この山にはこんな格言がある。
「花の撮影と、トイレは、一歩前へ」
ふっ。それが達川の「捕球とトイレは一歩前へ」のパクりだと気付いたあなた、かなり変人です(誉めている)。
栃木県の高原山に登ってきたYo!
ついつい「こうげんやま」と読んでしまうんだけど、正しくは「たかはらやま」。
そんな高原山はツツジの名山として有名で、特に今年は、YAMAPで「50年に一度の当たり年!」とかいうレコが飛び交い、新聞でも当たり年だと取り沙汰されたり、とにかく大騒ぎになっている。
こりは、浮かれないわけにはいかない。
ちなみに、高原山に限った話ではなく、赤城山では平日でも車が止められないという異常事態になっているらしい。
しかし、プロの浮かれハイカーである自分は、ただ浮かれる訳にはいかない。
このシロヤシオという花、日が陰るととたんに色彩を失い、撮影を格段に難しくさせるカメラ野郎泣かせの花。
しかもツツジが見上げる高さに咲くため、背景の曇り空と同一化しちゃって見分けがつかなくなるんだよね。
シロヤシオを見る度に、曇った日の鈴木園子の撮影って難しかっただろうなと想像する。
そんな訳で、カメラの設定は事前に念入りにしておいた。
カスタム設定でダイナミックレンジとシャープネスを高めにして、フィルムシミュレーションはVelvia。
ふわふわ風に撮りたければ、この設定から露出をえげつなく上げ、F値は最大限明るく、焦点はマニュアルで合わせちゃえばOK。
完璧だ。
これで安心して浮かれることができる。
あとは晴れてくれるのを待つだけだ。
ピィィィィイイイーかんかんだぜぇー!
こうしたカメラの準備も、自分にとっては浮かれる前の大事な所作の一つ。イチローがバッターボックスでバットを立て、ピッチャーとの距離を測るように目を細めるルーティン動作と同じと言っておこう。
カメラの設定を済ませたら、あとはファインダーを覗いて、小型軽量の富士のX-T1でライトに浮かれる。これが自分の浮かれスタイル。
大きなカメラを首から下げているハイカーからは「遊びかよ!」と揶揄されちゃいそうだけど、あたしゃ日常の延長で山カメラを楽しむのだ。
それで出来上がりが秀逸ならそれが理想だよね。
この設定、明る過ぎね?
高原山は日本三百名山で標高1,795mの山。
ルートとコースタイム
■2023年6月4日 ※カッコ内は標準コースタイム
大間々台駐車場⇒(60分)⇒尾根と合流⇒(100分)⇒釈迦ヶ岳⇒(75分)⇒剣ヶ峰⇒(50分)⇒大入道⇒(60分)⇒小間々台駐車場⇒(35分)⇒大間々台駐車場
コースタイム:6時間20分(休憩含まず)
総距離 12キロ
累積標高上り 1,030m
高原山シロヤシオ登山 本編
大間々台から登山開始
「シロヤシオの大当たり年」、「ものすごく賑わってた」、そんな話ばかり聞いてたいたのに、やって来たのは完全に舐め腐った朝の9時半。
シロヤシオの時期は「山の駅たかはら」から大間々台までシャトルバスが出てるから、駐車場は鼻っから諦めてシャトルバスを使うつもりだったんだよねー。
でも来てみれば、係員の方が縦列駐車のスペースが空いてるからどーぞーと誘導してくれたんだよねー。
ラッキー。
5分ほど歩いて大間々台の駐車場に来てみれば早くも山頂が見える。
あれが高原山の最高峰「釈迦ヶ岳」かどうか本当のところは分からないけど、なんにしても歩き始める前からピークが見えるというのはテンションが上がる。
では参ろうぞ。
今日歩くコースは、大間々台→釈迦ヶ岳→大入道→大間々台。
途中から周回コースになるから、たっぷり歩いて余すことなくシロヤシオを満喫するプラン。
夏の足音もかすかに感じられる様になってきた。
いよいよ森林浴でもしに行こうかと、そんな気にさせてくれる6月初旬。
開花時期を逃した男の末路
前日の朝まで中部と関東を記録的な大雨が襲ったけど、嘘みたいに乾いてる。
えっ…。
早速現れたシロヤシオだけど。たったこれだけ?
