10月中旬。
全国のヤマノボラーが栗駒山や涸沢カールの紅葉に浮かれている時に、物好きな自分は餓鬼が潜む山にやって来た。
そこはガスが垂れ込め…、もといガスどころか登り始めから約3時間も雨に打たれるという餓鬼の洗礼を受けてきた。
そこにいつもの浮かれ登山はどこにもない。
ずっといつ帰ろうかなと撤退のタイミングばかりを考えて歩いた。
まさに五里霧中。
天気に神経質な自分は事前にYAMAP、てんくら、米軍の雨雲レーダー、ニュースの天気予報もぜんぶチェックして、見事なまでの晴れを確信した。
なのに雨!
くそっ、餓鬼の仕業か!
きょわい。あちき、餓鬼がきょわい!
餓鬼岳。その不気味な山名から気になるという人も多いと思う。
しかも日本二百名山でもあるわけだから、そりゃ間違いなく良い山なんだろうなとずーっと気になっていた。
サタプラの「なんでも試してランキング」で1位に輝いたブルボンの「プレッツェルショコラ」と同じぐらい気になっていた。
行く先々のスーパーで探してるのに、どうしてどこにも置いてないんだ!くそっ!
まあそれはいいとして、2百名山のくせしてハイカーは異様に少ない。
その理由はコースはスリリングだし、距離長いし、累積で2千メートル近く登るし。つまり鬼畜!
そんな評判が理由なわけだけど、その噂、寸分狂わず当たってまっせ、ジーマーで。
特に自分は沢沿いの濡れた鎖場やハシゴってほんと苦手だなと痛感した次第でして、今後ぜったいに下ノ廊下を歩くことはないと確信した(笑)
でもね、最上段の写真の通り、餓鬼岳からの眺望は素晴らしかったんよ。
裏銀座から槍ヶ岳までのパノラマビューを見渡して、諦めなくて良かったと心底そう思えた。
こういう雨の山でしか見られない景色も、無事に下山できた今となっては来て良かったと思えるわけです。
餓鬼岳は標高2.647m。
唐沢岳まで歩く人もいるけど、自分は白沢登山口から餓鬼岳までのピストンで満足万造です。
標準コースタイム
■2024年10月20日 ※カッコ内は標準コースタイム
白沢登山口⇒(80分)⇒魚止めの滝⇒(155分)⇒大凪山⇒(135分)⇒餓鬼岳⇒(105分)⇒大凪山⇒(110分)⇒魚止めの滝⇒(70分)⇒白沢登山口
コースタイム:10時間55分
距離:13.5㎞、累積登り:1.800m
秋の餓鬼岳紅葉登山
白沢登山口から雨のスタート
白沢登山口から幕開け。
ただいま5:45。スリリングなコースと聞いてたから少し明るくなってくるのを待ってからのスタート。
完璧な晴れ予報だったのに、雨がしとしと降ってるのがどういうこと?って感じ。
レインウェアを着てスタート。
明るくなってきたと言っても森の中はまだまだ暗い。
1キロほど林道を歩いてここがやっと登山口。
餓鬼岳までここから450分だよ、7.5時間ってバカなんじゃね?(笑)
燕岳の隣だからといって、燕岳の様な手軽さをイメージしてると痛い目合うこと間違いなし。
ハイペースなお兄さん達に抜かれ、ついついその後を追ってしまったことで橋を見落としてルートミス。まだ薄暗いってのもあったからね。
最初に橋を渡って佐俣に正規ルートがあると覚えておこう。
途中で間違いに気付いて正規ルートへ戻った。
あのお兄さんたちは最初から沢を上り詰めて最短距離で歩くつもりだったんだな。危ない危ない。
正規ルートと言ってもこんなところを何度も渡渉しながら進むから間違えてないよね?と何度もYAMAPを確認しながら行く。
とにかく雨で濡れた岩が渡渉の時に滑りそうでいやらしい。
コレ、この先何度も連発します。
この雨、本当に止むの?
