ
満腹になったし、銀山温泉が楽しみだから、裏越後三山を眺めながらゲッザーンする。
ドラマティックな景色をちりばめ、クライマックスに向けて突き進む。
荒沢岳のガスも取れた。
右のポコンとしたとんがりが荒沢岳のピーク。
荒沢岳は鎖場の連続で、八海山と同じぐらい難易度高めの山。
秋の終わりになると恒例の「鎖外し」があるから、事前に調べてから企画すべし。
ちなみに自分が登った時は、スズメバチに襲われるハイカーが続出してまさに地獄となった。
恐怖に震えた記憶しかなくて、もう二度と行くことはないと思う…。
頭を刺されてた人もいて、本気で同情して、こっちまで凹んだ。
くたくたになった木。
今年の冬もなんとか乗り切ったんだな。
下りはずーーっとこの絶景。
ピストンじゃなくて、逆側から登ってこの尾根で下山できればいろんな景色を楽しめるんだけどね。
麓のキャンプ場だろうか。
近いような、遠いような。
日向倉山へと延びる尾根はどこも藪がいっぱい。
期間限定という甘い汁を吸ってすっかり太ってしまった。
毛猛山塊方面に日が差した。
今日はずっと晴れてるんだけど、霞が濃くて高曇りみたいな天気だからスッキリしなかったんだよね。ここにきてだいぶ良化してきた。
そのまま下山するのではなく、少し先の赤崩山にも立ち寄ってみよう。
山頂手前で雪が切れてたから面倒だけど藪を越えていく。
ほいっ。簡単だけど、ここが赤崩山の山頂。
ずーっと見てきた越後駒ヶ岳。
変わり映えしない?いーやそんなことはない。
若干近付いた感アリ!
若干でゴザルけどね。。
毛猛山も若干、角度が違う。
若干でゴワスけどね…。
下山後に立ち寄る予定の銀山平温泉を確認。
今すぐそちらに行くでゴワス!
銀山平へゲッザーン
前を滑るスノーボーダーに追いついてやる!
猛烈な速さで下っていく。
下りだけは元気なんじゃい!と言い放った途端、太ももの裏がつった。
アカン!!!これは無理できんったい!!
一度つると、油断すると何やってもつってしまうという、倍々で症状が悪化していくスタイル。
スノーボーダーからはみるみる引き離された。
ふぅ、よくこんな狭い尾根をスノーボードで滑るよなぁ〜と、負け惜しみの独り言を呟くと、すぐ後ろには先程まではるか後ろにいたご年配のご夫婦がいるではないか。
もはや、ここまで。
猛烈なダッシュから一転、誰よりも遅く、誰よりもぎこちなく下っていく時間の到来だ。
写真を撮るフリをしつつ、一息つく。その繰り返し。
日向倉山も見納めだな、さらばだ!
登りで苦労させられた急な尾根だったけどさー、下りはなんとお早いこと、おっほっほ〜。
と、なるはずだった。
話が違うじゃないか。今、最大限にゆっくり、太ももちゃんを刺激しないように下っていく。
最後の最後に試練だ。
涙目になりながらやっとこさ下山を終えた。
ここまで来ればもう安心だ。
渓流釣りを楽しむフィッシャーマンを見て、
あんたも釣ってるのかい?
俺も釣ったんだぜぃ~?
と勝手に仲間意識を抱いた。
電信柱の高さを見ると積雪は1.5mってとこかな。
銀山平温泉とご当地スーパーへ
銀山平温泉の営業開始日は例年より少し遅かったけど、ぎりぎりセーフ。
しかも初めての銀山温泉は貸し切り。
湯に浸かり、時間をかけて太ももをマッサージしたよ。
帰りはご当地スーパーのウオロクさんに寄っておく。
醤油おこわが越後名物だってことを初めて知った。
お惣菜コーナーでたまたま発見したから一つ購入。スーパー出た瞬間ぺろり完食。
下山後は、罪悪感なしでいくらでも食べられちゃうから太るんだよね。
さすが新潟のスーパー。へぎそばが各種取り揃えられてたから、2つ買って、この日のうちに全部食べた。
さらに食べ足りなくて冷凍唐揚げもチンした。追いカラってやつね。
怖い。自分の食欲が怖い。
振り返って
面白かった。
例によって残雪機限定ってのは特別感が満載だし。これまで登った越後駒ヶ岳と荒沢岳の景色がとにかく強烈で、それを眺めながら登れたのが新鮮だった。
登り始めの急登でいきなりバテたけど、標高差は900mも無いし、距離も8キロほどで全体の行程はなんてことない。本調子じゃなかったのかも。
下山後の銀山平温泉も登山口からすぐ近くにあって便利だったし、内湯も露天もすごくきれいで最高。銀山平までが遠いけどね。。
目の前にはずっと荒沢岳。
残雪期限定の山はたくさんあるけど、特に日向倉山は奥只見シルバーラインの開通を待たないといけないから、登れるチャンスは本当に1ヶ月ぐらいしかない。
4月下旬は花の山にするか、残雪の山にするか悩むところだけど、チャンスがあればぜひ未丈ヶ岳とのセットも企画してみてください。
ちなみに、雪のないところはフキノトウとつくしだらけだったヨ!
最近、フキノトウの苦味が苦手だと気付いた男より。
では!