まさか大雨で流されちゃて、すでに今シーズンは店じまいなのか。
すれ違った塾年山ガール3人組にこの先のシロヤシオの状況を聞くと、
「上は全然咲いてないよ!あそこに咲いてるのが一番きれいだもんね」
まさかの返答だった。
一番きれいよ!と言われたシロヤシオがコレ。↓
嘘だろ…。
多くのハイカーが、この一本を様々な角度から撮って
「今年は当たり年だぜ、オイ」
「すっげー咲いてて浮かれちまうぜー、オイ」
「YAMAPで報告だぜ!オイ」
と盛り上がっていたとでも言うのか。
なにが50年に一度の当たり年だ。
だいたい、だれだよ統計とったの(やさぐれている)。
結局、シロヤシオはこれしか見ることができないまま、尾根道との合流点に着いた。
まさかの展開に、涙が震えながら胸に転がる。
ここからの山頂の景色がどれだけきれいでも、今のテンションガタ落ちな気分をカバーすることはできない。
ここに佇むハイカー達も泣き顔を見られたくないのか、背中を向けて耐えているんだ。
分かるよ。分かる分かる。
みんな気持ちは同じだ。
YAMAPの誤情報に翻弄されちまった己のアホさ加減に呆れてるんだ。
せっかくだから山頂へ
しかし、せっかく来たのだから釈迦ヶ岳までえっちらおっちらハイキングして帰ろう。
下山したら美味いもんをたくさん喰らうしかない。
虚脱感はグルメでカバーだ。
鼻血ぃー!!鼻血ぃー!!
浮かれテンション底辺から一気にマックスへ急浮上。
一体何が起きたんだ。
あのおばちゃん達、一体どこを見たんだ。
すかさず明るめの設定で撮りまくる。
めっちゃ咲いてる!めっちゃ咲いてるぅー!!
相変わらず数撃ちゃ当たる作戦に逆戻りしてパシャパシャ撮りまくる。
何が事前にカメラの設定をしておくのも登山の楽しみの一つだ。聞いて呆れる。
とにかくガセだったのだ。。
あのおばちゃん達、もとい塾年山ガール達は山頂まで歩かずに、尾根まで軽く歩いて引き返したのかもしれないね。
聞く相手を間違えた自分が悪い。
むしろガッカリさせられた分、喜びが倍増したぜと前向きに捉えよう。
これだけ晴れたら下手な設定は不要なのかもしれないね。
ところどころピークを過ぎたところは緑が目立つけど、場所によって波があるのは仕方のないこと。
シロヤシオのとんねる〜。
ちょっと歩けば再びわんさか咲いている。
観光地化されたツツジ園とは違い、こうした開花の波があった方が、「あっちはもっとゴイスゴイスー!」と一喜一憂できて歩いてても楽しい。
そして山頂方面。
ぜんぶサイコーじゃないか。
前に来た時は真っ白だった気がする。
シロヤシオ大ブレイク
この辺でそろそろ群生も終わりかな?と疑いつつ進むけど、嬉しい裏切りに合う。この繰り返しが単純に面白い。
尾根に出てからずーっと、ずーっとシロヤシオは続く。
YAMAPでは「もう終盤〜」というコメントも多かったけど、そんなこと全然ない。
それに、以前来た時は、近年稀に見るハズレ年だったから、それに比べたらこんな幸せなことはない。
歩いてて思い出したけど、この山は意外とアップダウンを繰り返すんだよね。
登りはいいんだけど、下りで出てくる登り返しの多さのことも考えて体力温存しておかないと。
シロヤシオ越しの山頂。
何度も言いますが、サイコーでゴザル。
いろんなツツジが混ざって咲いててもいいもんだけど、ほんとシロヤシオしかない。
なんでシロヤシオだけが生存競争に勝ったのか。
いや、その逆か。レンゲツツジに負けて標高の高い方へ追いやられたんだろうな。
それはいいとして、シロヤシオにも間違って一輪ぐらい赤い花を咲かせちゃいそうなのがあってもいいのに、そんな間違いをするシロヤシオはいない。
自然の営みがとても整然と、規律にしたがって咲くのが不思議でもある。
構図がいまいちだけど、それなりに撮影を楽しんでるから、ペースはかなり遅め。
空色に映えるシロ。これこそが植生豊かな日本が魅せる多彩な風景だ。
こういうのを季節のめぐりに合わせて見られるのはとても贅沢なことだよ、ほんと。
高原山は一度登ってるけど、そのときはガスまみれになったし、下山してくるおばちゃん達からは
「今年のツツジはハズレもハズレ。大ハズレよ!!」
とバッサリ切り捨てられるという、とにかくドボボーン登山になったから、いつか再訪を待ち望んでいた山だった。
何年も機会を伺ってれば、いつか叶うもんだな。
まあ今日みたいな天気だったらどんな山に登ってもそれなりに楽しめたと思うんだけど。
苔の小さな森。
なだらかな登りだったのに急登になってきた。
標高を上げても衰えることなくわんさか咲いている。
話は変わるけど、先日、上野駅前でバスを待っていると突然、警察による交通整理が始まったから何事かと見てたら、後ろからゆっくりゆっくり神輿を担ぐ団体が現れた。
大都会の道路を1車線通行止めにして進む小さな神輿に、100人ぐらいのお祭り野郎が群がる光景。
そして警察が誘導しながら拡張器で、「はい〜進んでください~」と呼びかける。
なんか残念だなぁと、待ってた都営バスに乗り込んだよ。
都会の人たちはいろんなことで損してる。
よーし、山頂が近づいてきた。
アホの一つ覚えみたいに見飽きない。
ええ、単純なんでね。いや、アホだからかもしれない。どっちでも否定しないけど。
振り返えったあれは、会津駒ヶ岳かな?