てんくらA予報なんですけど…
10月後半なのに全国では猛暑が続いてるわけだけど、北アルプスではちゃんと紅葉は始まっている。
それでも例年より遅いぐらいだと思うけど。
餓鬼岳は厳しい道のりぞ
噂の下ノ廊的なのがでてきたよ。
ビビリだから超絶慎重に進む。
はいはい。
餓鬼岳と言えばこの案内ね。
個性的な山っていいね。
冷たく濡れた鎖をヒーヒー言いながらつかんで濡れた木製のハシゴを歩く。
ちなみにまだ薄暗くてここら辺の写真はほとんどブレちゃってて使い物にならなかった。
この長い長いアドベンチャールートのことをもっと書きたかったのに、残念。
水場というか、支流を何度も渡渉するから水には困らない。
餓鬼がね、意外と親切に何度も励ましてくれる。
まだまだ先は長いだって。
雨の日にしか撮れない絵があるからそれを楽しんでるけど、なんかそれも痩せ我慢に感じるぞ。
ふむ、帰りたい。
上半身はレインウェアでなんとかなるけど、靴はトレランシューズできたから中まで濡れてくるのは時間の問題。
ちなみに今日履いてきたアシックスのシューズ「ゲルトラブーコ12」は濡れた岩でも木道でもグリップが効いてかなり優秀。
リピート確定の一品だよ。
しっとりした紅葉は今日みたいな日にしか撮れない。
やっと魚止めの滝。
さすがのイワナちゃんもこりゃ越えられんばい。
山頂まではまだ5時間もあるという事実。
この雨に5時間以上打たれるのかと思うと気が遠くなる。
ひとまず、撤退するかどうかは大凪山まで行ってから考えよう。
雨だと分かってたらテムレスを持ってきたのに、普通の手袋を2つ持ってくるという無駄な準備に後悔しっぱなし。
濡れた手袋を外して再び着けた時の冷たさったらない(ToT)
あぁ…
魚止めの滝を過ぎてからも何度目かの渡渉を繰り返す。
まだまだ沢沿いのルートは終わらない。
ええ、痛感しております。
この橋は見るからに怪しい。
すると、よく見るとこんな注意書きが。
「老朽化のため通行できません。橋の下流を通行してください」
あっぶねー。
最終水場に到着。
雨だからね、喉乾かないし給水の必要なんてない。
やまない雨と餓鬼の餌食
カメラだと明るく見えるけど、シャッタースピードを長くしなければ、ほんとこれぐらい暗い。
明るく撮ろうとしないほうが自然体でむしろ綺麗だな。
ええええ、痛感しとりますがな。
モチベ上がらんもんね、どこまで歩こうかな。
でもここで撤退したとして、今後また餓鬼岳に登りに来ることってあるのかな?
だったら今日でかたをつける意味でも最後まで諦めずに登っちゃった方がいいのかもしれない。
葛藤が始まる。
こんな雨でも物好きな人はいるもんでアスリート系山ガールが肥満系オヤジ2名を引き連れて歩くという不思議な3人組に抜かれた。
なんだあの人たちも登るのか、なら自分ももう少し頑張ってみようかなと思えてくる。
大凪山に到着。
ここで撤退するかどうか判断する予定だったけど、、
ここまで来れば餓鬼岳登れんじゃね?
大凪山まで標高を上げればきっと雲の層を抜ける。そんな期待は見事に裏切られた。
もう少し時間が経てば高気圧が雲を吹き飛ばしてくれる。そんな期待も裏切られた。
だが行く!
登ったことのないピークだから、今日は「登れて良かったわー」という達成感だけを求める登山になってもいいじゃないか。
「鬼の小屋まではあと少しだ!よくきた!」
これを見た時はすーーっごく嬉しかったけど、ぬか喜びは良くない。
だってここからまだ長いのなんのって…、ほんと餓鬼に裏切られた気分。
自分の場合、ゴールは近いと思ってしまうと気が抜けて駄目人間になってしまうから、まだまだ先だと思ってなきゃダメなのよ。
雨が作り出す芸術。
餓鬼の恵み
まるで水墨画みたいな世界だなぁ。
和紙に穴が開きそう。
灰色の空がブルーへ変色した。
あれ、空ってこんな色だったっけ?もう何日も見てなかったから忘れちゃったよ、アハハハー(ToT)
ちょー嬉しい。
ほんのり青空へと変わっていく境界の森は霧で浄化されてるのもあいまって美しいったらない。
薄っすらピークも見える。
この感動をどう伝えていいものか。
こういう筆舌に尽くしがたい感動に出会える機会って日常生活の中ではなかなか味わえないから、登山とカメラという趣味を続けてきてほんと良かったと思える。
絶賛、紅葉中。
日が当たって体感温度が上がり、すかさずレインウェアをザックへ収納。
雨の森、晴れた紅葉、そして初登頂の山。
なんだかんだで最高の登山になったかも。
霧に光芒が差し込む。
標高を上げて大気も澄んでいる。
気持ちはアゲアゲだ。
おお〜。
ぜんぶクリアになっていく。
登山をやってて1番テンションが上がるタイミングって晴れへと変わるタイミングかもしれない。
日本の秋の美しさに感謝しなきゃな。
夢中になって写真を撮っているこの下はこんなに切れ落ちてたりする。
怖いじゃないの。
雨の中を歩いてきた割には意外と水分が減っててビビった。いつこんな飲んだ?
アミノバイタル500mlを別に持ってきてるから充分足りるだろうけど。
振り返って、あの中をリアル五里霧中してきたのね。
使い方合ってるかは分かりません。
あれは稜線か?
この急登を一気に直登したいところだけど、つづら折りで焦らされる。
歩きながらそろそろ箱根駅伝だなぁと思っていた。
そう、実はこの日箱根の予選会が行われたんだけど(知らなかった)、下山後、東海大の選手が脱水症状でゴールまで残り10mで意識を失いリタイアというニュースに胸が痛んだ。
他の選手が「この大学にいたら箱根に出られるものだと思ってたけど甘かったです」と言ってるのも見て可哀想になったけど、出雲駅伝優勝4回という名門でもこんなことあるんだなと、まあほんと驚いた。
最近は城西大や東京国際大とか、創価大もそうだけど新興勢力が台頭してきてまさに群雄割拠だからね、それはそれで楽しみではあるんだけど。
今シーズンは熊本城マラソンに当選したから自分も頑張る次第どえす。
餓鬼岳は山頂部分だけが森林限界を越えてるとヤマケイで読んだ。
まだブナの森だから山頂は意外と遠いのかもしれない。
標高を上げるにつれて徐々に紅葉は終盤になってきた。
登りながら季節の移ろいを楽しめるのもこの時期の登山の面白いところ。
それにしてもすごい雲海だな。
あの下は雨ザーザー。
クロマメノキの紅葉。目線が下でも楽しめる。
これを登れば小屋だ。
餓鬼岳に登ったら餓鬼岳小屋で手拭いを買うんだ!と決めていた。
ぜったい買う。
そう思ってたけど営業終了してる(笑)
閉店ガラガラの餓鬼岳小屋
さあ、まさかこんな展開になるとは思ってなかったけど、雲一つない空に餓鬼岳小屋が見えてきた。
餓鬼岳小屋はちょうど標高2.600mなのね。
餓鬼の「よくきた、もう少しだ」からだいぶ遠かったわ。
鳥がガサガサしててジョウビタキかなと思ったけどそれにしては少し体長が大きい。
どうやらアトリという冬鳥っぽい。登山を続けてて少しずつ鳥も覚えてきたよ。
小屋から山頂までは5分とかからない距離。
そして稜線に出たから反対側の景色が開ける。
すごいぞ、裏銀座丸見え。
標柱も目視で確認できる距離になった。
餓鬼浄土は裏銀座の大パノラマ
やっと目的地に到着。
祠には餓鬼岳の地図が置かれてたんだけど、ここは餓鬼浄土という場所らしい(笑)
この地図オモロ。
記念撮影より腹ごしらえが先だ。
稜線の先にひときわ目立つ槍ヶ岳。
それに対して控えめな燕岳が…どこかにあるはずなんだけどいつも探せない。
縦アングルにしても燕岳はわからない。
遠くの槍ヶ岳〜奥穂〜前穂はよく分かるのに。
槍ヶ岳をズーム。小槍もしっかり確認できる。
むむっ、もしや手前左のピークが燕岳ぽいな。
そして裏銀座の稜線。
野口五郎、鷲羽、双六岳、笠ヶ岳。うんうん分かる分かる。
こっちは立山方面。
龍王岳と立山、劔岳、針ノ木岳に蓮華岳。右奥に鹿島槍ヶ岳。
さすがに背が高い北アルプスはぜんぶ雲海の上。
頭だけかろうじて見えるピークがあるけど、方角からしてたぶん妙高、火打山だと思われる。
そして雲海の孤島みたいな浅間山。
どうでもいいけど、実のところ登り始めから便意が何度も襲ってきて苦しみ抜いた登山だった。
もしかして少し漏らしちゃってないか?いや、かろうじて貞操は守っている。きっと大丈夫だ。
己をどこまで信じられるかを試される登山でもあった。
再び立山をアップ。
針ノ木岳の尖り方は目印になる。
こちらは唐沢岳。近そうに見えて遠い。
ええ、もちろん行きません。
たぶん一生踏むことのないピークだけど後悔は微塵もない。
最後にもう一度裏銀座。
雨の下山は時間がかかるからもうそろそろ行かねば。
名残惜しい。
左は八ヶ岳。右は南アルプス。
TJAR選手はこの遠くの南アルプスを眺めても、あと少しだと思っちゃうのかもしれない。
自分には車でも面倒な距離に感じる。
ゲッザーン開始
30分という短い時間だったけど体も冷えてきたし下山するよ。
下山は登り以上にゆっくり行こう。
谷にバルサンが溜まる。
ゴキブリはイチコロ。
ちなみにここが餓鬼岳のテン場。
狭いから詰めても4張ぐらいが限界じゃないかな。
さあ、バルサンの中へガスケープ。
バルサンの中に入ると再び雨という塩対応。
でも登りのときほど強くなかったからレインウェア着て、すぐ脱いだ。
着てるほうが汗で中がびちょびちょになる。
見事なツートンカラーの葉っぱを発見。
こんな風に顔面が日焼けしたらさすがの自分も外に出れないかも。
こんなに長かったっけ?と思いながらやっと大凪山に到着。
ここまで濡れたトレイルですでに2回滑って激しくケツを打ち付けてもう泣きそう。
大凪山からの下りも息をつかせぬ激滑りルートで、案の定ここでも滑って悲鳴をあげる。
もう雨の日の登山はこりごりだよ。
後ろを歩いてる人が激しく転ぶ音が聞こえ、その仲間から
「あ、ラク?(最初は控えめな声で)」
「あ!ラーック!!ラーック!!(マックス)」
ドカッ、ゴロンゴロン、バキッ!