基本的に今日は頑張って歩かない。
なにか目に飛び込んでくる物があれば、すぐ上の空な表情を作って立ち止まる。
この上の空で油断しきるという所作が、ストレスまみれのサラリーマンにとってはとても大事なのだよ。
油断しすぎてうんこ漏らしちゃいそうになるぐらいがちょうどよい。
腹が減ってりゃなんでも美味いのと同じで、晴れてりゃどの山に登っても楽しい。
時間が緩やかに流れていくみたいだ。
いや、そんなことも言ってられなくなってきた。
岩がごろごろ、ロープがでてくる。
最後の登りを前にどんどん日差しが強くなってきたけど、それでも風は涼しく、登山をしてて今が最適な季節だなぁと思う。
秋も好きだけどね。
山頂だけシロヤシオが咲いてない((´∀`))ケラケラ
釈迦ヶ岳山頂
新しくなった山頂。
前はこんなガッツポーズしたおじさんの銅像なんて立ってなかったと思うんだけど。
こういうの必要なのかね。まさか石川県の巨大イカのオブジェみたいに、余ったコロナ交付金で作ったわけではないだろう。
釈迦ヶ岳なだけにお釈迦サマは前からいらっしゃる。
これだけでいいのに。
たしか前回は、お釈迦様に土下座してガスを晴らしてくださいとお願いしたんだった。
ちょうど良い岩があれば、すかさず記念撮影に興じてしまうのが浮かれ野郎の習性。
おばちゃん達にシロヤシオは終わったというガセ情報を受けてヘコんだからこそ、いつも以上に浮かれている。
つか、いつもなら山頂では疲れて座り込んでしまうというのに、今日はシロヤシオ効果で疲れ知らずで山頂まで登り詰めてしまったな。
でも安心してください。
この時はまだ元気だっただけだよ。
半額競争に勝ち抜いてゲットした戦利品の数々。
福岡のスーパーだとおつとめ品なんぞむしろ敬遠されるというのに、東京だとゲットするためにシールを貼って回る店員とテールトゥノーズしなきゃならない。
東京で暮らしてる人たちは偉いよ、ほんと。
絶対住みたくない(笑)
下戸なあたしの本日のドリンクは、杏仁豆腐入りいちごミルク。
味覚が小学生のまんま。
甘くてサイコーですたい。
半額のおにぎりを喰らいながら、この清々しい景色を楽しもう。
高原山から眺めるとんでもなく広い関東平野。
遠くに薄っすら見えるのは、筑波山と宝篋山。
宝篋山は小野小町の墓があると聞いて呆れた思い出の山(笑)
すぐ隣には日光連山。
手前のぎざぎざした山は女峰山。その左にどっしり構えるのは男体山。
その反対の右には皇海山、日光白根山。
皇海山のクラシックルートをいつ制覇しに行くか悩む。
隣のピークは鶏頂山。山頂に小屋らしきものが見える。
自分の前を歩いてたハイカーが小屋泊ぐらいの荷物を背負ってたから、ああ、あそこの避難小屋で泊まるんだなぁと思いきや、帰ってから調べてみたら社だった。
その方、釈迦ヶ岳の山頂で普通にご飯食べてたし、ただのトレーニングだったっぽい。
大入道から周回コースでゲッザーン
さて、ゲッザーンする。
しかし、せっかくだから帰りは大入道経由で周回しよう。
下りは見える角度が変わって、新鮮な驚きをもたらしてくれる。
少し陰ってきたけどね。
たまに日が差すと森がキラキラ輝きだす。
結論から言えば、背景が青空でさえあれば、誰でも上手く、しっかりと、完璧に寝るシロヤシオを写真に収めることができる。
試行錯誤してた時間がもったいないぜ。
立ち止まってる風に1枚。
疲れてきたから休憩がてら撮っただけだよ。
そう、疲れてきたんだよ。
この先に見える矢板市最高点の鬼畜な登り返し。
あんなところに行くもんか。
俺は大入道経由で帰るんだ。
ふふっ。
そうそう、こっちこっち。回避、回避〜。
しかし、こっちのルートも剣ヶ峰というピークの登り返しで足を使い果たしてしまい、昇天。
しかも眺望はゼロときたもんだ。
大入道のシロヤシオも楽しむつもりで周回コースにしたのだから、これぐらいの登り返しは耐えるんだ!