20cmぐらいの岩が2、3個ゴロンゴロン転がってきて怖かったじょ(ToT)
違う方向に転がって行ったから無事だったけど、岩場じゃなくても急登で滑りやすければ落石もあるんだな。
「大丈夫でーす!!(超絶大きな声で)」
と上に向かって答えたよ。
なんにしても天気が悪いと事故る可能性も上がる。
ドラクエでいうところの「いのちだいじに」モードを発動させながら、
魚止めの滝ってまだだっけ?こんな遠かったっけ?
こんなにゆっくりだと暗くなっちゃうかもなと思い始める。
きのこの森。
まあ悠長に写真は撮り続けてるんだけど。
沢沿いの岩場では滑らないように小股で超ビビリながら歩く。
ちなみにずっとトレッキングポールは使いながら歩いてるよ。
鎖につかまりながら慎重に。
ハシゴではポールを一旦下に落としてから進む。
ひ、ひー!!
雨の日の餓鬼岳はほどほどに!
もうここには来ないこと確定。
落石あり、計4回も滑って転んだし、岩場は濡れてて超絶怖かったし、よく無事に帰ってこれたよ。。
登山口まで帰ってきた。
親切にアルプス第一タクシーの張り紙があるんだなと思ったら、電話番号の記載はないのね。
駐車場までは車でも走れそうなトレイル。
ああ、この安堵感。言葉にならない。
餓鬼の棲む山、恐るべしだった。
ケツの痛みを引きずりながら、登りより下りのほうがはるかに難易度が高い、そんな当たり前の事を痛感したよ…。
振り返って
よし!!(ガッツ!)
よしよし!!(ガッツ!)
なんども拳を突き上げるおっさん。
下山後、恐る恐るトイレへ行き、人としての尊厳を保てているかをチェック。これは己との戦いに勝利したことへの歓喜のガッツポーズなのだ。
嵐の中、何度も押し寄せる荒波に打ち勝ち、そして今嘘みたいに静かになった大海原で水平線に沈む夕日を眺めている。
そんな気分だ。
ふっ、いい歳して漏らすわけにはいかんのだよ!(再びガッツ!)
これ全部トイレの中での出来事。
お腹が緩いっていうのはね、登山をする者にとって致命的なんだよ、ほんと。
さて、餓鬼岳はとにかく雨の日に登るのことを薦めない(笑)
晴れてたらね、それなりに楽しめると思う。
でももし今後燕岳と縦走することがあれば、餓鬼岳の下りは懲り懲りだから下山は燕岳にしよう。
それと今回餓鬼岳小屋の手拭いをゲットできなかったのは残念だったな。
さて、朝ドラ「おむすび」では我がホームタウンの隣、福岡の糸島が舞台となっててテンションアゲアゲ。
斉藤優やゴリけんさんといった福岡タレントがちゃっかり出演してる姿にほっこりするし、なんと言っても「雷山」とか「伊都国」とか激アツワード連発で鼻血噴出。
評判を見てみると、脚本がいまいち。
ええ、自分だってそう思うよ。
でもきっとここから面白くなると信じて見続けている。
来週こそ、来週こそ楽しくなる。
餓鬼岳だって最後は晴れたのだ。
おむすび見るべし!
ではでは