耐えろ、俺!
ほれ、見てみ。
すっかりシロヤシオが山を乗っ取って支配している。大入道コースもなかなか見応えある。
しかし、そんな強がりも再び現れた鬼畜な登り返しにゲロ吐く寸前。
分かりにくいけど、真ん中でうずくまっているのが自分。
さすがにここてノックダウン。
ピストンにすればよかった、
ピストンにすればよかった。
(100回繰り返す)。
どうやら登りきったようだね。
どっぱーんと広がる光景は、汗か涙か分からなくなって頬をつたうしょっぱいものの分だけ価値ある景色になった。
苦しくて泣いちゃう。
ベニサラサドウダンツツジ。
しかし、まだ登りは終わっていなかった。
周回コースにするんじゃなかった。
周回コースにするんじゃなかった。
ようやく、大入道に到着。
長かった。YAMAPを見ていると周回で歩いてる人のなんて多いこと。みんな体力あるよなぁ。俺ムリだわー。
レンゲツツジで終焉、いつもの疲労困憊へ
ここからやっと下り。
そして植生がシロヤシオからレンゲツツジへと変わる。
レンゲツツジは終わりに近くてアップに耐えられないけど、遠目に見ればOK。
沢沿いを歩いていたら道迷いした方が急斜面を地すべりさせながら下りてきた。最初熊かと思ってビビったよ。
途中で尾根から谷へ曲がっていくところをそのまま尾根伝いに歩いてしまったんだろうな。
なんにしても事故にならなくてよかった。
6月は森林浴の季節。原生林の森がたまらん。
秩父のウノタワみたいに開けたところに出たら、ちょっと分かりにくいけど大間々台駐車場の方に行ける踏み跡があるよ。
この入り口が標識なくて分かりにくかったから、YAMAPで軌跡ダウンロードしておくことを薦める。
さーて戻ってきた。
総距離12キロ、登り1,000mちょっとでこんなクタクタになるなんて。
最近怠けすぎたなと、ちと反省。
おわり
前に登った山とはとても同じ山と思えない変貌ぶり。
いやぁ、山歩きってこれだからいいね。
そして思ったのは、初めて山登りする人や、まだあまり山歩きをしたことが無いという方なんかが歩いたら、きっと登山の魅力にやられてどっぷりハマってしまうだろうなということ。
山頂からの景色も良かったけど、それはおまけだということが分かれば、自然との向き合うことの楽しみは広がる。
それって、早ければ早いほどいいと思う。
まあ、何が言いたいかと言えば明確な答えは持ってないんだけど、
天気が悪い日は避けるのは当然として、運悪くガスってしまっても旬の山を選べばそれなりに報われる(笑)。
歩いてる過程を楽しめれば登山の魅力は格段に広がる訳で、しかも初めての登山がこんな大当たりに遭遇してしまえばこれほど素敵なことはないだろうと思うわけです、はい。
今回の高原山だけではなく、赤城山のアカヤシオ、九重のミヤマキリシマや秋田駒ヶ岳のチングルマ。
当たり年、それも晴れを引き当てるのは至難の業だけど、もし周りに登山を始めてみたいという人がいる方は、ぜひ猛烈な自然を見せて驚かせてくださいな。
何十年も前の登山ブームに比べれば今の登山人口は少ないんだろうけど、一般的にはあまり名前を聞かない山でも旬を迎えたときの混雑ぶりは今でもすごい。
静かな山歩きも賑やかな山もどちらも好きな自分は、こういう盛り上がりを見るとやはり山を愛する人が多いことに嬉しくなるし、駐車場争いはしんどいけど、将来的にはやはりとてもいいことだと思う。
まあ、そんな訳でカメラの機能に頼ってばかりで結局腕は上がらない山行にはなったけど、感激したでごわす。
ばいび